06.It is as hard to see one's self as to look backwards without turning around.
先輩たちに相談しよう・と思ったきっかけは、不破ちゃんだった。図書室で、兵助に対する不可解な感情が一体何なのか調べていた時、たまたま当番として座っていたのが不破ちゃんだった。
不可解な感情を、深く理解することは危険だとわかっているが、いつまでも挙動不審ではいられない。いつそのことについて聞かれるか分かったもんじゃないし、聞かれても明確な答えが返せないのは非常に困る。
調べていたとき、自分では気付かなかったが、鬼気迫る顔をしており、特に下級生が怯えて去っていっていたらしく、あまりの迫力に不破ちゃんは心配になって声をかけてくれたのだ・と本人から聞いた。
「どうしたの? やっぱり最近、悩んでるよね?」
僕も迷い癖があるから説得力はないかと思うんだけど、と前置きして、不破ちゃんは続けた。
「自分じゃ解決できないような悩みって多かれ少なかれあるとは思う。けど、それをいつまでも溜め込んでると、身体を悪くしてしまうよ。誰か第三者の意見を聞くっていうのも解決の方法だよ。僕だってもちろんちゃんの相談に乗るし、他の皆だって協力してくれるさ。僕たちじゃなくて、他の人でもいい。そりゃあ絶対的な解決に繋がるとは限らないけど、楽になることだってあるよ」
皆心配してるんだ、と言って苦笑した不破ちゃんに、あの時私は申し訳ない気持ちで一杯だった。こんなに、こんなに親身になって話をしてくれる人たちを自分から遠ざけている事実が本当に恥ずかしい。
「本当に、無理はしないようにね。兵助なんて、最近口を開けばちゃんの心配ばかりしてるんだから」
「……そんなに、心配かけさせちゃって……申し訳無いなぁ……。ありがとう、心配してくれて。兵助にも言っておいて」
「いいんだ。心配くらいさせてよ。いつでも相談に乗るからね」
その言葉にありがとう、と返して、私はくのたま長屋に戻る道を急いだ。
途中で、委員会活動であひるさんボートを修繕している後ろ姿を見かけて、思い立ったのだ。
この悩みは間違っても不破ちゃんには話せない。不破ちゃんだけじゃない、勘ちゃんたちにだって、特に兵助には無理だ。ふみにだって話せるはずがない。けど、ケマトメ先輩はどうだ。
ある程度の事情を知っていて、尚且つ彼らと接触が少ない。兄貴肌で、実際私も兄として慕っているし、あちらも私を妹分として面倒を見てくれている。しかもケマト先輩と同室である善法寺先輩とも1年からお世話になっているし、そう考えると相談相手にピッタリじゃないのか。
あぁ、あぁ、そうだよ! 不破君の言うとおりだ。私だけじゃ身動きが取れなくなってしまう。そんな時は何でもいいから手助けを貰うべきだ。It is as hard to see one's self as to look backwards without turning around.そう、いつだって自分を見つめるというのは中々出来ないんだから。
ケマトメ先輩たちに相談しよう。
こうして、次の日に保健室へと足を運び、約束を取り付けたのだ。ふみや兵助たちには秘密にして。
⇔
授業のない学園の朝。昨晩、
「明日授業がない。しかも、休み明け提出の課題もない!! となれば、もうこれは寝て寝てまた寝て寝倒すしかない!!」
私は朝の幸せな惰眠を貪ります! とふみは宣言したとおり、今も布団の中でぴくりとも動かない。ちなみに、私は今日出かけることを伝えてはいるし、言ったとき、「それでも私は寝ています」と言われている。
着替えて食堂に行けば、ちょうどケマトメ先輩が席についていた。休みだからなのか、それとも朝早いからなのか食堂に人はほとんどいない。
「おはようございます、ケマトメ先輩」
「おはよう。お前のことだからまだ寝てるかと思ったんだが」
