Life is as tedious as a twice-told tale";feat.久々知兵助








今日は夏の日差し、というに相応しい位に暑い日だ。
ハチこと八左ヱ門は、「ちくしょう一体俺が何したってんだ暑い暑い暑い……」って長屋でぐったりして呟いていた。俺は委員会があったので、雷蔵と三郎に任せて焔硝蔵にきたんだけど。
焔硝蔵は涼しい。冬はいつも寒く、委員会中に「甘酒甘酒」という呪文が聞こえてくるのだけど。

今日は土井先生が職員会議の後、所用があるとのことで、委員会にはいらっしゃられないそうだ。そのため、委員会の活動内容は全て俺にまかされてしまった。ただ、土井先生が一回顔出したときに、



「今日、くのたま教室の子達が火薬を取りに来ると思うから、来たらよろしくな」



くのたま、と聞いてすぐに彼女……が浮かんだ俺は、もう末期なんだろうか。彼女に繋がる単語を聞けば脳裏に彼女の顔が浮かぶ。まぁ、しょうがないよな。好きなんだし。
しかし、いくらなんでもここに彼女が来ることはないだろう。確率は低い。
何故なら、彼女は何故かわからないが、あんまり忍たまに関わろうとしないからだ。そのおかげで、俺は全く彼女にアピールする機会を与えてもらってないのだ。先日の食堂の一件だって、彼女に俺を印象づけられたかどうかは甚だ疑問だ。あの騒動以来、彼女と接触出来たわけじゃないし。



「すいまっせーん。火薬引き取りに来たんですけど―」



焔硝蔵の奥で作業をしていると、入口の方から女子の声が聞こえた。
多分、あの声の主が土井先生の言っていたくのたまなんだろう。入口付近にはタカ丸さんがいたようで、まぁそのまま彼に任せておけばいいだろう、と思っていたのだけど。



「へーすけくーん!」



困ったような声で名前を呼ばれた。



「どうしたんですか、タカ丸さん……。あれ、さん」



入口横の壁に背中をあずけているくのたま。あぁ、彼女だ。だ。神様、というものがいるなら、感謝する。偶然でもなんでもいい。彼女に会えた。



「どうしたの?」

「……火縄銃の練習のための火薬をもらいに」



目が合った彼女に問いかけると、あずけていた背を離して、俺の方に向かって歩いてくる。
三歩強ほどの距離を空けて、彼女はタカ丸さんの手にある紙を指した。
あぁ、なるほど。土井先生の言ってたくのたまは彼女だったのか。



「あぁ、なるほど。三郎次、伊助ー、火薬壺二つ持ってきてくれ!」



奥にいる後輩たちに声を掛けると、わかりましたーと揃って、まだ声変わり前の高い声が返ってくる。



「あのー、髪結いの斎藤タカ丸さんですよね!」



いつの間にか、タカ丸さんに詰め寄っているもう一人のくのたまがいた。さんはそのくのたまを一瞥して、申し訳なさそうな顔をして俺に向き直った。話すには遠い、と思ったのだろうか。少しだけ彼女が近づいてくれた。



「ごめん……なんか……委員会活動中なんだよね」

「あぁ、うん。けど、土井先生から来客のことは聞いてたから」

「え。あ、それもなんだけどね。ふみ……あっちではしゃいでる子なんだけど。許可証はあっちの名前で取っててね、私は付き合わされた形なんだけどさ……」



彼女は何だか言いにくそうに眉間に皺を寄せている。何だか、そんな表情しかここのところ見かける度それしか見てないような気がして、もっとほかの顔が見たい。例えば、そう、笑顔とか。一番は、俺に向けて笑ってくれるのがいいんだけど。



「……来る途中も、髪結いの何だかさん……なんだっけ? ごめんちょっとわかんなくなった。え、っとまぁ、髪結いさんに髪結ってもらう約束取り付けるんだって意気込んでて。そっちが本命の用事じゃないの、って思っちゃうくらいにはしゃいでて。今もはしゃいでるけど」

「タカ丸さんはカリスマ髪結いの息子さんだしね」

「あ、そうそう。そんな名前だったね。そのタカ丸さん、くのたまの中ですっごい人気らしくって。髪結いってモテルし」

さんは、いいの?」



俺馬鹿。
彼女がタカ丸さんにあんまり興味なさそうで安心した途端、しかも俺から話を振ってるってどいうことなんだ。俺、馬鹿なんじゃないのか。せっかく、彼女と二人だけで話せているっていうのに!!



「んー……私? 私は、別に。自分で出来るし……や、もちろん髪結いさんみたいに綺麗に、じゃないけど。何か、髪結いさんにお願いするときって何かの儀式の時って気がするんだよね」



私だけの感覚みたいなんだけど、と彼女は少し恥ずかしそうに笑った。可愛い。



「やったぁ、! 髪結ってもらえることになったよ!!」



ずっとタカ丸さんと話してたくのたまが嬉々としてさんに報告してきた。そのくのたまに対して、さんは軽く睨んでみせたけど、あまり効果はないみたいだ。



さん、自主練?」

「え、あ、あぁうん。そうらしいよ」

「らしいって?」

「……何だか知らない内に巻き込まれた、というか」

「はは、>さん、優しいから断れなかったんだろ」



目に浮かぶよ。周りの友人たちに頼み込まれて、最終的には諦めたように笑って了承している君の姿が。



「そんなことないよ」



ほら、その顔だ。苦笑にも見える微笑み。慈愛、と言うんだろうか。俺の好きな笑顔の一つだ。彼女はいつも友人たちのお願いに、「仕方ないなぁ」と言ってこの笑顔を見せる。彼女の人の良さがにじみ出る笑顔だ。
この笑顔を見ると、俺も顔が少し緩む気がする。
ちょうど、三郎次と伊助が火薬を持ってきたので、それらを彼女に渡す。
1個目の火薬壺は、彼女からくのたまへ。もう一個はそのまま彼女の腕の中に残った。



「はい、火薬。気を付けて持ってね」

「ありがとう」



初めてだった。ただ一人、俺だけに向けられた顔だった。それは普通にお礼を言う時の顔だったかもしれないけれど。俺だけに向けられた笑顔の破壊力は抜群だった。
は、っと意識を持ち直したときには、すでに彼女は蔵から出ていて、とっさに名前を呼んでしまった。けれど、本当に無意識の行動で、特に引き止められる要件なんてなくって、結局在り来たりの出任せを言うしかなかった。



「いきなりごめん。髪に糸くずが付いてて。気になったから……」



そんな出任せでも、彼女に触れたいという心はしっかりと現れていて、内心苦笑した。



「いや、謝らなくても・・・・。わざわざありがとう」



糸くずを取ったフリをして、彼女の髪に少し触れた。柔らかい。もっと触っていたくなる。
取れたよ、と小さく笑うと、彼女も笑い返してくれた。



「じゃあね」



彼女の両腕は火薬壺でふさがっているからなんだろう、軽く会釈して、先を行ってたくのたまの後を追っていった。



「え、あ、うん。また……」



軽く手を振って見送る。
あぁ、やっぱり……。確認するまでもないんだけど。



「好きだ……」



ポツリとつぶやいた言葉は、俺の耳以外には届かない。









                              END









きっとこの後、仲好し5年生は久々知君から今日あった出来事について語られて、かったるい夏の暑い夜を迎えることになるんじゃないかと。