世界の始まりの日









「前世? 何言ってるの、変な宗教に掴まったんじゃないでしょうね? ダメようさぎ。私は生まれ変わり説を支持してないけど。でももし自分が100年前は誰だったのかとか、生まれる前がどうだったとか、そういうのが判っちゃったとして、単なる農民ならいいよ? 織田信長とかだとかなり物騒だけどね。けどもっと最悪の、凶悪殺人犯だったらどうするの。しかも連続殺人犯。それ思い出して、記憶が甦っちゃったらその先どうやって生きていけばいいの。遺族に謝りにでも行く? それは違うでしょ。自分の人生で手一杯だっていうのに、前の人の責任までとれないでしょ。生きてくの難しくなっちゃう。だから知らないほうがいい。前世だの生まれ変わりだの言い出したら、人生終わりだよ」



初めまして、月野家の長女やってます・と申します。妹は現在中学2年生。本人から話はありませんが、セーラー戦士をやってます。妹の名前は、月野うさぎ。小さい頃、女の子なら一度は憧れるセーラームーンです。
妹が家族にも話していないことをなぜ知っているのか。それは、私がアニメや漫画を知ってるから。幼稚園の頃、ロッドとか持ってましたし、ビデオとかそれこそ毎日のように見てたものです。

トリップって信じられるだろうか。私は信じられませんでした。経験するまでは。
はっきりとは覚えていないけれど、車に撥ねられたのだと思います。ぶつかった衝撃と、浮遊感……それらを感じた後に視界は真っ暗になりました。気がついたときには、私は月野家の長女として生まれ変わってました。
正直、ふざけんな、って感じです。何で死んだときの記憶が残ってるのか。死んだときのみならず、それまで生活していたことまで覚えている。
私が4歳の時に生まれた妹は、うさぎと名付けられた。金色の髪に蒼い瞳。すぐにわかった。あ、これセーラームーンだ、と。その内、我が家に三日月マークを額につけた猫がやってきて……私は諦めた。それと同時に決めた。私は、関わらないでいよう。あくまでも無関係を貫き通そう。私は一般人なのだから。

そんな思いと裏腹に、うさぎは無自覚に私を巻き込もうとしてくる。もちろん、自分がセーラームーンだなんて流石に言ってはこないけれど、仲間のセーラー戦士の皆さんに私を紹介してみたり、仲良くさせようとしてきたり。この間なんか、うさぎたちの勉強会に駆り出された。まぁ、姉としてそれくらいならいいんだけどね。
うさぎは私を優秀な自慢の姉だと公言して懐いてくれている。それは嬉しい。けれど、少しだけ決まりが悪い。私が優秀なのは、先に言った、つまり前世とやらの記憶があるからだ。
前世や生まれ変わりを否定するけれど、覚えているものはしょうがない。幸いにも、その前世とやらは学生だった。……20歳になる1日前に事故死だから、成人もしていない。今でも、夜見る夢は全てその学生さんのものばかり。前に本当に起こったことかもしれないけれど、私にとっては気の重くなる夢でしかない。
そうやって私を苦しめるんだから、その学生さんを利用してやろう、と彼女の経験やら色々活かさせてもらっている。ギブアンドテイクだ。

私が、『月野』であることに変わりはないのだから、問題ないだろう。



さて。
妹が突然、私のもとにやってきて「前世、ってどう思う?」ともじもじしながら聞いてきた。
数学の問題集を解いていた手を止めて、妹に向き直り、言った言葉が上のセリフだ。言い終わった後に気づいたんだけど、うさぎが聞いてくるような前世は、どっかの神話をもじったような奴らのおとぎ話みたいなものじゃなかっただろうか。
妹の顔が赤い。……あぁ、タキシード仮面とかいうキザな奴の話か、とようやく理解した。まぁ、妹の恋人にケチつける気は毛頭ないが、出来れば私の前に姿を現さないでほしい。見ていて痛いし、恥ずかしくなってくる。……小さい頃なら、憧れだったんだろうけど。



「そ、そっか……。で、でも! その……お、お姉ちゃん……」



まぁ、前世の恋人とやらで運命を感じて、なのかもしれないけど。私に言わせてもらえば、そんな前世の恋人だからって、別に運命なんか欠片も感じないが。
『セーラームーン』の世界に無関係でいようとは思っているけど、その流れを壊そうとは思っちゃいない。



