10.Truth is always strange, stranger than fiction.






「馬鹿だろ。お前一体いくつなんだよ?」



現在地、保健室。体温計の表示は、38.6。数字というのは、本当に説得力があるようで、認識した途端一気に具合が悪くなった。
ケマトメ先輩曰く、私はいつにも増してテンションが高くあまりにも不気味だったので、(頭が)心配になって保健室に引っ張ってきたそうだ。なんともないですよ、という言葉は聞き入れられす、善法寺先輩に渡された体温計で測ってみて……まぁ、そういうことなんだけど。



「知恵熱ってお前……3歳児じゃねーんだから」



善法寺先輩曰く、悩みすぎによる熱、だそうで。
3日前、突然の兵助の告白によって解決したと思われたソレは、3日後に熱という形で現れたようだ。筋肉痛じゃあないんだから。



「ほらほらちゃん、横になって。留三郎、そこの毛布掛けてあげてー」



現在、善法寺先輩は解熱剤を煎じてくださっている。それを飲むまでここにいろとのお達しだ。飲んだらくのたま長屋に強制送還なんだけど。まぁ、逆らうつもりもない。
ケマトメ先輩が食堂からもらってきた林檎を手にした。



「薬飲む前に何か胃に入れといたほうがいいだろ。リンゴでいいな?」

「……うさぎさんカットでお願いします」

「あ、ねぇ。一応咳止めも出しておこうか?」

「え、でもこれ風邪なんですか?」

「いやぁ、ちゃんのことだからこのまま風邪に移行するんじゃないかと思って」

「……否定できませんね、悲しいことに!」



ケマトメ先輩は相変わらずの器用な包丁使いで、林檎はみるみる内にうさぎさんへと変貌を遂げた。



「ほらよ」

「ありがとうございます。……惚れ惚れするようなうさぎですね。食べるのがもったいないです」

「言ってることと行動が一致してねーぞ。遠慮なく食ってんじゃねーか」



もそもそと林檎を食べていると、控えめに障子が開いた。顔を覗かせたのは、同室のふみだった。



「すいません。が熱を出したと聞いて、迎えに来たんですけど……」

「あれ、一人かい? 困ったなぁ、ふみちゃん、ちゃん運べる?」

「いえ。無理です。なので運ぶ人連れてきました」



あっさりと言い切ったふみは体をずらし、奥にいる人の姿が見えるようにした。



「……、大丈夫か?」

「あぁ、久々知かぁ! 適任だね!!」



よかったよかったと善法寺先輩は笑っている。ケマトメ先輩に至っては、「俺が運ぶことにならなくてよかった」なんて言ってやがる。そんなに嫌か。あ、しかも林檎食ってるし。



「熱出したって聞いて……起き上がってて平気なのか?」

「……平気です。だからあんまり顔を近づけないでほしい、かな」



部屋に入った兵助はまっすぐ私の傍に寄ってきて、傍らに座って私を覗き込んだ。手を額に当てて熱を確認することも忘れずに。



「へーすけだけでくのたま長屋に行くのは危険だから、私が道先案内人ね」

「っていうか。私歩けます」

、無理するな……」

「いや、してないって」

「でもちゃんこれから薬飲むよね?」



はい、と差し出された薬椀を見て、今までの記憶が思い出された。善法寺先輩の、というか保健室の薬を飲んで具合が悪くならなかった記憶が本当にない。



「いつも思ってたんですが、薬って今の状況を打開するためのものじゃないんですかね」

「うーん……まぁ、良薬は口に苦し、って言うし。もしかしたらちゃんとは相性が悪いのかもね」



へら、っとした顔で笑う善法寺先輩に軽く殺意を覚える。



「それに、ちゃんは38度も熱あるんだから。自分で思っている以上に体には負担が掛かってるんだよ」



だから大人しく薬を飲んで運ばれてね、と善法寺先輩は兵助の手に椀を押し付けた。





「いや、飲むよ。流石に薬が嫌だとか思うけど言わないから……ただ飲んだ後のこと考えると……」

「大丈夫だ。俺がちゃんとを運ぶから」



そういう問題じゃないんだけどね。諦めて兵助から椀を受け取った。人が飲むものの色をしてないそれに顔が引き攣る。しかし飲まないことには解放してもらえない。仕方なく、一気に煽った。
口の中に何とも言えない味が広がる。まず間違いなく言えるのは、まずい、ということだ。半端なくまずいっていうか。



「吐き気がする……」



兵助が水を差し出してくれる。それをゆっくり飲んだ。



「具合悪い……」

「さ、ちゃんを運んでねー。あ、ふみちゃん、これちゃんの薬ね。ちゃん、ちゃんと暖かくして寝るんだよー」



先輩は一体私を何歳だと思ってるんですか。と言いたいかったけれど、あまりの薬のマズさに口も聞けない。
持ち上げるぞ、と声をかけられ、次の瞬間には身体が浮いた。案外しっかり支えられていて安定している。兵助の左肩に頭を預け、少しでも楽な姿勢をとってみる。あまり変わらないけど、まぁ、気分の問題だ。



「うっわ、。あんたさっきより顔色悪くなってるわよ」



ふみの声に、目を薄く開けて答える。私もそう思ってるよ。薬の意味ないじゃん。


くのたまの敷地内に入ると、一気にくのたまからの視線を受けることになった。ものすごく鬱陶しいが、我慢する。
その内、同級生が驚いたようにやってきた。



アンタ、久々知兵助と付き合ってるって本当だったの?!」



ちょ、話しかけんな。こっちは具合悪いし頭も痛くなってきたんだって。アンタの高い声はまるで超音波だよ。



「……質問は後日、文書にて受け付けるから……本当にマジで今は勘弁してください」

、わざわざそんなことしなくても。……本当だよ。俺とは付き合ってる」



兵助が機嫌よさそうに答える。私を抱き上げる腕に少し力が入った。兵助の発言に、くのたまの下級生はきゃーと嬉しそうな声をあげ、同級生は嫌そうな顔をした。



「……お大事に」



詳しく経緯を話せ、と目が言っている。軽く手を降ってそれに答えた。
ちらり、と前を向く兵助を盗み見た。すぐに気付かれ、柔らかい微笑みが返ってくる。それを見て目を閉じ、再度兵助の肩に頭を預けると、小さく兵助が笑った。








幸運だったのは、いわゆる年齢退行なるものをしていたことだと思う。
おかげで私は、この時代に戸惑うことをあまりしなくてすんだ。

ただしかし、少し……いや大分、冷静すぎた感は否めない。なので、1年2年の頃は周りに溶け込めなくて苦労した。体は子供・頭脳は大人……なんてフレーズが頭をめぐってはため息を漏らしたものだ。笑えない。
某眼鏡の少年は大変な苦を背負っていたのだと、身に沁みて理解した。

全く、笑えない。

19歳……大学2年のある日、目が覚めたら10歳児になって忍者の学校にはいることになってました、だなんて。


けれど、そのおかげで私は好きな人ができたし、その人と付き合うことが出来る。



「……Truth is always strange, stranger than fiction.ってね」

「? 何か言ったか?」

「んーん、何にも」



私の物語は、誰も知らない。






                          END
                          →→NEXT STAGE......







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下級生が嬉しそうに声を挙げたのは、話のネタが出来たから。


これで、『Nobody Knows:』は終了です。次からは第二幕と称して、続編を始める予定です。
そちらの方もどうぞよろしくお願いします。






                       2011/09/06