12:体育祭 -02-






『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!』



入場口に待機する。



『どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!? 敵の襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』



先頭が歩き出した。



『ヒーロー科!! 1年!!! A組だろぉぉ!!?』



最上階までびっしり埋まっており、それに比例して歓声が凄いことになっている。テレビ中継がもちろん入っているので、実際の観客数はこれの数倍以上ってことになるだろう。とりあえず、私は2年と3年の部を録画してきた。体育祭の次の日は休みだから、家にこもって録画を見るつもりだ。やっぱり注目は3年かな。校長がどう主審をしてるのかも非常に気になるし。



「選手宣誓!!」



ミッドナイト先生が鞭片手に爆豪君を呼びつける。爆豪君が選手宣誓を担当する。



「せんせー」



両手をポケットに突っ込んで、どうにも覇気を感じられない声。



「俺が一位になる」

「絶対やると思った!!」



万が一番狂わせでもあって、焦凍が一位になりでもしたら、どんなことをされるか……。「何でも願いを叶えてあげる」なんて早々言わない言葉に、焦凍が大分食いついていたのは一日経った今日でも鮮明に覚えている。私自身、絶対に果たされない約束だと安心しきって言ったのだし。
そんなわけで私は爆豪君を全面的に応援している。頑張ってほしい。

それにしてもまぁ随分をヘイトを集めたものだ。感動すら覚える。



「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」



親指で首を刎ねる様な仕草をする。他の科に加えてA組からのブーイングが目立つ。
まぁ、自分を追い込んでるんだか何だか知らないけど、そのヘイトが爆豪君だけではなくA組に向いているのが本当にいただけない。さっきから名前も知らない他の科に人たちに睨まれている。



「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!」

「雄英って何でも早速だね」



思わずと言った麗日さんの突っ込みに、少し笑いが零れた。が、それを咎めるように焦凍がこちらを見た。宣戦布告してやり返されて、観客の中のエンデヴァーを見つけたんだろう。急激に機嫌が下降しているらしい。余裕のない男は嫌われるよ、なんて流石に言えないけど。そう言えばクラスの高火力ツートップは余裕がないヤツばっかだな、とふと思った。



「いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者がティアドリンク!!」



さて、本来なら予選落ちしてもいいくらいのモチベーションだったのだけど、師匠に指名を入れてもらう為には、本選出場が最低ラインだ。つまり、頑張らなくちゃいけない。



「さて運命の第一種目!! 今年は……コレ!!!」



ばばん、とスクリーンに表示されたのは、『障害物競争』。隣の焦凍が「残念だったな」と肩を叩いてきた。どうせ私の足が絶望的に遅いことを揶揄ってるんだろうけど、説明は最後まで聞いてから言うべきだ。



「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周約4q! 我が校は自由さが売り文句! ウフフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」



4qともなれば、それはもう持久走並みの距離だ。実際中学のマラソン大会の距離は約4.2qだったはず。まぁ、ただ走るだけじゃなく、障害があるので、体力は使うだろうけど、私個人としては、持久走は苦手じゃない。中学のマラソン大会だって、女子の中で3位だった。



「ほら、前に言った方がいいよ」

は行かないのか?」

「行かない。狭いし、巻き込まれたくないし……別に上位狙ってるわけでもないから。……頑張ってね」



ぐい、と背中を押して、焦凍を前にやる。「転ぶなよ」とだけ言いおいて焦凍はスタートラインに向かった。



「さあさあ位置につきまくりなさい……」



ミッドナイト先生の声に合わせてスタートラインのランプが点灯した。
この後の流れとして、焦凍が氷結でもって足止めをし、巨大ロボ達を相手取っては他人の妨害しつつ上位キープってな感じになる。
私がこの障害物競走で生き残るには、上位42名のどこかに入れればいい。“個性”を使って空飛べば、とりあえず誰の邪魔も受けない。何せ、私が飛ぶ空とは、10m以下ではない。瀬呂君や常闇君より遥か上だ。何せ雲に糸をひっかけるわけだし。
ただし、ルール的に、そこがコースとしてアリなのかが大分グレーなので、何とも難しいところだ。それに、4q丸々、空の道を使うのは、キャパ的に厳しい。これから先の競技のために温存もしておかなければならない。ちなみに、キャパオーバーすると、目眩・吐き気・頭痛などの体調不良として現れてくる。そして、中々治まらない。



