02:戦闘訓練‐前編‐






雄英のヒーロー科とは言えど、他の高校と何ら変わりなく、いわゆる必修科目と呼ばれる授業がある。
そして午後から……ヒーロー基礎学という、ならではの授業がある。しかも、この授業は、No.1と名高いヒーロー・オールマイトが受け持つ。
クラス内の期待たるや、空気がうずうずしている。



「わーたーしーがー!!」



大きな声が聞こえた瞬間、空気のうずうずが最高潮に達した。



「普通にドアから来た!!!」



ものすごい圧だ。先生からは私の席が対角で一番遠いのだけど、声だけでもビリビリ空気が震えている……ような気がする。



「オールマイトだ……!! すげぇや、本当に先生やってるんだな……!!!」

「銀時代のコスチュームだ……!」

「画風違いすぎて鳥肌が……」



ちなみに私は、北斗の拳みたいな絵は苦手である。アメコミ風なんだろうけど、オールマイトの濃い顔も苦手だ。長い時間見ていたいとは思わない。



「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ!! 単位数も最も多いぞ」



先生はぐぐぐ、っと力を溜めて、小さいプレートを一気に突き出した。そのプレートには『BATTLE』と書いてある。



「早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」



まぁ、初めて行う課目で、生徒に興味を持たせるにはそういう選択になると思う。その証拠に、クラスメイト達は期待に目を輝かせている。



「そしてそいつに伴って……こちら!!!」



教室の前の壁が動き出す。



「入学前に送ってもらった「個性届」と「要望」に沿ってあつらえた……戦闘服!!!」

「おおお!!!!」



興奮に沸くクラスメイトは席を立ちあがる。やる気十分、というところだろうか。



「着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ!!」

「はーい!!!」



戦闘服を手にして着るのはこれが初めてになるから、不具合がないかなどの確認も含めてあるんだろうな。自分の出席番号のケースを取り出す。しっかりと要望を書いとくべきだと覚えていたから、大分細かく、趣味全開ではあるけど、写真も添付した。
入学が決まって、必要書類の「個性届」を役所に取りに行ったついでに、一緒にいた焦凍と一緒にそのまま「要望」の記入を行った。随分と細かく書いていて、焦凍は若干引いてたかもしれない。いや、要望の細かさじゃなくて、私の趣味の方に引いたのかも。A4の紙に目いっぱい書き込みをしたしなぁ……。



「わぁ、さん、それって白衣?」

「“個性”ってそっち系だったっけ?」



全部着用すると、何というか、まるっきりまんま、ではなかった。
紺色のケーシー、白いドクターコート。ここまではいい。そう言えば確かに上半身ばっかり細かく要望してたかもしれない。そう、下半身が。白いショートパンツに、黒いミリタリーブーツ(ロング)(踵も高め)。あれ、こんなつもりじゃ……。あれー?

着替え終わって、更衣室を出ると、すぐ近くで焦凍が待っていた。無言で全身を眺めた後、何か言うでもなく、「行くぞ」と歩き出したのを慌てて追いかける。



「ちょっと、何かしら言うことがあるんじゃないの?」

「「要望」書いてた時に完成形は大体分かってた。強いて言うなら……足、どうした」

「それな! すっかり忘れてて。けど、会社もここまで医療服で要望してるんだから、最後まで通してくれもいいと思わない? 下半身ミリタリーってどうなの」

「動きやすくていいじゃねぇか」

「……あまり興味がないってことはよぅく分かりました」



ぞろぞろとグラウンドに集まりだす。一番最後に緑谷くんが走ってきて、全員が揃う。



「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

「いいや! もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!! 敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が、凶悪敵出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売……。このヒーロー飽和社会ゲフン、真に賢しい敵は屋内にひそむ!!」



