今日、私はとても不運であったと思う。朝、起きたらまず、箪笥に足の小指をぶつけた。次、授業中には忘れ物をして先生に叱られるし。資料を運べば、転けてプリントを盛大に散蒔くし。
「……で、極めつけはコレですか……」
昼食時、たまたま時間が合い、
兵助達と一緒になった。今日のメニューは天ぷらうどんだ。
今日の午前中までにあった不幸を午後では清算しよう、と気持ちを切り替えていたというのに。手には切れた髪紐が横たわっている。
「あらら……髪紐切れちゃったの?」
「もう、本当にヤダ……私が何したってんだよ……」
うどんを食べるには、解けてしまった髪は邪魔だ。今、髪紐の代わりを持っていない。部屋にもない。そもそも、私はそんなに多く髪紐を持っていないのだ。今切れたのだって、忍術学園に入学する際、お祝いにと清水夫妻に戴いたものだった。
「……寿命かなぁ……」
結構大事に扱っていたっていうのに。
「ずっとそれを使ってるわよね」
「私、これでもものすごく物持ちがいいんです。……それしか持ってないとも言えるけど……。今日授業終わったら町に行って適当に買ってくる。ふみ、髪紐貸して」
「えぇ。今日のに貸したら髪紐切れそう。不運っていうか、不吉って感じだし」
「私そんなに言われる程かなぁ!!」
髪を適当に後ろに持っていく。
「、これ使って」
すい、と横から出された手に、濃い紅の紐がのっていた。
「兵助?」
「俺ので申し訳ないけど、これ結構丈夫だから……安心して使って」
「ありがと……」
「授業終わったら、門のところで待ち合わせでいい?」
「え?」
「髪紐買いに行くんだろ? 俺に選ばせて」
「え、でも」
「いいだろ?」
ニッコリと笑顔で顔を覗き込まれる。本当に、兵助のこういう顔は心臓に悪い。
「も、もちろんです」
「よかった」
最近のパターンとして、兵助の笑顔に押し切られるのが常になってしまった。
兵助から借りた髪紐で髪をまとめあげる。もう、次の授業の時間が迫ってきている。
「じゃあ、後でな」
兵助たちが先に食堂から出ていく。
「デートね」
「あ、そうですね……」
食器を片付けて教室に向かう。
次の授業では特に不運に見舞われることなく、私の気分は向上した。
装束を着替えて門に向かう。先に兵助が待っていて、小松田さんと話をしていた。
「おまたせ」
「いや。じゃあ、行こっか」
出門表にサインをしようとしたところで、キーン、と耳鳴りがした。思わず耳をふさいだ途端、グラウンドの方が俄に騒がしくなった。兵助と顔を見合わせる。
「……兵助」
「……あぁ、行ってみようか」
小松田さんも一緒になってグラウンドへ向かって走り出す。上空を見上げると、信じられないものが落ちてきていた。人だ。かなりの速度だ。このままだと地面に直撃して御陀仏だ。とても人が受け止められるとも思えない。
グラウンドに着けば、元々遊んでいたであろう忍たま・くのたまが一斉になって落ちてくる人を見上げて呆然としている。
このままではいけない、と落下地点に走る。後ろから、兵助が慌てて叫んだ。
「!! 迂闊に近づくな!!」
全くだ。落下地点に着いてから気づいた。しかもこの速度じゃ受け止められるはずもなく、私が下敷きになってぺしゃんこになるのがオチだ。為すすべもなく上を見上げていると、腕を引かれる。兵助だ。
「ここから離れるんだ」
「でも、」
「不審人物だぞ!」
そんなことはわかってる。けれど。
もう、地面に激突する、というところで、落下していた人物の速度が弱まり、まるで紙が落ちてくるかのような速さになる。一瞬、飛行石でも持ってるんじゃないか・どこのラピュタだ、と思ったくらいだ。
「……天女、か……?」
集団のどこからかそんな声がする。それに合わせて、特に上級生たちの警戒が強まった。
ようやくしっかりと目視できる距離になって、私は息をのんだ。そして、受け止めるために手を伸ばす。この速度なら大丈夫だろう。
兵助が再三、やめるよう腕を押さえつけようとするのを遮って、その人物を受け止めた。重い。急に腕に負荷が掛かり、地面に膝を付く。そのまま、受け止めた身体を地面に下ろした。
なんてことだ。
「、もういいだろ。後は先生方に任せるんだ」
ぐいぐいと身体を引かれ、集団の中に戻される。横たえた身体を、先生方が囲み、保健室の方へ連れていくのが見えた。
なんてことだ。こんなことがあってたまるか。
あの人物は。
あの子が来ていたのは、私が通っていた高校の制服で、あの子は。私の記憶が間違いでなければ。
私の後輩だ。
To be continued......
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天女がやってきました。よかった。
2011/09/11
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