11:体育祭 -01-




起こされてまず、窓の外を確認した。
カーテンを開けるまでもなく、光は漏れていたけど、それでも雨の可能性は捨てきれなかった。



「まぁ、晴れてますよね……」

「寝ぼけてんのか。早く着替えろ」



そう言って制服を投げてよこした焦凍はすでにシャツとズボンまで着ていた。



「相澤先生なら『合理的じゃない』とか言って体操着での登校を言ってくるかと思ってたのになぁ」





私が何をぼやいていようがお構いなしに、ん、と焦凍が自分のネクタイを差し出してきた。人に着替えろとか言っておきながらまず先に自分のネクタイ締めさせるそのマイペースっぷり。末っ子だなぁ、といつも思う。そんなに甘やかされて育ってないくせに。
拒否権は無いので、黙ってネクタイを結んでやった後、味噌汁を温めておくようにお願いして、部屋から追い出した。自分も手早く着替えて部屋を出る。
昨日の残りのサラダと、簡単に目玉焼きでも焼こう。





















雄英体育祭は、学年ごとに、全ての科をごちゃ混ぜにした総当たり戦。予選に勝ち抜かなければ、自身のアピールの場が圧倒的に減ることになる。
例年通りであれば、プロ間近の3年生に注目が集まるのだけど、今年に限っては敵の襲撃を乗り越えたという事で、1年生……1年A組に注目が集まっている。
正直言えば、私にとっては出来レースも同然な側面もあり、モチベーションというかやる気そのものがなかったのだけど、控室で時間を待っている間に来た1通のメールのせいで事情が変わった。
相澤先生が言っていたように、この体育祭で活躍することによって、プロからのスカウトの対象になる。そして、その興味がこの後の職場体験に関わってくるのだけど、実は、父の知り合いに医療系ヒーローがおり、その人が指名を入れてくれることになっているので、安心していたのだけど、その人から



「せめて本選まで残らないと指名入れねーぞ」



という脅しが入ったので、適当に流すわけには行かなくなってしまった。



「皆準備は出来てるか!? もうじき入場だ!!」



委員長は本日もフルスロットルだ。変わらず携帯を弄っていれば、隣に座っていた焦凍が立ち上がって緑谷君に声を掛けた。あぁ、宣戦布告か、と視線を携帯に戻す。



「ねぇ、ちゃん。止めんでいいの?」

「いいんじゃない? 別に喧嘩売ってるわけじゃないんだし」



心配した麗日さんが声を掛けてくる。



「仲良しごっこじゃねえんだ。何だって良いだろ」



いや、やっぱり喧嘩売ってるのかもしれないな。まぁ、前もって緑谷君には焦凍に目を付けられてるよ、と告げ口しておいたんだし、ある程度の予想はしていればいいな、とは希望的観測だけど。



「僕も本気で獲りに行く!」

「……おお」



やっぱ焦凍、大分目つき悪いな。
まぁ、無理もないか。なんたって父親見に来てるの分かってるからね。憎たらしい父親の前で氷結の方だけの個性を使って一番になる。それによって父親のいままでを完全に否定する。そう息巻いている。
まぁ、幼馴染とはいえ、結局外側から見ていた他人である私から言わせていただければ、焦凍はエンデヴァーへの憎悪に囚われて、“一番になる”理由をぽっかりなくしてしまい、その空いた穴にただ憎悪を埋め込んだ。どうしてヒーローを目指しているのか。その根幹を取り戻せない限り、いくら憎もうが反抗しようが、結局エンデヴァーの野望を叶えるための道具のままだと思う。それに、焦凍はエンデヴァーを見返したとして、それで満足するんだろうか、という疑問もある。
色々思うところはあるけれど、それを一言も本人に言ったことはない。言うべきじゃない、というのもあるけれど、きっと私は、焦凍に近い場所にいながら、思ったことを告げて聞き入れられなかった時のことを考えると怖いんだろう。無下に扱われることを嫌って、何も言わずただ黙って傍観していた。

焦凍はこの体育祭で変わる。
その時私は、そのことを純粋に喜び、祝ってあげられるだろうか。今まで通り焦凍の傍にいられるだろうか。ただそれだけを心配している自分に、吐き気を覚えた。







END

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体育祭、何話いくかな……。


2017/11/13