中々にこう、新米教師とは思えない、良い講釈だと思う。つい本音が出てしまうところも笑いを誘うポイントだ。誰も笑わなかったけど。



「君らにはこれから「敵組」と「ヒーロー組」に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!!」

「基礎訓練もなしに?」



蛙吹さんがまぁ最もな意見を出す。



「その基礎を知る為の実践さ! ただし今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ!」



そこで一旦先生が説明を止めると、矢継ぎ早に質問が飛び交う。



「勝敗のシステムはどうなります?」

「ブッ飛ばしてもいいんスか」

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」

「このマントヤバくない?」

「んんん〜〜聖徳太子ィィ!!!」



どうせなら説明を全部聞いてから質問すればいいのに、みんなせっかちだなぁ、なんて。そして青山くん、お前の思考の方がヤバいと私は思うよ。



「いいかい!? 状況設定は「敵」がアジトに「核兵器」を隠していて、「ヒーロー」はそれを処理しようとしている! 「ヒーロー」は制限時間内に「敵」を捕まえるか、「核兵器」を回収する事。「敵」は制限時間まで「核兵器」を守るか「ヒーロー」を捕まえる事」



先生がサイズの小さい(様に見える)紙を隠すことなく読みあげる。設定がなんというか、24みたいだ。クソォ!と叫んどけばいいだろうか。



「コンビ及び対戦相手はくじだ!」

「適当なのですか!?」



先生がLotsと書かれた箱をス、と差し出すと、すかさず飯田くんが突っ込んだ。
まぁでも、適当になるのも仕方ないと思う。入学して2日目で、先生方はともかく、私たち生徒同士では“個性”の把握など特に出来ていない。相性の良し悪し含め。とは言っても、



「プロは他事務所のヒーローと急増チームアップする事が多いし、そういう事じゃないかな……」



という事まで先生が考えていたかは疑わしいけど。



「そうか……! 先を見据えた計らい……。失礼致しました!」



それで納得してしまうのだから、飯田くんは結構単純な人間なのかもしれない。



「いいよ!! 早くやろ!!」



しかし、コンビか……。このクラス、21人なんだけど、どうするんだろうか。
回ってきた箱からくじを引く。くじには「K」と書かれていた。……「K」? アルファベットで11番目の文字だ。焦凍のくじには「B」と書いてある。自然と周りがペアを見る中で、私は誰とも目が合わない。しかし、ふいに先生と目が合った。



少女が「K」を引いたのかな! そう! クラス21人だからね、どうしてもコンビだと一人余ってしまう! 今回「K」はコンビ無し、一人でやってもらう」



うわ……。じわりとした嫌な予感ていうのが背中を滑り落ちる。



「そのかわり、「K」は「敵」固定で、順番は一番最後! 「ヒーロー」はくじで決めるから、どこかのチームが二回戦闘を行う事とする!」



まぁハンデとしては悪くないと思う。確かに他の「敵」達に比べ、「ヒーロー」の“個性”を把握しておくことが出来るし、そもそもこの訓練、勝敗条件だけ考えても、「敵」側が有利な状況を作り出しやすくなっている。
それでも、一人は嫌だけど。
ついつい、面倒だと思った心が顔に出てたのか、焦凍に軽く窘められた。

先生の説明に頷けば、先生はまた別の……今度は「HERO」「VILLAIN」と書かれている箱からくじを引いた。「HERO」が「A」、「VILLAIN」が「D」。緑谷くん・麗日さんペアと、飯田くん・爆豪くんペアだ。



「敵チームは先に入ってセッティングを! 5分後にヒーローチームが潜入でスタートする。他の皆はモニターで観察するぞ!」



先生がそれぞれのチームにアドバイスを行った後、4人を残してモニター室に生徒たちを誘導した。モニター室には様々な角度から撮ってある画面がいくつも並んでいるが、音声の一切は聞こえてこない。モニターの向こうでは、ビルの壁が爆豪くんの“個性”によって無残にも破壊されていくが、全く破壊音はしない。
こんなに破壊されたら、他のチームは別の場所でやるんだろうか。






END







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相手チームはあみだくじします。