「スタ―――――――ト!!」



一斉に皆が走り出す。のを横目で見る。
作戦、というほど大したものじゃないけど、一番最初の障害物・巨大ロボはある程度数が減って通りやすくなるまで、避けつつ流して走る。次の綱渡りからの地雷原は、もうちゃっちゃと“個性”を使って飛び越える。これで、まぁ42位までに入れるだろう。一応、青山君よりは前を走るようにしておけば、ひとまず安心かな。























思っていたより、焦凍の氷結に足を取られている人が多かったし、ロボットに苦戦している人たちが多く、私が第二関門に着いた時には、丁度焦凍が第二関門を突破したところだった。

第二関門、ザ・フォール。私のような“個性”にとっては、何も障害にならない。
飯田君が実況にも突っ込まれるかっこ悪いポーズで綱を渡っているその横を、一本糸を関門の出口の綱に引っ掛けて飛んだ。見えていれば、糸は飛ばせる。後は出した糸を収納するイメージ。まぁ、掃除機のコードをボタン一つで巻き取る……あんなイメージだ。スピードが出るので、重力で落ちないし、もし失速して落ちそうになっても、また新しく糸を出して支えればいい。
実況のマイク先生が『さながらスパイダーマン!!』と評価していただけているが、入試の時のマリオといい、大分古いネタがお好みのようでいらっしゃる。
私の“個性”は、出したものをしまえば、その分はプラマイゼロになる。キャパシティに変動がない。ただし、切ったものは戻せないし、もちろん燃やされたりしたら戻らない。そういったものが積み重なるとキャパオーバーになる。だから基本、“影騎糸”なんかを作り出しても、戻せるように糸は繋いだままだ。最初の戦闘訓練で、切島君にばっつばつに切られた糸は戻せないので、その分私のキャパシティを侵食されていた、というわけ。あのくらいならキャパオーバーにはならないけど。

無事第二関門を突破し、再び走り始める。
さっき大分抜かしたけれど、この平坦なコースでまた抜かし返される。飯田君とか、全速力で走ってるからね。まぁ、スピード系の“個性”なら、障害物で稼ぐより、何もないとこでマックス頑張った方がいい結果になりそうだ。
まぁ、私自身も先ほどから走っていると表現しているけど、実際はちょっと早歩き、程度だ。抜かす人抜かす人、二度見してくるのはやめてほしい。A組に至っては、「もっと走れ!!」って檄飛ばしてくるし。いいんだよ、次の地雷原もひとっ飛びするんだから。

そうしてのんびり走っていても、私が第三関門、怒りのアフガンだかに着いた頃、よっぽど慎重になっているのか、焦凍も爆豪君もまだ地雷原にいた。
地雷原の入り口では、緑谷君が地面を掘って地雷を集めていた。ちょっとの振動で反応する地雷をよくもまぁ爆発させずに山積み出来るもんだな、と感心してしまう。感心してしまうが、このままここに突っ立っていると、爆風で巻き込まれるので、囲っている有刺鉄線の上に逃げる。
いやぁ、それにしても凄い爆音だ。先生の言う通り音と見た目は派手だ。これ、心臓悪い人見てたら倒れちゃうんじゃないだろうか。テレビ中継大丈夫かな。ちゃんと注意喚起のテロップ流しているだろうか。



『元・先頭の2人、足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!! 共通の敵が現れれば人は争いを止める!! 争いはなくならないがな!』

『何言ってんだお前』



そろそろいいかな。
大分調子よく進んだおかげで、ここで地雷原を“個性”でクリアすれば、42位以内どころか、そこそこの上位に入りそうだ。ゆっくり“個性”使わずに進むのもいいけれど、爆風を浴びて汚れたくないしな、と思った。まぁ、地雷原抜けたら競歩でもするかな。体育祭なんだし、楽しまないとね。
そう決めて糸を伸ばした。









END

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ただ真面目に走っても自分が楽しくないので、周りをおちょくりつつ、自分が楽しいことをやる。例によって主人公の性格はあまりよろしくないですから。




2017/11/16