14:体育祭 -04-




「あの……話って……何? 早くしないと食堂すごい混みそうだし……。えと……」



緑谷君の言う事は最もで、わざわざ時間を取らせているというのに、焦凍は要件を話すでもなくただ緑谷君を威圧している。緑谷君が喉を鳴らした。彼は結構な臆病者らしく、若干顔も青ざめているみたいだ。



「気圧された。自分の誓約を破っちまう程によ」



ポケットに入れてた左手をゆっくり取り出す。
正直言わせていただければ、別に“個性”は念とは違って誓約と制約によって強化されるわけじゃなし、ただ「全力」を出さないだけだ。だからこそ爆豪君なんかに「舐めプ」って言われるのだ。爆豪君は爆豪君なりに、何というか、何て言うんだったかな、獅子博兎、だろうか。つまりいつでも全力。自分の持てる全てで戦うのが相手に対する礼儀、とまぁそこまで考えてるのかは知らないけど。けれど、客観的に考えてみれば、好感が持てる戦い方っていうのは爆豪君のやり方になる。しかし如何せん、あの性格だからなぁ……。つくづく残念な人だ。



「飯田も上鳴も八百万も常闇も麗日も……感じてなかった。最後の場面、あの場で俺だけが気圧された。本気のオールマイトを身近で経験した俺だけ」

「……それ、つまり……どういう……」

「おまえに同様の何かを感じたってことだ」



左手から緑谷君に視線を戻す。



「なァ……オールマイトの隠し子か何かか?」



数日前、焦凍がぽつりと「緑谷はオールマイトの何なんだろうな」と漏らしていた。特に解答を求められてるわけでもなさそうだったし、というかなんなら答えも知ってるしで黙ってたんだけど、やっぱりこの解答に辿り着いたみたいだ。まぁ、安直ではあるけど、行きつき易い答えだと思う。



「違うよそれは……って言ってももし本当にそれ……隠し子だったら違うって言うにきまってるから納得しないと思うけどとにかくそんなんじゃなくて……。そもそもその……逆に聞くけど……なんで僕なんかにそんな……」

「……「そんなんじゃなくて」って言い方は、少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな」



緑谷君は焦るとお家芸を出して一気に否定を重ねた。緑谷君、思考力は凄いかもしれないけど、思慮深くはないし、何なら否定の仕方も下手だ。焦凍の言ってみれば八つ当たりに、こんな真面目に付き合う必要もないだろうに、緑谷君は酷く優しいものだから。



「俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ。万年No.2のヒーローだ。お前がNo.1ヒーローの何かを持ってるなら俺は……尚更勝たなきゃいけねぇ」



私の一番嫌いな話。
小さい頃からずっと一緒にいたから、リアルタイムでこの話の光景を見た。
エンデヴァーの野望。それに振り回された母親。とばっちりをくった焦凍。体調は悪い時に聞きたい話じゃない。
焦凍の母親は、精神を病んでしまうまではとても優しい、笑顔が素敵な人だった。焦凍が泣き顔しか覚えていないのは、焦凍の年齢が上がるにつれて泣く回数が多くなったためだろう。
焦凍は、母親の泣き顔ばかり覚えないで、もっと優しい記憶を覚えておけばよかったのに。全部が全部エンデヴァーへの憎悪に塗りつぶされて、そしてエンデヴァーの期待に応えうる才能もあったもんだから。本当に、悪い方向に歯車が噛み合ったものだ。



「言えねえなら別にいい。おまえがオールマイトの何であろうと、俺は右だけでおまえの上に行く。時間とらせたな」



行くぞ、と腕を取られて立たされる。呆然としている緑谷君と目は合わない。



「僕は……ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ……僕は誰かに救けられてここにいる。オールマイト……彼のようになりたい……。その為には1番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたらささいな動機かもしれない……。でも僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人たちに応える為にも……! さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも……。僕も君に勝つ!」



緑谷君あのね、動機に上も下もないんだよ。緑谷君の動機だって1番を目指すに相応しい動機だと思う。明るく、前向きで……未来がある動機だ。
焦凍だって本当は、オールマイトみたいなNo.1ヒーローになりたくて今ここまで来るに至っているんだよ。本当はね。
本人も忘れてるんだけどさ。










END


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短いですが、ここで切ります。
この後食堂でご飯までは入れようかと思ったんですが、まぁキリもいいし。





2017/12/07