No/Knows;U

Esitazione














部屋に戻って、布団を敷いた。いつものようにふみの分も敷く。先に部屋に戻ったほうが敷く、という決まりにしてある。
敷いたはいいが、どうしたものか。
ふみはまだ戻ってこない。夕食の後、遅くなると言われていた。それに、話していたテンションも半端なかったから……殺すってなんだよ。
いくら忍びのたまごだからって……気に入らないから殺すってアリなのか。……アリだな。世の中の戦なんてそんなもんか。でも忍者が私情で動くって……。
マズイだろ。やろうとしてることもそうだけど、何より、実行しようとしてる人がマズイ。5年忍たまの天才秀才実力者が揃ってる。プラスくのたまの女王様だ。私だったらこの6人を相手になんかしたくない。裸足で逃げ出すのも厭わない。
ふみや不破ちゃんとかなら何とでもしようがあるけれど、特に鉢屋と兵助は相手にしたくない。虫も嫌いだから竹谷も嫌だ。勘ちゃんは何考えてんのかわかんない。わかろうともしなかったけど。それはあんまりいいことじゃなかったみたいだ。今回のことも含め。
だって、さっき聞いた話だと、勘ちゃんが兵助の迷う部分を押し通し納得させ、兵助を前に進ませている。普段の実習ならいいコンビなんだろうけど。
何より、あの中にふみがいるのが、何とも言い難い。何でだ。
そんなに若菜ちゃんが気に入らなかったのか。

というか、5年の皆が殺してまで若菜ちゃんを排除したがる理由はなんだ。あまり若菜ちゃんが忍たまくのたまに積極的に関わってなんかいなかった。むしろ消極的だった。
理由が全くわからない。けど、殺させるわけにも行かないのだ。

せっかく戻ってきたけれど、もう一度若菜ちゃんの部屋に行くべく、部屋を出た。
満月だった。















































「狼男でしたよね? 満月で変身するのって」

「あー、それね。映画の設定が元々で、まぁ、民間伝承だと新月だとかクリスマスだとか色々あるよ」



もう一度現れた私に、若菜ちゃんは分かっていたかのような顔をして黙って部屋の中に入れてくれた。
どうやら私は、相当酷い顔をしていたようだった。



「それで……一体どうされたんですか? 帰る気になったんですか?」

「それ。若菜ちゃん。どうやって帰るの」



若菜ちゃんは深く笑った。



「私がここにやってくるのに、手助けしてくれた人がいるんです。怪しい男なんですけどね。こちらに来るのはその人にやってもらったんです。もちろん帰る方法は聞いてきてます」

「男?」

「自称神です。それはいいんですよ。で、帰る方法なんですが……これ、結構勇気がいるんです」

「難しい?」

「そうですね……。帰るってことは、ここから消えるということになるそうです。つまり、存在を消すって意味なんですけど」



つまり死ねと。そういうことなのか。
考えたことはある。調べてもなんの手掛かりも出てこなくって、どうにもいかなくって煮詰まったことは何回もあった。その中の1回、三年の頃だろうか。ふと思いついたのだ。
あぁ、死ねば解決じゃね、と。
けれど、大きな落とし穴があることにすぐに気づいて、試したことはなかった。

そう。たとえ死んでみても。

・自分のいた同世界に帰れるか不明
・帰れなかったとき、もう二度と何もすることができない

この2点があるのだ。



「ただ死ねばいいの?」

「死ぬって……まぁ傍から見ればそう見えるかもしれませんが……。まぁ、やり方はあるんです。勇気いるんですけど」

「さっきから勇気だって言ってるけど?」

「はい。これ、私たちがお互いに刺しあうんです。向かい合って、同時に」

「は……?」



刺しあう? 私と若菜ちゃんで?
馬鹿だ。こんなの。兵助達が殺そうとしてるのと何も変わらないんじゃないのか。



「つまり、今、この世界に私と先輩がいるのが条件のうちでもあるんです。同世界の者同士が持つ波長と血によって扉は開かれる、だそうです。あ、でも私が自分自身を刺してもそれはただの自殺にしかならないんですけど。刺したときにその刃物を通して波長を流すのが大事みたいで……」



何だか本当に怪しい。
中二病の話みたいだ。何だ波長って。そんなの感じたことない。馬鹿じゃないのか、とそういう気持ちがやっぱり強い。



「ねぇ、若菜ちゃん。私がここに来たのはね、若菜ちゃんがあろうことか殺されそうだから、早く。帰れるようなら今すぐ帰ってもらおうと思って来たの。なのに何なの。大体そんな自称神とかいう頭沸いてるヤツを信用してどうするんだよダメだろ!!」

