01. To be or not to be, that is the question;feat.久々知兵助







可愛くて愛おしい。
彼女を見るたびに胸がドキドキして、落ち着いていられない。見ているだけじゃ、もう満足なんて出来やしないんだ。

彼女――は俺の想い人だ。かれこれ想い続けて5年目に突入する。彼女を視界に捉えたら、ずっと追っているし、声が聞こえたらどんなに微弱でも聞き逃さないように耳をすます。
ずっとずっとそうやってただ遠くから見ているだけで、でも接点が簡単に出来るわけでもなくて。
勘右衛門の幼馴染が彼女の親友だと知ったのだって最近だった。けれど、それをうまく使うなんて方法も思い浮かばない。
ハチや三郎には馬鹿にされる(「兵助おまえ、どこの乙女だよ!!)し、けど、この気持ちを伝えたところで、向こうは俺のことを知らないに等しい。
諦めるなんて選択肢はない。だって、彼女の笑ってる顔を見たら……もうそんなこと思えない。あの笑顔を俺に向けてくれたら……そう何回願ったことか。



そんな、見てるだけだった俺にもチャンスがやってきた。

















































「こしあんが餡子の王様に決まってるだろ!!」



偶然だった。本当に偶然だった。神様ってのがいるなら本気で感謝してる。
彼女が食堂に来たのだ。席は少し遠いが、俺の座ってるところからは彼女の後ろ姿がよく見えた。

彼女は勘右衛門の幼馴染と一緒にまんじゅうを食べていたが、中の餡子の種類について揉めているらしい。いつもは冷静で落ち着いている彼女が声を大にした事は驚きだ。可愛い。



「……兵助……顔、赤くなってるんだけど……あ、無視?」

「ふみにはこしあんの良さをじっくりと時間をかけて教えてあげなくちゃいけないね。あぁ、もちろん、粒あんがおいしくないと言ってるわけじゃないよ。粒あんには粒あんの良さがあるのは重々承知さ。まぁでも、こしあんには及ばないんだけど」

は粒あんを舐めているようね」

「舐めるだなんて。こしあんの滑らかさには勝てないでしょう?」



可愛い。たかが餡子の好みであんなにむきになっているのが可愛い。

がたり、と大きな音を立てて、彼女の向かいに座ってた子が立ち上がった。



「ねぇ、。このまま言いあってても決着つかないわよね?」

「そうだね。水掛け論だしね」

「こういうときは、第3者の意見を求めるべきだと思うの」

「そういう解決法もあるね」

「都合良く、ここは食堂で、まぁそこそこ人がいる場だから、意見には困らないわ」



彼女の雰囲気が、怪訝さを纏ったものになる。向かいに座っている子に手を伸ばすが、それが届く前に、勘右衛門の幼馴染だという子はこちらを見て、



「そこの忍たま5年グループ!!」

「げ」



いつの間にかこちらに移動していて驚いた。ただ、隣に座っていた勘右衛門はまずそうな顔をしている。
それから、勘右衛門、三郎、雷蔵 八、という具合に絡まれていく。
最初は呆れたような顔でこちらを向いていた彼女は、もう前を向いてしまっている。彼女にこっちを向いてほしくて、思わず口を開いてしまった。



「俺はこしあんが好きだよ」

「兵助?」

「俺はこしあんが好きだ」



言った瞬間、彼女と目が合って、ここまで上手くいくとは思わなかった。あ、やばい。恥ずかしくなってきた。
照れ隠しのつもりで笑いかける。と、彼女は何故か眉を寄せて視線を外してしまった。……残念。



「……でも4対2で、粒あん勝利に変わりないわ……」

「それが何?」



正直言えば、別に俺はこしあんが特別好きなわけじゃない。こしあんも粒あんもどちらも普通に好きだ。
勝ち負けなんて本当にどうでもいい。ただ、彼女の興味が引ければそれでいい。それだけだ。



「ふみの分のお饅頭。粒あんオンリーだから安心するように。あぁ、こしあんのは私が頂くから」

「え、っと……怒った……?」

「いや、怒ってた。まぁ、いくら粒あんが勝利しようが私の一番はこしあんであることに変わりないし。ご苦労様」



チラリとだけ、というか一瞬彼女と視線がぶつかった。一瞬、彼女が微笑んでくれたような気がするのは、俺の妄想かもしれない。









                                  END