03.Leave nothing for tomorrow which can be done today.














Leave nothing for tomorrow which can be done today.ならば、出来ない場合はどうしたらいい?














「あれ、ふみ。いつも一緒にいる……さん、だっけ? は一緒じゃないの?」

「あぁ、ね……。どっかに転がって不貞寝してると思うわ」



五年ろ組・尾浜勘右衛門は、いつものメンバーと食堂に入ると、くのたまの幼馴染を発見した。しかし、幼馴染の親友とも呼ぶべきくのたまの姿が見えず、隣に立っている友人の気が少し揺らいだのを感じ苦笑した。問いかけてみても、幼馴染からは不明瞭な答えしか来なかった。
そわそわとしている、友人・久々知兵助の着物を少し引っ張って大人しくさせる。



「どういうこと?」

「今日出された宿題を見た途端、『絶望した!!』とか叫んで消えたの」

「は?」

「ねー、訳分かんないよねぇ」



そう言いながらも、幼馴染は涼しい顔で夕食を食べている。



「今回出された宿題、個人で違うんだけど、の様子からすればきっと、算術的なものだと思うけど」

「苦手なの?」

「苦手なんてもんじゃないわよ。二桁の掛け算の暗算、2分はかかるし、1・2年の内容だって危ういわよ」

「それは……」

「座学はまだいいんですって。でも、実践で崖の高さとか求められないし。もちろん、時間かければ出来るんだけど」



つまり、頭の中で考えることは苦手、なのだろう。



、どこまでも理詰めな性格してるくせにねぇ……。先生方もそこ心配してらっしゃるし」



兵助が今にも食堂を飛び出して行きそうで、ハチや雷蔵が一生懸命止めようとしているけれど、そろそろ時間の問題だろう。それを見た幼馴染が笑った。あ、嫌な予感。



「まぁ、なら裏庭の2番目に大きな木の下にいるんじゃないかしら」



あぁ、ほらね。やっぱり。
それを聞いた兵助は一瞬で姿を消した。鉢屋が溜め息をついた。
今日、一度もさんの姿を見ていない・と兵助は零していた。だからわざわざいるであろう時間帯に食堂にやってきた。俺の幼馴染はいたが、兵助の目的のさんはいなかった。



「やっぱり。久々知君っての事好きだよね」

「わかっちゃう?」

「見ればね。気付いてないのはくらい」



諦めた俺達は定食を注文すると、同じテーブルについた。



「へぇ、さんって、鈍感?」

「そういう訳じゃないけど。……もしかしたら気付いてるかもしれないけど、知らないふりしてるかもしれないし」

「何で?」

「分からないよ、そんなの。ただ……1年の頃から、忍たまに関わりあいになるの嫌がってはいたけど」

「そうなの?」

「うん。何かと理由をつけて忍たま長屋や教室に行かないようにしてるし、この時間帯に食堂に来るのだってそう。ほら、この時間って一番人いないのよ」



おかげで私一人でもこの時間に来ちゃうようになったわ。
知らないふりをされてるとしたら、兵助、これは手強いぞ。心の中でエールを送る。そして、さんには、ご愁傷様、と拝んでおく。



も可哀想に」



同じことを考えただろう幼馴染に、苦笑するしかない。



「最初、久々知君に気付いた時は邪魔しようとしたのよ。親友取られたくないし。でもねぇ」

「そんなことしたら……」

「私、最悪殺されちゃうでしょ」



全くだ。
いや、流石に兵助もそこまではしないだろうと信じてる。
兵助は真面目で、しかも一途だ。けれど、"良い子"ではない。模範的な生徒であることは確かだ。後輩に対し、頼れる先輩だろう。けれど。



、逃げられないだろうなぁ」



ちらり、と幼馴染が俺達を見る。ハチが肩をすくめ、雷蔵は苦笑い。鉢屋は口元を少し釣り上げた。



「俺達は、それでも、兵助の味方だから」

が泣かないならいいかなぁ、私は」



応援してるわけじゃないんだけど、と彼女は肩をすくめた。

















































何だか、名前を呼ばれた気がして横にしていた身体を起こす。寝ている間に、外は暗くなってきていた。
周りを窺っていると、目の前に人が降り立った。


「……最近、よく会うよね」

さん、こんなところで何してんの?」



呟いた声は届かなかったらしい。目線を合わせてきた久々知兵助を眺める。感情の読みとれない目というか、真っすぐすぎる目に、俯いた。



「よく、こんなところまで来たね。ここ、あまり人が来ないから気に入りだったんだけど」

さんの友達が言ってた。ここにいるって」

「……あれ、じゃあ私に用があるの?」



しばらく久々知君は考えるような仕草をしてから、私の腕をとって徐に歩きはじめた。



「とりあえず、食堂に行こう。さん、夕食まだだろ?」

「え、あ、うん……そうだけど」



あんまり行きたくない。
気持ちが出ているのか、足が重い。



「どうしてこんなところに?」

「いや……別に……」

「課題、出たんだって?」



何だ。そんなことまで言ったのか、ふみは。もう少し、個人情報の保護っていうか、あんまり人の知られたくない・苦手なものって黙っておくべきだと思うんだけど。笑われるじゃない。
恥ずかしいのはもちろんだけど、今一番気に掛けなくてはいけないのは、私の腕を引っ張っている男についてだ。久々知兵助が私をわざわざ迎えに来る訳が解らない。最近、よく会い、話すようになった。まぁ、友人と言ってもいいかもしれない。私はなりたくなんてなかったんだけど、でも私が気をつけて行動すればいいだけの話だし、何より親友の幼馴染がキャラって時点で、関わりあいにならないようにすることの方が無理だ。
この場合、イベント発生しても主人公となるのは親友の方だ。幼馴染設定ってそういうことでしょ? そろそろイベント発生にむけてフラグが立たないといけない頃だというのに……親友からその手の話を聞いたことがない。



「まぁ、そんなものもあったね」

「苦手なものが出たって聞いたけど」

「……リアリティーからエスケープ中なんだよ」

「それじゃあ終わらないだろ」



久々知君は真面目だ。くのたまの噂話でもよく聞く。成績優秀眉目秀麗。目の保養。よく聞く。私もそう思う。



「じゃあ久々知君手伝ってよ」



ぽろ、っと。口から滑り出た。
まぁ、あの課題に困っていたのは事実だし、久々知君ならあんな課題、ちょちょいのちょいだろう。っていうか、私以外誰でも出来る。私は、気が済むまで不貞腐れたらふみにでも手伝ってもらうつもりだったのだ。だから、今のは完全にその場の雰囲気的なものに流された台詞であって。
立ち止まって振り返った久々知君の顔に、軽く絶望した。
私が、フラグ立ててどうする。



「――喜んで」



その幸せそうな笑顔に、マズイ、と冷や汗が流れた。
間違っても私は、主人公ではない。さっきも言ったように、ふみが主人公たる設定を持っている。いや、私も結構特殊ではあるけど、それを活かしているわけでもない。
久々知兵助とよく会うようになって、立ちかけているフラグ・成立しそうなイベントに、もちろん気付いていた。当たり前だ。会う度にあんな目で見つめられれば嫌でも気付く。
やめろ、そんな顔して微笑むな。顔を赤く染めたりしないでくれ。



「課題持ってる? 食べたらそのまま食堂でやろうか」



フラグの折り方がわからない。












                            To be continued


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『Nobody Knows;feat.久々知兵助』が各話ごとに存在しています。
それを読むと、久々知→→→→主人公っぷりがわかるかと。読まなくてもお話はわかりますから、無理して探さないように。









                             2011/08/01