「……コレは私の考えなんだから。うさぎはうさぎの考えを貫けばいいの。うさぎが正しいと思ったことをやり遂げなさい。ね? 他人にどう言われたから、って自分の望むことを曲げる必要はないの」



そう言ってやれば、うさぎは随分とホッとしたような顔を見せて、嬉しそうに私の部屋から出ていった。

私は妹も、弟も大好きだ。甘やかしてやりたい。し、実際甘やかしている。それが彼女たちのためになるかと言われれば、否だけど。
鞭は母が担当してくれれば、いい。友人たちに任せておけばいい。と、いうより、私が飴とムチをやろうとすると、正直ムチしか出来ない気がするし。言い過ぎちゃう傾向にあるから。だって、前世の話だって、結構感情籠っちゃったし。うさぎには悪いことしたなぁ。















































先にも言ったように、いくら妹がセーラー戦士だろうが、私にはもちろん関係ない。関係ない、ったらない。私は単なる一般人である。確か、原作……はあまり覚えてないが、アニメとか、あんまり家族って出てこなかった気もする。その……敵との戦いにおいて、ね。敵と遭遇とかしないような気がする。いや、覚えてないんだけど。
大学受験が待っているのだ。そんなことに構っちゃいられない。妹よ、You can do it. 君なら出来る。地球の未来のために頑張ってくれ。戦いに身を投じる妹を静かに見守る。



「うわーん、お姉ちゃん!! 助けてー!!」



バタバタと足音を立てて帰ってきた妹は、部屋のドアをバシン!と空けて泣きついてきた。手には赤点のテスト用紙。まじまじと見てみると、ひどい点数だった。正直、こんな点数見たことない。



「マ、ママに怒られる……っ!」

「……だろうねぇ……」



うさぎはさめざめと泣いている。しかしこれは……助けられるかどうか……。



「とりあえず、お母さんのところに行こっか。お姉ちゃんも何とか弁護してあげるから……」

「うぅ……お姉ちゃん大好きー!!」



妹が漫画の主人公であっても、私の妹である事実に変わりはない。転生する前は年子の弟がいたのだが、私は妹が欲しかったので、私はうさぎを非常に可愛がっている。自覚している。もう、めちゃくちゃ甘やかしている。弟もいるのだが、こちらは小学生で、大分年が離れている。年が離れた弟は可愛い。年子の弟とはあんまり仲良くなかったのだが……やっぱ年が近かったのが問題だったんだなぁ。



「こううさぎーっ!! またこんな点数を取ってきて……少しはお姉ちゃんを見習いなさい!!」

「うわーん、ごめんなさーい!!」

「……まぁまぁ、お母さん。落ち着いて。うさぎにだって苦手な科目あるんだから、そう目くじら立てなくても……」

、あなたはまたそうやってうさぎを甘やかして……。逆に聞きますけどね、うさぎの得意科目は? ママはいつになったらうさぎの赤点以外の点数が見られるのかしら!!」

「あー……」



うさぎは、成績が非常に残念だ。目を背けたくなるくらい。典型的な落ちこぼれ成績だった。ちょっと救えないくらい。しかも、勉強が嫌い。今まで自分から勉強しているところなんて見たことない。



「あー、じゃあ私うさぎの勉強見るから、ね?」

「でもも受験勉強あるでしょ」

「人に教えるのは復習にもなるんだよ。それに、うさぎに教えるくらいで私の勉強に支障をきたさないようにするから……」

「……まぁ、あなたがそういうのなら……」



よし。
これでいい。まぁどうせ、うさぎに勉強を教える時間はなくなるんだろうけど。



「ほらうさぎ、いつまでも泣いてないで。そんなに泣くと、明日が辛いよ? 明日デートなんでしょ、目を赤くした状態で行きたいの?」



そう言うと、うさぎは顔を明るくして、明日のデートに対する意欲を語りだした。



「明日はねっ、この服を着ていこうと思うんだぁ。……まもちゃん、可愛い、って言ってくれるかなぁ?」

「大丈夫だよ」



すっかり頭の中から赤点のテストのことなんて抜け落ちている妹の笑顔を見て、私は苦笑した。








                         To be continued......





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とにかく原作・アニメを無視しています。本当に妄想ばかり。
普段は原作設定や背景を考えているんですが、今回は完全無視です。





                          2011/10/03 加筆修正