No/Knows;U

Trama















伊達に5年間学んできたわけじゃない。私だって。
兵助達がしようとしてることの阻止は無理かもしれない。他人の協力も望めないこの状況では。だからと言ってみすみす若菜ちゃんを殺させるわけにはいかない。
備えあれば憂いなしとはよく言ったもので、兵助達の様子がおかしいと思った時から気を配ってはいた。それが余所余所しさを生んで、状況を悪化させてしまった、というのは反省すべきことだけど。
けれど、仕込みはしてある。
いくら気を許していようと、人の情報を軽々しく話すものか。しかも、いい感情を持っていないだろう相手に。若菜ちゃんの仕事メモは欠陥品だ。抜けたところが多い。まぁ、これに関して言えば、別に隠してることでもないから自分たちで調べようとすればいくらでも出来るんだけど。
きっと兵助達が行動を起こすなら新月の夜だ。一番、忍者にとって最高の日取り。準備期間を見積もっても、まぁいいところだろう。
幸い、若菜ちゃんを帰すのに指定される日はなく、いつでもやれるらしい。
若菜ちゃんは無事に帰さねば。
その時手が震えないようにしないと。情けない話だ。今まで実習で武器を手にとって、震えるなんて低学年の頃の話で、この頃は何ともなかったのに。この時代の人でないからなのか、何なのか。それでもやらないといけない。
若菜ちゃんが私を刺す前に私が若菜ちゃんを刺す。彼女だけ帰す。最初は、大人しく帰ろうと考えないでもなかったけど、どうやら私はもうこっちに染まってるらしい。

怒られるかな。















































「決行は、今日から6日後。4年と5年生が実習でいないし、少しでも人数少ないほうが都合がいい。裏裏山くらいまで行けば十分でしょ……。夜暗い時に行動するから、足元に気をつけてね」

「先輩?」



びっくりしたようにこちらを見る若菜ちゃんに、申し訳ない気持ちと罪悪感と、少しの安心感が芽生える。



「ど、どうしたんですか? ていうか、行動早いですね……」

「早く帰りたいでしょ? 若菜ちゃん受験生じゃない。勉強しないと、大学受験失敗したら笑えないよ」

「帰ってくれるんですね!!」

「まぁね。あんまり悠長に構えてらんないし……」

「何がですか?」

「こっちの話」



さっさとしないと、向こうが感づく可能性もある。私一人じゃやっぱりキツいのだ。
若菜ちゃんに、あまり私と接触を持たないように言いつけて、自室に向かった。



「ふみ?」

「あら、おかえりー。また天女様のところ? へーすけが気にしてたわ」

「そう。夕食の時に謝っとく」



机に持っていた教科書を置いて、ぺらぺらとめくる。



「もうすぐ勘ちゃん達実習に行くでしょ? ここではこれからへーすけの部屋に泊まる、っていうことねわかってた!!」

「勘ちゃんに迷惑でしょうが……」

「平気よー。邪魔なんてしないわ。三郎達の部屋にでも行くでしょ」

「……あのねぇ」

「あぁ、それとも、天女様のお世話で忙しい?」

「刺があるね。まぁ、後で言おうと思ってたけど、さっき先生にお役目解除って言われたの」

「え?」

「もう彼女もここに慣れただろうし、もういいだろう、って」

「そうなの!! それはめでたいわ!! じゃあ早く教えてあげなくっちゃ。みんな喜ぶわぁ」



嘘だけど。
まぁ、実際もう私が手を出すことなんてほぼ無い。こう言っておくこで少しでも油断させられるなら儲けものだ。後は5日間騙し続けるだけ。心が痛まないこともないけど、殺させるよりはマシだ。だって絶対そう。間違ってないはずだ。



「聞いてよ!! が戻ってきたわ!! もうあの天女の世話係じゃない、って」

「本当か?」

「うん、まぁ。もう私がすることもないし」

「そうか……そうか、よかった」



思ってたより兵助は落ち着いていて、少し首を傾げた。まぁ、いいか。そんなもんなのかもしれない。



「じゃあちゃん、今日こっち来るの? 俺鉢屋のとこでも行くよー」

「そうね。それがいいわ。私は勘ちゃん達が実習行ってる間独り占めするから、今回はへーすけに譲ってあげる」

はずっと俺のだけど」

「いや、」

「兵助兵助、独占欲出ちゃってるよ」

「あれ、不破ちゃんも助けてくれない」



夕食の場は賑やかになった。
どんだけ天女は嫌われてんの。っていうか喜びすぎ。ここまで友人たちに好かれちゃってるとはちょっと想像だにしてなかった。やってきたケマトメ先輩とかも「よかったな」なんて言って笑うし。
若菜ちゃんが結局最後まで受け入れられなかったことが、残念だ。でも、もう少しの辛抱だ。

彼女が帰れば、戻ってくる。

さっきからずっと私を見てくる兵助の目から逃げるようにご飯を食べる。
兵助の目の奥が暗い。いつからだろう。こんな目をするようになったのは。最初はこんなんじゃなかった。

若菜ちゃんが帰れば、穏やかな目をした兵助達が戻ってくるに違いない。
だから、殺させる前に何とかしなければ。


私が、帰してみせる。












                                 To be continued......





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主人公は大きな勘違いをしてます。
一つだけ言えば、兵助は最初っから(Nobody Knows;の頃から)穏やかな目なんてしてません。だってヤンデレだし。

☆次回予告☆
ヤンデレ最高潮 物語も終わりです。






                                  2012/12/02