言わずもがな、私の目的は先輩を連れ戻すことだ。怪しい男が言うには、先輩はこことは違う場所にいるらしい。いわゆる、神隠し状態なのだとか。
先輩を連れ帰るには、色々と条件が揃わなくてはいけない。
第一の条件は、先輩が「帰りたい」と思い、言うことだ。これは何がなんでも揃わなければならない条件らしい。帰るためには気持ちがどうとか、あの男は言っていた。
まぁ、その前に私はまず、先輩を見つけなければいけないのだから。だから忍術学園とかいう忍者の要請学校に着陸したのは幸運な方だと思った。何しろ、様々な情報が集まりそうではないか。人探しには最適だと思われる。
けれど、それ以上に私は幸運だった。
先輩がいたのだ。忍術学園の生徒として在籍していた。そしてもっと幸運なことに、私の世話役という肩書きの監視に、先輩が選ばれた。
最初に顔を見たときに、すぐにわかった。あぁ、先輩だ、と。
「初めまして、天女様。私はと言います。しばらくは私が貴方のお世話させていただくので、何かあれば私に言ってください」
先輩なのは間違いない。私が先輩を間違えるはずがない。どうやら年齢が多少違うようだけど(先輩は自分が今14歳だと言った)。しかも、どうやら私だとわかっていないみたいだ。もしかしたら、記憶がないのかもしれない。だとすれば、中々先輩を連れ帰るのは骨が折れそうだ。
「天女だなんて……そんな事言わないでください、先輩。飯塚若菜ですよ、覚えておりませんか?」
「……先輩? 天女様は17だとお聞きしましたが……」
だから私は、あくまでも彼女を『先輩』として扱うことにした。記憶が無いなら、少しでも早く取り戻してもらえるように。もし、知らないふりをしているのなら、ボロが出てくれるように。
「いいえ。だって先輩は19歳じゃないですか。ですから、私が先輩と呼ぶのはおかしくないですよ、先輩」
先輩はもの凄く怪訝そうな顔をした後、すとん、と無表情になった。先輩の隣に立っている女の子(多分先輩のこの世界での友人ポジションだろう)は不審なものでも見るような目で私を睨んでいる。
「……天女様は、どなたかと間違われているようですね。さぁ、まずはその奇っ怪な衣装を着替えてください。当面は私の着物を着ていてください」
中々、手強そうだ。
⇔
やばいやばいやばい。あの子私のこと気づいてる!!
何のためにこの子がやってきたかはわからないけど、今日の私の最大の不運・不幸はこの子の世話役になったことだ。そしてこの子はやたらと私を『先輩先輩』と呼び、私がボロ出すのを待ってるようだ。いや、気づいてるのかはわからないけど。とにかく、しばらくは慎重に行動する日々が続きそうだ。あぁ、神経すり減るわー。
大体、私はもう決めたのだ。やってきた時ときと同じように、私の意思に関係なく連れ戻されるのは別として、兵助と付き合うと決めた時から、自分から進んで帰ることはしない、と。『平成生まれ、平成育ち。大学生の19歳』は確かに私の人格の根本だけど、『今の』ではないのだ。
「これで、いいですか?」
着物の着方を教えて、着付けたらしい天女様がかけた声に顔を上げる。少し襟元と帯びの位置を直す。
「そうですね。これで大丈夫です。天女様の部屋はここになります。私の部屋はこの部屋のちょうど反対側にありますから、何かあったらそこに来てください。とりあえず、今日は色々あって疲れたでしょうから、休んでてください。夕食はこちらに持ってきましょう。仕事の説明はその時に……」
「あの、先輩」
「……ですから、私はあなたより年下なんですって……」
「私も一緒に行動させてください。その方がいいでしょう? 監視するのに」
「……私が監視も兼ねてる、と?」
「違うんですか?」
正直に言えば、そこは誰からも直接は言われていない。けれど、そういうのも含まれているだろうとは思ってる。そして、思った以上にこの子は自分の置かれてる状況・立場を理解してるらしい。
「……そうですね。じゃあ、食堂にでも行きましょうか。きっと様々な視線が飛んできますけど」
「慣れました。警戒だとかそういうの」
だから、平気です。そう言って目の前の天女様は可笑しそうに笑った。
「あ、でも攻撃されたらどうしよう」
「されませんよ。天女様にそんなことするようなのはいません」
そんなことしたらよっぽどの馬鹿だ。まだ学園は彼女を観察している段階なのだから。鉢屋の言っていた通りだ。
閉めていた障子を開けると、すぐ傍の柱に
ふみが背を預けて立っていた。私と、その後ろに現れた天女様を見て不愉快さを隠そうともせず顔を歪めた。
「……、その人、連れてくの?」
「彼女の希望でね……」
「……ふぅん」
品定めするように天女様を上から下まで見て、聞こえないように私の耳元に口を寄せた。
「……気を付けなさいよ」
「もちろん、そのつもり」
「ならいいのよ」
「どうか、なさったんですか?」
天女様の声に、顔を向ける。
「何でもないですよ、天女様」
「……先輩、その、天女様っていうのやめていただけませんか? 若菜、って呼んでください」
「じゃあ、若菜さん。行きましょうか。ふみ、行こうか」
「さん、もやめてください。あ、ちゃん付けがいいです!」
それは、私に『若菜ちゃん』と呼べというのか。それは、高校時代に私が彼女をそう呼んでいた呼称で。
けれど拒否する理由もないので、頷いておく。
「……私、彼女のこと好きになれそうにないわ」
ポツリと漏らしたふみの言葉に、同じことを兵助たちも言いそうだ、と思った。
To be continued......
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久々知出てない。次、次出ます。
天女の名前は飯塚若菜です。変換不可。命名は適当です。
2011/0911
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