予想だにしない事件






ちびうさ、と呼ばれる女の子が家にやって来た。妹が彼氏に冷たくされて泣いている。
実は、この話は好きだった。何ていうか、敵キャラがいい。私、漫画とか大抵主人公の敵キャラ好きになるタイプなんだよね。デマンドとか、本当に好み。アニメではタキシード仮面KYもいい加減にしろよと何度思ったことか……。
ま、いくら好きだといっても、見られるわけじゃないんだけど。私は一般人を貫いてますからね。歪みないです。関わりたくないし。そう。私、関わりたくないんだけどなぁ……。



「あれ、ちびうさちゃん? 一人でどうしたの?」

お姉ちゃん……」



高校の帰り道、いつも通る公園のブランコに、最近家にやってきたピンクの髪をした女の子がポツンと座っていた。



「一人なの? うさぎは一緒じゃないの?」

「一人で来たの」



おいおいそれ大丈夫なのかよ。朧気な記憶だけど、君、確か敵さんに狙われてたよね? 一人でぷらぷらしててもいいことないよ、マジで。



「え、それは危ないよ。お姉ちゃんと一緒に帰ろ? 最近物騒だし……可愛い子一人だとすぐ襲われちゃうよ? さ、今日の晩ご飯はハンバーグだって言ってたし、早く帰ってお手伝いしよ?」



手を差し出せば、結構素直に手を繋いでくれる。いい子だ。どういうわけかわからないんだけど、ちびうさは私に懐いている……らしい。まぁ、うさぎよりは、って感じではあるんだけど。



「……ねぇ、お姉ちゃんは凄く頭いいんだよね?」

「凄く、って程では……」

「でも、育子ママに、うさぎみたいに怒られてないよ」

「あーまぁ、それはねぇ……。私は頭いいんじゃなくて、勉強が出来るだけだからねぇ……」



うさぎと比べちゃ、だいたいの人が頭いいことになる。比べる対象が悪いでしょう。
ちびうさの手を引いて歩いていると、何となく、寒気がした。背中に視線を感じるというか。



「見つけたわ、ラビット」



女の人の声がして、後ろを振り向く。そこには緑の髪をした女性が立っていた。エス……何とかって人だ。凄い高飛車な人。
ちびうさが私の手を強く握り、隠れるように私の後ろに回った。



「ちびうさちゃん……?」

「あ、あ、あ、あの人、ママをっ……! 敵で! っ……っ」



つまり、要約をすると。
ちびうさちゃんのお母上を攻撃してきた敵の一味だ、と言いたいのだろう。あぁ嫌だ。もの凄く困る。一般人の私にどうしろと。



「さぁ、ラビット。こっちにいらっしゃい」



行くわけねーじゃん。見てこの子、すっごい怯えてるよ。ていうか私も逃げたい。でも全速力で走って逃げても焼石に水な気がする。っていうかこんな展開あったっけ? 知らないんですけど!!
セーラー戦士やタキシード仮面は何してんだよ本当に!! ちびうさ助けてやれよ!!



「い、いや!」



ちびうさちゃんは私の後ろから出てこない。しがみついてくる。それを見て眉を顰めた女の人は、初めて気付きました、というような顔で私を見た。



「……アナタの後ろの子、こちらに渡して下さるかしら?」

「この子、お姉サン見て凄く怯えているんですがね……。一応この子の保護者的な位置にいるものですから、不審者にお渡しするわけにはいきません」



眉が釣りあがる。
もう、ホントに助けてほしい。どうしよう。

しばらく、沈黙がはしる。どうにか逃げ出せないか考えるけど、やっぱり無理だった。本当に困った。関係の無い人間を巻き込まないでいただきたい。



「お、お姉ちゃん……」



けど泣いてる小さい子を放って逃げることも出来ないし……。でもいたずらに時間ばかり稼いでも困る。
多分、目の前の人がむやみに攻撃してこないのは、ここが大通りに近いからだろう。目立つことはしたくないらしい。一番いいのは、何とか隙を見て大通りの人ごみの中に紛れてしまうことだろう。そして遠回りでもして家に帰り、きっといるであろううさぎにこのことを話して対策を立ててもらう。これだ。
まずは、隙を見つけることなんだけど……。まさか「あ、UFO!」なんて手は使えない。幸い、走れば一分足らずで大通りに出られる。

……ホント、何でこんなこと考えなきゃいけないんだろう。



「……大丈夫だから。絶対、大丈夫」



視線は女の人から逸らさず、ちびうさの頭を撫でる。もう、こうなったらなりふり構わず走ってみようか。



「―― エスメロード」

「っ! デマンド様!!」



やばい。これは非常にやばいっていうか何で出てくんの。この人20世紀に姿現しましたっけ。覚えていない。覚えていないが、非常にマズイ。だってこの人アレでしょ。第3の眼持ってて金縛りとか出来る人でしょ。一瞬で終わりじゃん。
デマンドが現れたことでちびうさの震えも一層大きくなった。状況はマズイ。けど、同時に好機でもあった。
エスメロード(そう、そんな名前だった)の注意が私たちから逸れている。恋は盲目っていうのは本当に恐ろしい。けど、有難い。
後ろに隠れているちびうさを抱え上げ、一気に走り出す。



「お姉ちゃんっ?!」

「ま、待ちなさい!!」

「黙ってろ舌噛む!」



後ろの敵は、突然の行動に反応が遅れたらしい。本当に助かった。ていうか、マヌケだな、と思わなくもない。一般人だと侮っていてくれた(いや、正しいんだけど)おかげだ。今後もそのスタンスを崩さないでいただきたい。
まぁ、しかし。



「逃がさん」



向こうも立ち直るのは早かったらしく、瞬間移動なのか、走る私の前に二人が立つ。



「死になさい!」



まんまと逃げられそうになったことが悔しいのか、エスメロードは顔を歪ませてジュリアナ扇子を振り上げた。
私を見て、高笑いをする。何がおかしいのかよくわからない。



「うるさいお前が死ね!」



走る速度は緩めず、そのままエスメロードの足を引っ掛けた。高笑いしていて足元が不注意だった。それは上手い具合に引っ掛けることができ、しかも好都合なことに、デマンドの方に倒れてくれた。
流石に予想外だったのか、デマンドも目を見開いて動けないでいる。

そして私は上手く人ごみに紛れることに成功したのだ。



「お姉ちゃん、凄い!!」

「いや、ハァ、ハァ……、どう、も……」



二度とやりたくないけどな!!
そして、思っていた以上にちびうさが重かった。……疲れた。
中々整わない息を落ち着かせるため、大通り広場のベンチに座る。



「本当に凄かったよ!! 敵に向かってあー言えるなんて……かっこよかった!」

「……? 何か言ったっけ?」

「『うるさいお前が死ね!』って」



あぁ、確かに言った。言ったわ。何かあの高笑いが癪に障ったのだ。



「……あぁ、忘れてくれないかな、あの人達……」



間違ってもこれをきっかけに目を付けられるとか困る。馬鹿にされたとかで殺されそうになるのもごめんだ。



「……どうしよう……」

「……お姉ちゃん?」

「何でもないよ。さ、早く帰ろうか」



何にせよ、もう後はうさぎ達に任せよう。……しばらく引き篭ろうかなぁ。








                          To be continued......




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何度も言うように、原作・アニメは無視です。そんなの知ったこっちゃないっていう態度を貫き通します。