16:体育祭 -06-










「そろそろかな」



歓声が聞こえる。第一回戦の緑谷君vs心操君が終わったんだろう。
今私は、焦凍と一緒に控室にいる。チアガールの服装のまま。焦凍が試合に出ている間に着替えるつもりだ。確か、焦凍の試合からそこそこ早く進むはずだ。私の前の試合である飯田君vs発目さんはおよそ10分はやってたはずだから、着替える時間は十分にある。



「行ってくる」
「……頑張ってね」



ひらひらと振る手に一瞥だけ寄越して、焦凍は部屋から出て行った。相手は瀬呂君。負ける心配はしていない。道中で待ち構えているエンデヴァーとの遭遇の方が心配だ。まぁ、かといって何もしないけど。
マイク先生の試合開始の合図を聞いて部屋出て更衣室に向かった。























「や、瀬呂君」
? どうしたんだ?」



リカバリーガールのところに行けばきっと今ならまだいるだろうと当たりを付けた。焦凍が自分で溶かしたとはいえ凍傷になる可能性もあるし、と。



「ったく、轟の奴、ぶっ放しやがって」
「イラついてたんでしょう」
「笑顔で言わないでくんない? それで、がわざわざ訪ねてくるなんて何かあったのか」
「瀬呂君のマネ、させてもらおうかなって思って」



瀬呂君と私は個性が似通っていることもあり、クラスの中ではそれなりに話をする方だ。



「マネ? は……芦戸とか」
「うん。私たちの個性だと、ああして場外狙うのが一番簡単だからね。成功させるね」
「何だよ、嫌みかよ……」
「まぁ、期待しててよ。じゃあ、お大事に」



部屋を出てそのまま控室2に入る。



「あ、ちゃん」
「早いね」
「いや、ちゃん、もう飯田君達終わったよ!?」
「そうなんだ。じゃあ出番だね」
「頑張ってね!!」
「ありがとう」



思ってたよりも瀬呂君と話し込んでいたらしい。
まぁ、会場の成型とかするだろうし、そんなにすぐは始まらないだろうと思って会場に向かえば、まぁまぁいいところだった。ミッドナイト先生には「来ないかと思ったじゃない」とお小言を頂いたけど。



『さーて次は唯一の女子対決!! ヒーロー科芦戸三奈vs同じくヒーロー科!』
ちゃん! 手加減しないからね!!」
「じゃあ、私もそうする」
『START!』



走って向かってくる芦戸さんに中指から出した糸を付けて後ろに引っ張った。



「えぇぇ!」



基本的に私が出す糸は色を付けようとかしない限り透明で不可視だ。一生懸命糸を外そうと腕をバタバタさせているけど、糸を巻き付けているわけでもないし、そんなんじゃ糸は外れない。



「じゃあね」
『おおっと芦戸引きずられるように場外へ一直線! 成す術なしか!!』
『前の試合で瀬呂がやっていた速攻と同じだな。あれの成功例、ってとこか。ああいう個性には最善で最短の策だな』




最速で最短で真っ直ぐに一直線に! 胸の響きもこの思いも伝わりはしないけれど! 特に何も考えてないし。



「芦戸さん場外! さん二回選進出!!」



場外の芦戸さんに近寄って手を差し出す。その手は拒まれることなく掴まれたのでそのまま引き上げて立ち上がらせた。



「もー、ちゃん一歩も動かなかったじゃんー。強すぎるよぉ」
「そんなことないよ」



実際、次の常闇君には通用しなさそうだから考えなきゃいけないし。
はぁ、こんな時緑谷君と友達だったら対常闇君の対抗策でも考えてくれただろうか。
汚れることもなかったので、そのまま控室は寄らずに観覧席でも戻ろうか、と廊下を歩いていれば、少し先に壁に寄り掛かった焦凍を見つけた。




「お迎えにきてくれたの?」
「お前は出迎えてくれなかったけどな」



これで着替えた後瀬呂君のところに行きましたなんて言ったらもっと嫌味を言われそうだから黙っておこう。



「A組の観覧席、こっちじゃないよ」
「あぁ」



そう言って違う方向に歩いていく。適当なところの壁に寄り掛かった。一応、前方にはA組の姿もある。座りたいけど、すぐ前の席は空いてないし、これで「じゃあね」なんて言ってA組の席に行くなんて選択肢は与えられてない。いいじゃん。どうせ見るんだったら緑谷君の解説付きで見ればいいのに。……焦凍の今の精神状態でみんなと仲良く観戦出来ないか。今の焦凍に心の余裕はないからなぁ。あの爆豪君だって自分の試合が終わったら観覧席に戻って観戦するというのに。それに黙って付き合ってる私も相当だけど。自分の事を棚に上げている場合じゃないかもしれない。
眼下では麗日さんvs爆豪君の試合が始まろうとしていた。






END
2019/01/08


暫く書いてなかったからか、クラスメイト達を何と呼んでいて何と呼ばれているのか分からなくなったから、後でこっそり直しているやもしれません。