「でも他に方法ありますか?」

「それ、は……でも」

「私だけ帰したくても、先輩が私を刺さなくちゃいけないんです。それだったらお互いにやったほうがおあいこですよね」

「おあいことかで済む問題?!」



若菜ちゃんは真剣な顔をして、さっきからその顔で動かない。いたって本気らしい。



「先輩。もう夜も更けてきましたし、明日も授業ですよね。もうお休みになってください。結論を早くする必要はありませんし」



あるんだよ。君殺されようとしてるんだよ今にも!!
兵助達に殺されたら、若菜ちゃんが本当に死んじゃう。でも、それを回避するには私が若菜ちゃんを殺さなくてはいけない。結局殺すことになる。どっちにしても、だ。

黙って若菜ちゃんの部屋から出る。自分の部屋に戻る気もしなくて、そのまま夜練でもしようと広い場所に出た。
普段は夜は寝てる。鍛錬とかしたくない。寝ていたい。

実習だったらよかったのに。
それなら何考えずに殺せる。心を殺すなんて、実習が入るようになってから、一番得意な項目だった。でもまさかこんなところで躓くことになるなんて。
持ってた苦無を手の中で遊ばせる。
一年の頃はこうやってペンを回すように苦無を回すなんて出来なかった。それが、今じゃ見なくても出来る。



「――が夜に鍛錬するなんて、珍しいな」

「っ! あっ、い、っつ……」

?!」



後ろからかけられた声に、驚いてしまって思わず苦無を握り締めてしまった。



「悪い。そんなに驚かれるとは思ってなかったんだ……。ごめん。に会えたから、つい声かけてしまったんだ」

「い、いや。そんなのは構わないんだけど。私も考え事してて気づかなくて……」

「それも珍しい、な。何を考えてたんだ?」

「……私も、色々学んだなぁ、と。出来なかったこととか、そういうのができるようになってて。あるでしょ?」



兵助は私の手のひらを手当しながら微笑んだ。満月だからよく顔が見える。



「そうだな。俺もそういうの多いよ。というか、そういうのばっかりだよな。考えてみれば」



はよくそういうこと考えつくな、と感心したように言われた。



「自分を顧みれるのってのとてもいいところだよな。好きだ」

「いつもいつも考えてるわけじゃないよ」

「それはそうだろ。俺のことも考えてくれないと、な」



怪我した手のひらを軽く握り込まれた。



「ば、っか……っ」

「最近、また全然に会えなかったから、さ。俺もに秘密にしてて、こんなこと言うのもおかしいんだけど……。傍にがいなくちゃ嫌なんだ。俺のわがままだって分かってる。でも、止められないんだ。つもりもない。……許してくれるか?」

「……何、を?」

「俺がを愛していること」

「そんなの、許可を取るようなものじゃないでしょうに……。私もそうだけど、結局は勝手に想って勝手に行動するんだよ。それでお互いが満足なら上手くいってるんだよ……きっとね」

は満足いってる?」

「……兵助は?」

「俺はさ、が欲しいって前に言っただろ? で、手に入った。……言い方悪いかな。決してを物だと思ってるわけじゃないんだ」

「わかってるから」

「ならいいんだ。……でも今度はもっと欲しくなった。出来るならどこかに閉じ込めて俺しか見れないようにしたい。……しないけどさ」



そう言った兵助の目は、半分本気だった。



「……これは例えだけど。きっと、がどれだけ俺を愛してくれていても、俺はもっともっと欲しくなる。俺が完全にを自分だけのものだと思えるまで」



そんな俺、嫌いになるか。
そう言って兵助は俯いた。そんなの気にしなくていいのに。



「好きだよ。兵助が好きだよ。誰に何と言われようと。兵助になら何されてもたいてい許しちゃいそうなくらい」

「……



ダメだった。
別に兵助は私からのこんな言葉は求めていなかったらしい。



「ありがとう。俺も愛してる。どんなことでもしてやろうと思えるくらい」



本当に好きなのに。諦めるくらい好きなのに。兵助がいるからここにいたいと思えるようになるくらい。
なのにこの人は私の後輩を殺そうとしている。



「……さっきの話なんだけど」

「うん?」

「今でも出来ない事ってあるでしょ? そうれをどうしてもやらなきゃいけないのに、どうしても心が付いてこない。私には出来ない。やりたくない。でもそうしないといけない」

「実習か?」

「違う。……あぁでもそれで考えてくれてもいいや。とにかく、私がやらないと全てが手遅れになるのに、どうしても私はその手段を取りたくなくって……あぁもう、私最悪だ」



一人殺そうとしている。
何であんな方法しかないんだろう。



「……あまり状況がよく掴めないんだけど……。でも、俺に言えるのは……そんな時は俺に寄りかかって。俺が代わりにやってやる。の辛いのも全部俺にくれ」



いい案だ、と笑う兵助に、少し頬が緩んだ。



無理だよ。
だってアナタは私じゃないでしょう? 私以外の人間が、私の代わりになんてなれないんだから。
結局は私がやるしかないのだ。



抱きしめられた感触に目を閉じたら、頬に涙が一筋流れた。すぐに乾いてしまったけど。



ごめんね。
最初から答えは決まってた。










                         To be continued......







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もう少し!








                           2011/10/09