月が綺麗ですね。









お姉ちゃん、帰ろう」



手を伸ばしているうさぎの目には涙が浮かんでいる。
まさか、こんな状況になるなんて。何でこんな状態の時にやってきてしまったんだろう。

ずっと黙ってうさぎを見ていると、掴まれている左腕に力が込められた。振り返ると、デマンドがただ黙って私を見ている。目は口ほどにモノを言う、と言うけれど、今日ほどそれを実感した日はないんじゃないだろうか。
うさぎも、デマンドも、痛いのを我慢しているような、そんな顔をしている。



「プリンス・デマンド、お姉ちゃんの腕を離しなさい!!」



私はいつだって、タイミングが悪いんだろう。せめてもう少し早く、いや遅くでもいい。目が覚めてれば。
そうすれば、こうはならなかったかもしれないのに。















































ふと目が覚めたとき、隣にデマンドの姿は無かった。おかしいと思わなかったわけじゃない。けど、そんなことさえもどうでもよくて、自分の決心が揺るがないうちに全てを終わらせてしまいたかった。
だから私は、デーブルに置かれたままのピアスが入った箱を取って、部屋から出たのだ。
何やら騒がしい方へ足を進める。きっとそこにデマンドがいるだろう、と思ったから。

案の定、そこにはデマンドがいた。けれど、うさぎもいた。
腕には、洗脳を解かれたらしいちびうさちゃんが眠っている。

あぁ、来たのか。

言葉だけなら冷静だけれど、実際はそうじゃなく。
身体は震え、上手く立っていられなくなった。何よりも、体調が悪くなった。頭がガンガンする。
ガン、と音を立てて、手に持っていた箱を落とした。
その音に、全員がこちらを向いた。デマンドと、うさぎの私を呼ぶ声が重なった。



「うさぎ……」

「お姉ちゃん!! 助けに来たよ!」



手をこちらに伸ばしているうさぎも、どこか苦しそうだ。きっと、私と同じく、邪黒水晶に当てられているんだろう。
傍に片膝を付いたデマンドが、私を支える。いつの間にか、私は床に座り込んでいたらしい。



「お姉ちゃん、そいつから離れて! 敵なのよ!」

「待って、セーラームーン。さんもきっと邪黒水晶のパワーに影響されているんだわ。身体が上手く動かせないのよ」



どの言葉にも返すのが億劫で、デマンドに身体を預けた。デマンドは、私が落とした箱を拾う。



「目が覚めたら、という約束だったな……」

「えぇ……約束、守ってよ」

「……あぁ」



そう言ってデマンドは私を抱き上げた。



「お姉ちゃん!!」

「うさぎ」



どうやら私は、うさぎに直接謝れるらしい。



「ごめんね。でも、ここまで来てくれてありがとう。姉思いの妹で嬉しいよ。けど、早くここから去りなさい。ここはあなたにとって自由に動ける場所じゃないの。……具合、悪いんでしょう?」

「何で?! 嫌だよ! お姉ちゃん、何言ってるの? 帰ろう!!」

「帰れないよ。ごめんなさい。ごめん、好きなの。だから帰らない。ごめんね。こんな姉でごめん」

「嫌だ、嫌、嫌だよ。お姉ちゃんも洗脳されてるの、ちびうさみたいに!!」



微笑んで見せると、うさぎは今にも涙が零れそうな顔をした。



「どうしてぇ……」

「ごめんなさい。許さなくていい。いいから、早くあなた方は帰りなさい」

「お姉ちゃん!!」



腕を首に回して、力を込めた。
それを合図に、デマンドは踵を返して歩きだした。うさぎの泣き叫ぶ声に、私も泣きたくなる。
でも、ここで泣いたら、私、ダメになる。
デマンドが何一つ言わない。口を開きもしない。それが有難くもあるけど、でも、何か言ってほしい気もする。何言われても、私は何も返せないだろうけど。

部屋の椅子に座らされて、目の前にピアスが置かれた。



「一瞬、痛いだろうが、我慢してくれ」



黙って頷いて、目を閉じた。
耳に暖かい手が触れ、ちくりと刺さる。冷たいガーゼを当てらる。逆も同じように。
小さくテーブルの上から音がした。目を開けると、ピアスが無くなっている。



「……これで、も我が一族だ」



開けられたばかりの穴にピアスが入る。両耳に入れられた途端、体中に電流が流れるように痺れた。
ふらついた体を抱きとめられる。
荒く吐いていた息が落ち着くと、今までの気だるさが嘘のように消えていた。



「デマンド……」



見上げると、デマンドが微笑んでいた。
そして、前髪をさらりとよけ、額を撫でた。嬉しそうに顔が歪んだ。
そのまま、奪うように口を塞がれる。応えるように手を回した。さらに強く抱き込まれる。
ようやく離れたデマンドは、でもそのまま額に軽く口付けた。



「……月が綺麗だ」



その言葉に、同じ言葉を返そうとおもったけれど、それじゃあ伝わらないんじゃないかとふと思った。
この人に、最大級の愛を。

自分からデマンドの腕の中に飛び込んで、しっかり抱きついた。上から、小さく笑い声が聞こえた。
それが嬉しくてしょうがない。

忘れてはいない。うさぎのあの顔を。これから先、ずっと忘れないだろう。
結局私の我侭で振り回してしまった。



「私、死んでもいいわ」



もう後悔はしない。









                              END



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原作アニメ完全無視。これにて完結です。
文句は後で、文書にて提出してください。









                        2012/02/17