確かに、通常授業がある日でも私はこの時間帯はまだ布団の中だ。そもそも私は朝に弱い。低血圧であるというのも手伝っているのかもしれない。
「先輩方をお待たせするのは悪いと思ったので、早く起きたんです。……正直まだ眠いですよ」
食堂のおばちゃんに、いつもの朝ごはんセットを頼み、ケマトメ先輩の向かいに座る。
「善法寺先輩は?」
「薬草摘みに行ってる。あいつ、普段から朝早いんだよ。朝にしか咲かないのとかあるから」
「なるほど」
眠くて、正直まだ朝ごはんを食べる気にならない。けど、ケマトメ先輩に、さっさと食っちまえ、と言われ、渋々熱い味噌汁を飲んだ。熱い。舌がひりひりする。
「……?」
しばらく黙って朝食を食べてると、入口から、兵助たちがやってきた。みんないる。と、いうことは普段からこの時間に食べているということだろうか。
「……おはよう、みんな」
「あっれー、初めてだよね、こんな時間に会うのなんて」
朝だというのに、普段と変わらないテンションの勘ちゃんに驚く。
「おはようございます、食満留三郎先輩」
「あぁ、久々知兵助か。おはよう。休日だってのに、朝早いな」
「先輩こそ、いつもと同じ時間じゃないですか」
二人の会話に、普段からこの時間で食べていたことを知る。なんなんだこの人たちは。早起きは三文の得ってことですか。私には無理ですけど。朝の幸せな惰眠の方が重要ですし、ね。
「おいコラ、さっきから箸進んでねーぞ。冷めるだろうが」
「……冷ましてるんですよ……」
箸が止まってたことに気付かなかった。苦し紛れに言えば、馬鹿だろ、とケマトメ先輩に笑われる。悔しいがここで手を挙げるわけにいかないので、我慢する。
「、どっか行くのか?」
竹谷の質問に、わずかに肩が跳ねる。今日、確かに出かけるが、ケマトメ先輩方に相談するのが目的だというのは言う訳にいかない。けど、何かの拍子にぽろりと自分から洩らしてしまいそうだ。
「うん、まぁね」
「あぁ、俺と伊作とこいつで、町に新しく出来た、っつう水茶屋に行くんだよ。なんでもそこの甘味が美味いらしくてな。せっかくだからこいつも連れてってやろうと」
ケマトメ先輩が察してくれて、助け舟を出してくれた。本当にこの人いい先輩すぎる。
「へぇ、そうなんですか。食満先輩とは本当に仲がいいんですね」
「……あぁ、まぁな。俺にとっちゃこいつは妹みたいなもんだからな」
少し空いた間が気になる、がしかし、今は何も言わないでおくのが一番懸命だ。
「ほら、さっさと食え。置いてくぞ」
「え、待ってよお兄ちゃん」
自分で言っておいてなんだが、寒気がした。
「……訂正。待ってよ兄さん!」
「先行ってるからな」
「ええええええええええ」
あぁ、うんこれだ。と思った瞬間、ケマトメ先輩は人を馬鹿にしたような顔で私を見た。そして食堂から出ていった。
「本当に置いてった!! ちょ、ケマトメ先輩!」
先を行くケマトメ先輩の背中を追うべく、私は急いで朝食をかき込み、案の定むせた。
To be continued......
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あれ、おかしい。この話で相談場面まで行く予定だったのに。
にしてもそろそろ英語の格言が難しくなってきました。……中々見つからないです。いい感じに短文で話にあってるやつ。難しい。
それと、拍手で『feat.久々知兵助』についてのお問い合わせが多くて……いや有難いです。でも本当に大したものじゃないんですけどね。
拍手返信にてお答えはしてるんですが、見てなかったら意味ないので、一応この場を借りて答えさせていただきます。けど、もし自力で見つけたい方がいたら、それはその方の意思を尊重したいので、反転させておきますね。
↓以下反転↓
各話の中で、一番最初に出てくる『久々知兵助』をクリック
↑反転ここまで↑
まぁ、非常に単純なんです。
拍手での応援メッセージ、本当にありがとうございました。おかげで更新意欲がめきめき湧いてきてます。
2011/09/02