No/Knows;U

Rifiuto













ようやっと食堂に戻ってきた私たちを兵助たちは笑顔で迎え入れてくれたが、すぐに後ろにいる天女様の姿を見ると、警戒を顕にする。



、それ、どういうこと?」



兵助が天女様から視線をそらさず聞いてくる。他の皆も静かに答えを待っている。



「……彼女、飯塚若菜さん。こことは文明の違うところからやってきたらしく、帰るまで学園で保護することになって。その間の世話役が、私」

「何でがそんなことするんだ」

「くじ引きで決まったから」

「初めまして、飯塚若菜です。しばらくの間お世話になります」



その挨拶に、誰も返事を返さない。まぁ、ある程度の予想はしてたんだけど。警戒するのは当たり前だ。



「……せっかくだから、さっき言ってた仕事について説明しましょうか。どうぞ、座ってください」

「先輩、敬語なんて使わなくていいんですよ?」

「……先輩?」



竹谷が首を傾げる。余談だが、兵助が若菜ちゃんをもの凄く睨んでいるのだけど、それを気にしてない彼女の神経に感心した。肝が据わってるのだろうか。



「あぁ、彼女、私を同姓同名の『』さんだと勘違いしてるみたいで。もう好きにさせようと」

「勘違いじゃないです! 先輩は間違いなく私の尊敬する先輩なんです! 例え先輩がどういうわけか年齢が合わなくたって」

「年齢?」

「彼女の言う『』さんは今19歳らしいよ」

「じゃあ、じゃないだろ」



兵助が不機嫌を隠そうともせず吐き出す。それに苦笑して、懐からシナ先生にいただいたメモ書きを取り出す。



「いいえ。大方、こちらに来たときに何らかの要因で年齢が退行してしまったんでしょう。有り得ない話じゃないです。そうですよね、先輩!」



正解。けど、この子馬鹿だ。そう問いかけられて、私が頷くとでも思ってるのか。こちらの世界に来てからどんな人にだって言ってないのに。



「十分有り得ない話だと思いますよ。つまり、若菜ちゃんは私の身体が縮んだと言いたいんですよね。……物語でも書いてみたらどうですか? 中々面白い設定だと思いますよ」



私は読まないけどね。



「……そうやって躱していくつもりですか? 無駄ですよ。絶対に動かぬ証拠を提示して、認めてもらいますから」

「ちょっと、いい加減に……」



立ち上がりかけたふみや兵助たちを手で制して、目の前の若菜ちゃんに笑いかける。
こちらに私が来たとき、若菜ちゃんのようにあちらの服を来ていたわけじゃないし、そもそも所持品なんてないのだ。



「例えば?」

「先輩がこの世界に来て、最大14年ですよね。でも先輩は平成で19年生きてきたんです。長く生きてきた先の習慣や癖なんてそう簡単には抜けないですよね」



なるほど。確かに。しかも私はこちらにきてたったの4年しか経ってない。無意識の行動はあるだろう。けれど、伊達にここで忍者としての教育を受けてきたわけじゃないのだ。そう簡単にボロなんか出すものか。
若菜ちゃんがわかっているのかどうか知らないが、ここはなんちゃって室町時代。私たちがやってきた世界の過去ではない。自販機やコピー機。自転車だってある。和製英語だって皆使ってる。その中で、明らかにありえない行動を若菜ちゃんに見分けられるのか。私だって境界が曖昧でわからないのに。

若菜ちゃんには悪いが、私は白を切らせてもらう。だから、早く諦めて早々に帰ってほしい。アナタが誰かに迫害される前に。それが私が若菜ちゃんにしてあげられるたった一つの事なんだろう。そのために、どんな酷い事を言うことだって厭わないつもりだ。



「……それは楽しみですね。頑張ってください」

「随分余裕ですね」



本当に訳が分からないかのように首を傾げてみせる。



「余裕、って……別にそんなつもりじゃないですけど。まぁ、どうぞ好きになさればいいと思います。満足いくまで」



どうせ、無理だろうから。だから、本当に。私が庇える内に諦めてほしい。



「……わかりました。先輩がそういうつもりなら、今日は引きましょう。けど、一つだけ。私を天女だと例えられていらっしゃるなら、帰るための羽衣は『先輩』、なんですよ」



そう言って若菜ちゃんは席を立った。小さく、戻ります、と呟いた。



「お一人で大丈夫ですか?」

「道は覚えてますから、大丈夫です」



そうして食堂から出ていった。ため息を一つつく。



「……気に入らない」



兵助が言った。



、随分と優しい態度だったじゃない。あんな、を否定するようなこと言われて……」

「天女様、こちらに来たばかりで混乱してるんでしょ。寂しくてついつい似てるらしい私に重ねてるだけじゃない?」



気になるのは、若菜ちゃんの最後の言葉だ。帰るためには『19歳の』が必要ということになる。帰るためにいくつかの条件がある、と言っていたことだし、それに関係しているとみて間違いないだろう。少し探ってみようか。



だからな」



兵助が真面目な顔して言ってくるから、少し笑ってしまう。



「大丈夫。分かってるよ」

「それならいいんだ」



落ち着いたらしい兵助に、内心安堵のため息をつく。若菜ちゃんが去ってくれて本当に良かった。いつ兵助をはじめとして、みんなの限界がくるか不安だった。
本当、神経すり減る。








                              To be continued......










-----------------------------------------------------------------------------------------
すっごい書き直しまくりました。
穏やかに、穏やかに、と心がけてます。






                           2011/09/11