04.It's in your moments of decision that your destiny is shaped.







人生は、重要な選択肢の連続だ。そんな言葉が大塚芳忠ボイスによって頭の中で再生される。





あぁあの時こうすればよかった、なんてのは今はどうでもいい。そんな後悔はするだけ無駄だ。とか言いつつ、昨日はどうしてこんなことになったのか過去を振り返ってみてたんだけど。でも結局答えは見つからなかった。
もう、どうしようもないんだろう。重要なのは、これからどうやって行動するかだ。
何とか。
何とか恋愛沙汰は回避しなくては。久々知兵助君には大変申し訳ないと思う。いや、本当に。ありがとう。何かよくわかんないけど、私のこと好きになってくれて。けど私はあなたのその気持ちに応えてあげられるような強靭な精神は持ち合わせていないんだ。いやもう、本当にごめんなさい。



「それは私じゃなくて、久々知君本人に言うべき台詞よね。私に言ってどうするの」

「いやもう……仰るとおりです……」



くのたま長屋のふみの部屋。わざわざ町に行って献上品の団子を買ってこさせられた。



「大体、そこまで嫌がる理由がわかんない。久々知君が嫌いって訳でもなし……恋愛が嫌だってパターン?」

「うぅ……そういうことになるんだろうか……。何か、恋愛してる自分を想像すると気持ち悪くなる……ような?」

「聞くな」



本当のところは、やっぱりキャラに関わりたくない、だ。けど、これは真剣に気持ちを向けてくれてる人に対して非常に失礼な理由だ。だってあっちは自分が『キャラ』だと知らないんだし。というか、元々この理由は私が『忍たま』に関わりたくない・面倒ごとは嫌だと思ったからのものであって、『久々知兵助』を遠ざけるためのものではない。だから一生懸命理由を探している。



「いいじゃん。久々知君。大丈夫。私はのこと気持ち悪いなんて思ったりしないから」



まさか裏で、私が何かしらの理由を模索しているなんてふみは思ってない。
まぁ、年齢退行なんてしてる時点で、誰とも共有できない所が根付くのはしょうがないかと、2年生の時に諦めた。やっぱり寂しいんだけど。
なまじ19歳までの記憶があるから、今の状況に置かれている自分を、新しい人生として見ることもできない。死んだ、っていう感覚があったわけでもないので。だから私は、忍術学園にいながら、あたかも平成の世に生きていた『:19歳』として過ごしているつもり。何ともおかしな話だ。



「ていうかね、それ、本人に言えば? 何らかのアクションあるでしょ。ここでうだうだやってるよりいいんじゃない?」



それはもう考えたし、実行に移そうとした。けど、実際に久々知君と相対すると言えないのだ。だって、私の考えた建前は受け入れる側の忍耐によって呆気なく解消されてしまうからだ。
ふみが言っていたように、「俺は気にしないよ」だとか「待つよ」みたいな言葉で、それ以上私は何も言い返せなくなる。こんな私の中で矛盾しているような建前が、久々知君の本気に対抗なんて出来ない。

気にしすぎ、と言えばそういう気もする。
19歳のとくのたま5年ので上手く折り合いをつけられれば……。It's in your moments of decision that your destiny is shaped.決意出来ないんですよ。臆病だから。こちらの世界を選んだ結果、いつかまた平成に戻ることができたとき、私は生きられない。
何でこう、選択って厄介なんだろう。



そして、何より一番嫌だと思うのは、このままだと久々知君の本気に負けて、気持ちが久々知君に向きそうなことだ。
だって、好きだと示してくれる人を好意的に見るのは当たり前でしょ? けれど、私はこの重要な選択を人によって左右させることはしたくない。人によって進路を決めたくない。



「久々知君だけじゃなく、勘ちゃん達に対する壁、っていうの? それももう少し何とかしなさいよ。アンタその年で人見知りしてんの?」

「いやもう、お恥ずかしい話です……」



もう何だか色々なことが降りかかりすぎて、身動きが取れなくなってしまいそうだ。
私は今、何を一体どうしたいのだろう。それをふみに聞いたら、綺麗な顔で微笑まれるだけだった。

















































