It's in your moments of decision that your destiny is shaped";feat.久々知兵助











宿題を教えてから、夕食はさんと取るようになった。他のメンバーが快く時間をずらすことを了承してくれたからだ。そもそもの発案は三郎なんだけど。
さん達も、俺たちの到着を待ってくれているあたり、一緒に食べるものだと考えてくれている・ということだろう。嬉しすぎる。

今日も、いつものようにさんの右隣に座る。今日の実技実習の賭けの景品の冷奴を八から貰う。さんは前に座っている御園さんに煮魚を押し付けていた。さんは魚が得意ではないそうだ。



「ちょっと、! なんでこれを頼んだの!!」

「だって今日暑かったんだもん。冷奴が食べたくなったってしょうがないじゃん!」

「魚も食べろよ」

「嫌。魚食べたら私死んじゃう。ふみは私が死ねばいいと思ってるんだ」

「ち、大袈裟な」

「あれれー? 3日前の茄子の漬物食べてあげたの誰だったかなぁ?」

「わぁ、美味しそうな煮魚っ! 私今日魚気分だったんだ! さっすが、わかってるぅ」

「でしょー? だと思ってっ」



こんなやりとりもしょっちゅうだ。まぁ、今回の煮魚は最終的に八のところに落ち着きそうだ。前にさんは笑いながら「嫌いなものの処理が楽になった」と言っていた。
しばらく、いつものようにその日の授業であったことなどを話しながら食べていた。けれど、違和感を感じて、さんを伺った。
じ、っとお盆の外を見て固まっている。



さん、箸、止まってるけど……考え事?」



声をかけると、さんが少し震えた。



「え? あ、いや……ぼーっとしてたみたい」

「具合が悪いとか……」

「は、ないよ。ありがとう」



どうしたのか、何か悩み事だろうか。昨日はこんな感じじゃなかったんだけど。心配だ。
斜め前から、カラン、と軽快な音がしたので、思わず目線をやると、御園さんの左手が勘右衛門に激突して、味噌汁を飲んでいた勘右衛門はむせた。すかさず三郎が水を差し出す。



「ぱんぱかぱーん! 御園ふみプレゼンツ☆お悩み相談室〜〜どんどんぱふぱふっ」



さんがため息をついたのが聞こえた。



「さぁ!! 親友の私に打ち明けちゃいなさい!! 今なら私が森本の三色串団子で手を打ってあげよう!」



お代を取るのか。
それなら、俺が相談に乗る。もちろん無償で。さんのためなら、時間だって作る。



「……突っ込みどころは沢山あるんだけど、まず。お代取るんだ?」

「こちとら慈善事業ってわけじゃあないんですよ、お客さん」

「親友って言ってんなら慈善で請け負えよ」

「っていうか今日夢で出てきてさぁ、食べたくなっちゃってっ」

「というか。別に私悩んでるなんて言ってない」

「え。だってアンタ、授業中もぼけーっとアホ面してたわよ。休み時間も、『あ、カラス』なんて言ってたし」

「そんな台詞言った覚えないんだけど」

「それほど悩んでたってことで」



まぁ、言った台詞に関しては十割嘘だろう。けれど、授業中もずっと考え事していたのは、そうなんだろう。そして、その悩みや考え事を誰かに相談する気は……残念ながら、無いんだろう。
彼女は、たまに遠くを思うような目をすることがある。それはほんの一瞬で、本人は気づいていない。最初は里に想い人でもいるのかと焦ったが、そうではないようなので、そこは安心した。



「まぁ、ふみのお悩み相談室はまた別としてさ。兵助も言ってたけど、ホント、動き止まってたよ。何かあったのかなーくらいは思ったし」



勘右衛門の言葉に頷く。少しでもいい。話してくれれば。共有できればいい。



「じゃあ、ぼーっと考え事してたんだね、私。独り言とか言ってなかった?」

「いや、それはなかったけど。俺で良ければ相談に乗るよ?」

「ありがとう。でも本当に、大したことないんだよ」



そう言って彼女は微笑んだ。




「ね、ふみ。前に柏餅の柏の必要性について考えたときも確か、3日くらい議論したじゃない。今回の考え事もあんな感じのだから」

「あぁ、柏餅ね……。結局柏は必要だってことで落ち着いたんだっけ。何よ、今回は一人でそんな楽しいこと考えてたわけ? 教えなさいよ!!」

「えぇ? でもこれ言っちゃったら、不破君がもの凄い考え込んじゃうんじゃないかなぁ、って思うと気が引けるよ」

さん、酷いなぁ」



あぁ、やっぱりダメなんだな。とちょっとだけ落胆する。彼女は、話を逸らそうとするとき、言い回しが柔らかくなる傾向がある。普段の彼女の口調に慣れるとすぐに分かる。だから雷蔵はそれに乗っかった。



「あ、こ、これは不破君を気遣ったが故の……」

「雷蔵、さんを困らせるなよ」

「出たよ、兵助の贔屓」

「そんなんじゃない」



だから俺も、三郎もみんな、気付かないふりをして話題を別の方に持っていく。けれど、やっぱりさんの様子が気になる。
黙って伺うと、小さく笑い返してくる。
さん。気づいてないだろうけど、その顔は笑顔じゃない。俺には助けを求めているような顔にしか見えないよ。










                                 END