轟君とこたつ 02




轟君とこたつA


入寮した夜開催された部屋王決定戦で、俺の部屋を見たあいつがやけにキラキラした目で笑って、飛んできた星がぐさぐさと刺さって眠気が飛んでしまって以来、どうにも目が離せなくなった。
聞くところによると、日本人のくせに和室に憧れているらしい。季節が冬に近付くにつれて、またあのキラキラした目で「ねぇねぇ、こたつ出す?」と聞かれるようになった。
実家にいた頃だってこたつに用はなかった。寒ければ体温を上げれば事足りた。けれど期待を裏切りたくなくて、家から使っていないこたつを持ってきた。
こたつを用意して、あいつに「こたつ出したぞ」と言えばやっぱりキラキラした目で俺を見て物凄く喜んだ。星が刺さる。
そしてあいつはみかんを手土産になんの躊躇もなく部屋にやってきた。
男の部屋で何一つ警戒することなく寛ぐあいつを見てると、刺さったままの星が疼いた。茶を出してやれば「わぁありがとう轟君!」なんて今にも溶けそうな顔を向けられる。
あぁ、今この顔を見ているのは俺だけで、こいつも俺だけにこの顔を見せてるんだな、と思うと何だかとても満ち足りた。
それから暫く、毎日あいつは俺の部屋に来て世間話だったり宿題なんかをやったり、幸せだった。どう考えても、あいつはこたつが目当てで俺のことをこれっぽっちも意識していないだろうことは分かりきっていたけど、刺さったままの星が抜ける様子も無ければ自主的に抜く気も無いし、冬はまだ始まったばかりだ、ゆっくり俺を好きになってもらえれば、なんて思ってたのが悪かったんだろうか。
突然あいつが来なくなった。
あいつのいない部屋、使われなくなったあいつ専用の湯呑み……あんなに幸せそうにこたつに入っていたのに、こんな急に来なくなるなんておかしい。何よりもう、あいつが来ないと、この刺さったままの星の行き場が無くなってしまう。
「来ないのか? せっかくお前が言うから出したのに」
そう言うとあいつはどこか気まずそうに苦笑いしたあと、クラスのヤツらに付き合っているのかと誤解されたのだ、と話した。そして、気遣いは有難いのだけど、やっぱり良くなかったし轟君にも申し訳ないなんて見当違いを並べられる。
何だよそれ。俺に申し訳ない? ちっとも申し訳なくない。そもそも最終的にはそうなる予定だったんだ。誤解じゃなくなるし、恋人なんだと認識されていればお前にちょっかい出す奴もいなくなるだろ、むしろ願ったり叶ったりだ。
せっかく埋めてた外堀を掘り返されて、そのまま思わず眉間に皺がよった。所在なさげに立っているこいつの腕を掴んで部屋に連れ込む。前もって口田にうさぎを借りておいた。本当は猫がよかった。こいつが「猫はこたつで丸くなる」といつも可愛く歌っていたから、こたつにみかん、それと猫、これが1番ベストだったんだが、猫は手に入らなかった。
借りたうさぎを抱かせてこたつに入れる。すかさずその後ろから囲うように俺自身もこたつに入った。今までで1番距離が近い。腕の中で身体を固まらせているこいつについ笑みが零れた。
慣れるといい。どうせ近々毎日この距離で過ごすだろうから。
手を伸ばしてみかんを剥く。
「と、轟君?」
そんな震える声で、今は俺の事で頭がいっぱいだといい。
「……お前が、こたつ目当てで俺の部屋に来てることは分かってた。だからそれを利用させてもらおうって思ってた」
剥いたみかんを唇に押し当てる。ふに、と潰れた唇。みかんじゃなくて、俺の指だったら、……唇だったら、どんな感触何だろうか。
みかんはすんなり口の中に入る。
押し当てたら、口を開いてくれるだろうか。そうやって頬を染めてくれるんだろうか。何だか久しぶりに凄く幸せだ。満たされていく気がする。
「だからお前は今まで通り俺の部屋でこたつに入っていればいい。後は俺がこたつを仕舞うまでに何とかするから、な?」
こたつをしまう頃には理由もなく抱き締めていい関係になっているはずだからな。
今はうさぎの背で赤くなった顔を隠すことを許すが、その内俺の胸に顔を埋めることになるだろう。これからの事を考えると楽しくて仕方ない。
「いや、その、ね? 遠慮しとこーかなー…なんて」
そんな口先の抵抗はみかんで塞いだ。まだその唇に俺自身で触れる権利は持っていないから、仕方ない。その権利も、もうすぐ手に入る予定だから、焦る必要は無いだろう。