さん、箸、止まってるけど……考え事?」



数日前の話になる。
宿題を教えてもらってから、夕食は久々知君達と一緒になるようになった。元々ふみと尾浜君は幼馴染だし、双方とも仲良くなるのは早かった。まぁ、私の方に壁があるのは否定しない。わざと作ってる意識はあるし、ふみにも指摘された。
5年生とよく一緒になるようになってから、彼らを『キャラ』として見ることに疑問を感じるようになった。彼らはとてもいい人達だ。ただ『キャラ』だからと、そういう線を引いて遠ざかろうとする自分が恥ずかしい。久々知君の向けてくれる笑顔を見ると泣きたくなる。



「え? あ、いや……ぼーっとしてたみたい」

「具合が悪いとか……」

「は、ないよ。ありがとう」



隣に座っていた久々知君が心配したように声をかけてくれる。目の前に座ってご飯を食べていたふみが箸を置いて両手を大仰に広げた。左手が隣にいた尾浜君に激突した。



「ぱんぱかぱーん! 御園ふみプレゼンツ☆お悩み相談室〜〜どんどんぱふぱふっ」



文句を言おうとしていた尾浜君も固まった。



「さぁ!! 親友の私に打ち明けちゃいなさい!! 今なら私が森本の三色串団子で手を打ってあげよう!」

「……突っ込みどころは沢山あるんだけど、まず。お代取るんだ?」

「こちとら慈善事業ってわけじゃあないんですよ、お客さん」

「親友って言ってんなら慈善で請け負えよ」

「っていうか今日夢で出てきてさぁ、食べたくなっちゃってっ」



ふみ曰く、私の悩みと森本の三色串団子は同等である・というわけですか。



「というか。別に私悩んでるなんて言ってない」

「え。だってアンタ、授業中もぼけーっとアホ面してたわよ。休み時間も、『あ、カラス』なんて言ってたし」

「そんな台詞言った覚えないんだけど」

「それほど悩んでたってことで」



悩むっていうか、本当にぼんやりしてただけじゃないの。「あ、カラス」って悩んでる時の典型的台詞ではなかったような気がする。いや、正直言えば悩みはある。悩み、と言っていいのか少し迷うところはあるが、考え事という点ではそうなんだろう。さっきからずっと考えてることだ。
だって、みんなといるとその感覚が湧いてくるから考えずにいられない、と言いますか。



「まぁ、ふみのお悩み相談室はまた別としてさ。兵助も言ってたけど、ホント、動き止まってたよ。何かあったのかなーくらいは思ったし」



ちらりと横に視線をやれば、久々知君は頷いた。



「じゃあ、ぼーっと考え事してたんだね、私。独り言とか言ってなかった?」

「いや、それはなかったけど。俺で良ければ相談に乗るよ?」



いやいや、久々知君に相談とか。貴方に会うたび罪悪感と何かよく分からない感情が押し寄せてきて泣きたくなるんで困ってるんです、なんて言えるか。あ、れ。何かよくわかんない感情ってなんだ? あ、いや。駄目だ。これを深く掘り下げたらいけない気がする。



「ありがとう。でも本当に、大したことないんだよ。ね、ふみ。前に柏餅の柏の必要性について考えたときも確か、3日くらい議論したじゃない。今回の考え事もあんな感じのだから」

「あぁ、柏餅ね……。結局柏は必要だってことで落ち着いたんだっけ。何よ、今回は一人でそんな楽しいこと考えてたわけ? 教えなさいよ!!」

「えぇ? でもこれ言っちゃったら、不破君がもの凄い考え込んじゃうんじゃないかなぁ、って思うと気が引けるよ」

さん、酷いなぁ」

「あ、こ、これは不破君を気遣ったが故の……」

「雷蔵、さんを困らせるなよ」

「出たよ、兵助の贔屓」

「そんなんじゃない」



よし。
何とか、逸らせた。と、いうか。この人たちは優しいから、話題を逸らさせてくれたんだろうけど。本当に、いい人たちだ。罪悪感ばかりが募ってくる。



どうしようもなく、誰かの後押しが欲しい。けれど、それをしてくれるような存在がいないのが口惜しい。




心配そうに伺ってくれている久々知君に、平気だと笑い返すのが精一杯だ。











                            To be continued




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御園ふみ(変換不可)は主人公の友人です。苗字はこの話書きながら決めました。登場人物達と同じように、尼崎市の地名から。
被ってないよね、とちょっとビクついいてます。でも確認する気はない。

まぁ、書いててこの主人公うっぜぇなーとか思ってました。
人間悩むよしょうがないよ、と心を落ち着かせてくださいね、皆さんは。






                             2011/08/28