審神者と監査官

そもそも監察官とは、審神者適性があるにもかかわらず、審神者にならなかった者たちで構成されている。というか、審神者になるはずだった一部の者を政府が引き抜いて監察官にしているのである。その条件は、霊力が高いこと。具体的に言えば、ちょっと頑張れば刀剣男士一人くらいなら霊力をもって破壊できたり、本来ならば審神者の許可なしには立ち入れない本丸の結界をなかったことに出来るレベルである。その他にも、ちょっとした術が使えたり、そこら辺は個人能力で様々だ。政府は、審神者候補を集めた時に、上位の何名かを見繕って政府お抱えにしてしまうのだ。それこそ、本人の意思なんて関係ない。そうして引き抜いた優秀な術者を監査官として審神者の上に据えることで、審神者あるいは刀剣男士を御している。
とは言え、例えば霊力に格段の差がある審神者が二人いるとする。彼らが鍛刀をしたとして、呼ばれる刀剣男士の強さや練度は変わらないし、レア刀剣が出やすいとかもない。もらえる経験値にも変わりはないし、特殊能力が芽生えるとかない。歴史修正主義者達との戦闘において、差はほぼないと考えていい。では何故政府は霊力の強いものを引き抜くのか。歴史修正主義者以外への対策としてだ。相手は審神者であったり刀剣男士であったり、人であったり……様々だけど。監査官が霊力を使うのは、専ら審神者や刀剣男士が相手の場合が多い。良くも悪くも、だが。
監査官の立ち位置を明確に示すものとして、審神者法というのがある。審神者が歴史修正主義者との戦いに身を投じるにあたって、民法や刑法ではどうにも扱えない部分をまかなうものである。その中には、審神者が罰せられる条件も書いてある。審神者への暴力・刀剣男士への暴力、色々あるが、その中に「監査官への暴力」はない。書き漏らしでもなんでもなく、その必要が全くないからだ。治外法権、とは少し違うが、似たようなもので。審神者と監査官の間には多大な霊力の差があり、そもそも監査官が審神者によって何らかの身体的害を与えることは中々厳しい。その気になれば、監査官は審神者の命を指一本・またたき一瞬で奪うことも可能だ。やらないけど。まぁ、政府にとっては人外の能力を行使する審神者に対して、抑止力を持っておきたかったのだろうが。このように、監査官と審神者の間では多大なる力の差というものが存在しているが、どちらの方がいいかと言われると、果たして。審神者は法に守られているが、監査官はそうではない。唯一監査官を従わせられるのが政府ということになるが……それも上役だけだ。結局監査官は、政府にとって使い勝手の良い手駒に過ぎないというのも純然たる事実なのだ。
監査官になると、ある種抱いていた審神者という職業への憧れが薄れていく。候補生だった頃、審神者になったらやりたいことNo.1である鍛刀にも、あまり興味はなくなる。審神者という職業のいいところも悪いところもよくわかってくるからだ。その上で、どちらかといえばデメリットの方が大きいことに気づくのだ。まぁ、結局は本丸を持つことのなかった我々には分かりえない楽しさがあるのかもしれない。しかし、担当した本丸の様子を見て、特に羨ましいとかは思わなかった。
結局、一番は関わらないことが一番なのかもしれない。それに、立場上見えてしまうモノを知ると、自らを犠牲にしたくないっていうのは、まぁ、おかしいことじゃないと思う。例えば、人の歪んだ考えとか。男でも女でも変わらず、刀剣男士に囲まれ慕われ、いい気にならない人なんていない。それに調子づいて距離を縮めている様子を見せつけてくる。その神経。傍から見てると、実に痛々しい。そんな前後不覚に陥るなんて、審神者業こそブラックじゃないか、と日々思うのだ。
そう言えば、自分に審神者としての適性があると診断された時、どう思っただろうか。何も感じなかっただろうか。無条件で就職が決まったことを喜んでいただろうか。そんなに前のことでもないはずなのに、もう覚えていない。結局は審神者にならず、監査官になったのだし。少しは審神者に憧れただろうか。何も知らなかったあの頃の私は。ただ、親はいい顔をしなかったことだけ覚えている。いつも、「お前の人生なんだから、好きにしなさい」と言って進路に対して口出しを一切したことのなかった両親が、「それでいいの?」と聞いてきたのだ。良いも悪いも、あの頃、適性があるとわかれば強制招集だったから選択肢など無いことを私も両親も知っていたのに、「後悔しない?」と。審神者になれば、本丸は現世とは違う空間に存在するから、実家に帰省など、かなり難しくなる。中々会えないということを心配したのかとも思ったけど、そう言えば大学在学中の4年間、一度しか帰省しなかったな、と思えば違う気もする。最終的に審神者ではなく監査官になった時も、あまりいい顔をしなかった。今になって改めて聞く気はないが、あの時の親の心境はどうだったのだろう。一応国家公務員の立場で、かなり安定した収入を得て生活できるというのに。身内内で初めてだったからだろうか。

IDカードを首から下げて、更衣室から出た。本丸に繋げるゲートに向かう。
政府から本丸へは、ゲート横のモニターに本丸ナンバーを打ち込めば、その本丸の前に出られることになっている。
IDカードを通して、番号を打ち込む。処理が終了した音が鳴って、ロックが解除された。

あぁ、頭が痛い。











-------------------------------------------
短め。
その内書き直します。
なんか文字密集してて、何を書いたのか自分でも分からなくなりました。


2015/05/28
碓氷京