02. Life is as tedious as a twice-told tale.
当然のことだが、忍術学園に焔硝蔵は一つしかない。しかもその焔硝蔵は忍たま教室の方にある。まぁ、当たり前だけど。
つまり、火薬などを授業とかで使う場合はそっちに行かなくてはならない。
「何でこんなに暑い日に鍛錬……しかも火縄銃……」
「えー、だって。明日テストするって言われたし。私、火縄銃苦手なんだよねー」
「だからって私を道連れにしないでほしかった……」
「この頃ずっと手裏剣ばっかで退屈だったし、火縄銃でもぶっ放してスキッとね!」
暑さ撃退!、なんて笑う友人に溜め息が出る。
Life is as tedious as a twice-told tale.確かに人生刺激はあってもいいだろう。同じことの繰り返しはつまらない。けどシェークスピアは火縄銃なんか使わなかったと思うな。
友人は手に許可証を持ち、楽しそうに焔硝蔵への道を歩いている。
すれ違う忍たま達が、不審な目で見ているにもかかわらず、だ。下級生は特に、酷いトラウマを持つ上級生だっている。……くのたまの罠って本当にえげつない。
下級生だった頃、私も罠を仕掛けることはあった。けれど、他のくのたまみたいにプライベートでも実行することはなかった。性に合わない、のだろうか。
というか、罠は手近なくのたまに仕掛けることが多かったと思う。わざわざ忍たま教室に行くのが面倒だし、下手に関わってそれがキャラでした、っていうのはよろしくない。
「焔硝蔵とーうちゃーく!!」
「え、あれ。土井先生の所に行かなくていいの?」
「今、委員会活動中らしいから、直接こっちに行け、ってシナ先生が」
「へぇ」
「うふふっ。楽しみだなぁ!!」
やけに機嫌のいい友人の姿に眉を寄せる。それに気付いた友人はにこやかに口を開いた。
「だって火薬委員会には斉藤タカ丸さんがいるじゃない!! 上手いことお近づきになりたいのよ!」
「その人の事、好きなの? 知らなかった」
「違う違う。っていうか、知らない? タカ丸さん。髪結いの」
「……あぁ」
「一度髪結ってほしいな、って思っててっ」
なるほど、と頷きかけ、気付いた。
あれ、その人ってキャラじゃね? っていうか火薬委員もキャラじゃね? と。
まぁその、先生方についてはしょうがないよね、と自分に納得させてきた。だからシナ先生だろうが土井先生だろうが、気にしないことにしている。授業受けられなくなるし。けど、生徒は別だ。関わらなくてもやっていけるんだし、面倒事は御免だからだ。
うっわ。何も考えずついてきた私馬鹿。この前のこしあん粒あん戦争の後、特に何もなかったから油断してた。
「じゃあふみ、私ここで待ってるからさっさと取ってきてね」
「何言ってるのよ。しっかり荷物持って頂戴。流石に1つしか持てないに決まってるでしょ」
「火薬壺2つもいるの……?」
「自主練は私たちだけじゃないから。私発案、実行皆!!」
じゃあ私がここに来る必要なくね?! 他のやる気ある奴連れてこいよ。
「だってアンタ、めんどくさがりすぎ。もう少しアウトドアでいこう!!」
「小さな親切大きなお世話って知ってる?」
「すいまっせーん。火薬引き取りに来たんですけど―」
「話を聞け!!」
あっさり無視した友人は、扉の開いてる焔硝蔵の入口に声をかけた。出てきたのは、友人の目当て、斉藤タカ丸だ。
「え〜と、土井先生が言ってた、くのたまさんで合ってるのかな?」
「これ、許可証です!」
「あ、と、えっと……。へーすけーくーん!」
許可証を見せられたタカ丸さんは少し困ったような顔をしたと思ったら、徐に奥に向かって声をかけた。
「どうしたんですか、タカ丸さん」
その声を受けてやってきたのは、5年生の久々知兵助だった。普通に目が合った。
「あれ、さん。どうしたの?」
「火縄銃の練習のための火薬をもらいに」
「あぁ、なるほど。三郎次、伊助ー、火薬壺二つ持ってきてくれ!」
タカ丸さんの手にある許可証を指すと、久々知君はそれを見て得心したように頷き、奥に声をかける。
友人はせっせと、タカ丸さんに髪を結ってもらう約束を取り付けていた。そっちが本当の目的だったんじゃないだろうな。
「やったぁ、!! 髪結ってもらえることになったよ!!」
嬉々として報告してくる友人をじとりと睨むが、それには気づいてもらえなかった。都合の悪いことは全て無視するんだから。
「さん、自主練?」
「え、あ、あぁうん。そうらしいよ」
「らしい、って?」
「……何だか知らない内に巻き込まれた、というか」
「はは、さん、優しいから断れなかったんだろ」
「そんなことないよ」
にこやかに話しかけてくる久々知君に少し違和感を感じたけど、それが何か分からなかったので放っておいた。
「はい、火薬。気をつけて持ってね」
下級生から受け取った火薬を渡される。壺自体は小さいけれど、重量は結構あった。
「ありがとう」
「よっし!! 撃ちまくるわよ!!」
「勝手にやって」
「火縄銃が私たちを待ってるわ!!」
「むしろそっとしておいてほしいと思ってるんじゃないかな」
壺を抱え、走り出した友人を追いかけるように歩き出した。
「さん!」
後ろから呼び止められ、振り返る。
久々知君が焔硝蔵から出てきて、手を伸ばした。
「いきなりごめん。髪に糸くずが付いてて。気になったから……」
「いや、謝らなくても……。わざわざありがとう」
伸ばされた手は私の髪に触れた。
本当に、わざわざ他人の髪についたゴミを取ってくれるとは優しい人だ。これが現代だったら君モテモテだよ。
「じゃあね」
手は触れないので会釈して友人の後を追う。
「え、あ、うん。また……」
久々知君はそれに軽く手を挙げて答える。
先にいっていた友人は少し離れたところで待ってくれていた。
「遅いよ!!」
「ごめん」
「それにしても、って久々知君と知り合いだったんだ?」
「……話したこと、大してなかったけど」
「えー?」
あぁ、これだ。
さっき感じた違和感。久々知君は私の名前を、さも知人のように言った。会話なんて大してしたことなかったのに。
何で名前を知っているのか。いや、でもそれは私も言えることで、でも私は……。
まぁ、同じ学年のくのたまくらい、知ってるか。一緒に実習だってしてるんだし。
「でも、久々知君、としか話さなかったし」
「それはふみがタカ丸さんと話してたからでしょ」
全く、何でもかんでもそういう方向に話を持って行きたがるんだから。
まぁ、でも、変なフラグは立てたくないし、立てさせたくない。今後はもっと慎重に行動しよう。
面倒事は御免だ。
To be continued
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この物語は、久々知→→主人公を前提に、最終的には久々知→→→→←主人公くらいにしたいと思ってます。
面倒なことは嫌だと言いつつ、自分が一番面倒なことをしている主人公のお話。のつもり。
2011/07/30