15:体育祭 -05-




「お前、具合はどうなんだ」



食堂のテーブルの上にはざるそばが二つ。私を席に座らせた後、焦凍が持ってきた。口当たりのいいざるそばは食べやすいけど、どちらかというと私はうどん派である。



「頭はマシになってきたけど……まだ怠いかな。……全く、酷い使い方してくれたなぁあの子。恨んどこう」
「この後どうすんだ」
「どうしようかな。一応当初の目的である本選出場は叶ったけど、師匠的に洗脳状態がお気に召さない可能性の方が高いし、一試合くらいしておこうか、とは思ってる」
「そうか」



緑谷君はきちんと食事を取れてるだろうか。正直緑谷君は怒ってもいいと思う。食事前に時間を取らされた挙句、くっそ重い話されて……喉を通るだろうか。



「あぁ! ちゃん探したんだよ!!」



二玉だけ食べて、残りを全部焦凍に押し付けていた時、後ろから声をかけられた。透と耳郎さんがいた。



「峰田君と上鳴君が相澤先生から言われたらしいんだけど、この後女子はチアの格好して応援合戦するんだって!」
「これ、の分。皆着替えに行くから、一緒に行こ」



すっかり忘れてたが、そういえばそんな話があったような気もする。
実際に相澤先生と話をしていても、ここで相澤先生が女子にチアガールさせるとかそういうことを言うとは思えないけれど。「先生が言ってたから」で素直に聞き入れるA組女子の素直さは見習わなければいけないかもしれない。ここで「冷静になってよく考えて。言い出したのは峰田君と上鳴君なんでしょ? 普通そういうことは委員長ないし副委員長に言うと思わない?」と諭してもいいんだが……。



「そうなの。じゃあ、行こうか」
「おい」
「焦凍、先行ってるね」



渡されたチアの服が可愛いし、中々こんなのを着る機会もないだろう、と少しテンションが上がった。























「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」



やっぱりこうなったな、と項垂れる八百万さんの背中を見やる。
彼女だって本選控えてるというのに、わざわざ個性で衣装を出して、本当に感心する。頭いいはずなのにこんなに騙されやすいなんて、やっぱり人間どこか詰めの甘いところないと、ってことなんだろうか。



「まァ本選まで時間空くし張りつめててもシンドイしさ……いいんじゃない!!? やったろ!!」
「いえー!」
「透ちゃんちゃん、好きね」



出してもらったぽんぽんを振り回す。チアリーダー達みたいにしっかりと演技できないけれど、まぁ見様見真似で。
レクリエーションの前に本選のトーナメントのくじ引きを行なう様だ。
ミッドナイト先生がLotsと書かれた箱を掲げる。前にオールマイト先生の戦闘訓練で使った箱と同じだ。使いまわしだろうか。
そんなことをつらつらと思っていたら、いつの間にか尾白君が棄権を申し出ていた。普通科の男の子に操られた他の人も一緒に。この流れでいくと、私もその一員なんだけど。B組の人も「何もしてない者が」本選に出場するのは体育祭の趣旨と相反するのではないか、とか何とか言って棄権を申し出ている。……そうだな、本選に出場して体をいじめなくてもいいかな。それに、正直本選出場メンバー見て、誰と当たっても面倒だな、とか。そう思って手を上げようとしたけれど、がしりと押さえつけられた。振り返ると、焦凍が右腕を掴んでいた。「え?」「面倒だ、とか思ったんだろ」棄権するな、と言うことだろう。さっきまでは私の体調を心配してくれていたはずなのに。まぁこんな格好をしている時点で「体調が良くないです」とか説得力ないし。諦めてくじを引いた。
結果。
一回戦は芦戸さんとだ。もし順調に勝ち上がれたとすれば、焦凍とは決勝で戦うことになる。その前に常闇君がいるし、よしんば勝てたとしても爆豪君がいる。絶対に戦いたくない。まぁ、頑張れても常闇君までだろうな。いや、常闇君とも戦いたくないんだけど。



『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクリエーション!』



気合い入れてチアやるか、と透と顔を見合わせたけど、「行くぞ」と焦凍に手を引かれた。そのまま拉致られ、建物の裏の人気のない林に着いた。壁に沿って座らされる。
精神統一くらい、一人でいたほうがいいだろうに。






END
2019/01/08