10:体育祭 -序02-









いよいよ、明日が体育祭である。
言わずもがな、多忙な両親は見に来れない。お隣のNo.2ヒーローでさえ息子の活躍を見に来るというのに、優秀な医者というのは本当に大変だ。
母から届いたメールに返事を送り、そこで目の前に座っている焦凍を見やった。



「それで? 体育祭にむけて、冬美さんが腕によりをかけたご飯を作ってくれるんじゃなかったっけ?」

「……クソ親父が帰ってくるって聞いたから、断った。姉さんも、のとこ行くっつったら笑って送り出してくれた」



母からのメールが来る前に、冬美さんからもライン来てたから、まぁ知ってたけど。晩御飯の足しにして、と焦凍が冬美さんから預かってきたタッパーを差し出された時から半分は諦めてたけど。



「そうは言われてもなぁ、晩御飯ノープランなんだけど」



とりあえず冬美さんから貰ったタッパーの中身を確認する。とんかつだ。



「……かつ丼にせよ、というお告げかな」

「蕎麦食いてぇ」

「却下。どうせ明日のお昼蕎麦食べるんだから」



タッパーを持ってキッチンの明かりをつける。後ろから蕎麦蕎麦聞こえるから焦凍がついてきてるんだろう。ついてきたところで、何もさせないけど。
ひじきと枝豆とシーチキンあるから、マヨネーズサラダ作って、後は適当に味噌汁でも作るかな。かつ丼だったら、まぁ、他におかずもいらないだろう。



「蕎麦食いてぇ。なぁ、



後ろから回された腕を除けて、まとわりつこうとする焦凍に向き合う。



「明日、焦凍が体育祭で優勝したら、何でも要望聞くよ」



優勝出来ないの知ってるし、正直私に蕎麦をリクエストしてくるような心境でなくなるだろうことも予想出来てる。
そしたら明日の晩御飯は私一人のはずだから、今日サラダと味噌汁多めに作っておけば帰りにお惣菜買ってきて簡単に済ませよう。



「何でも……飯以外でも?」

「何でも。ご飯以外でも。好きなように」



どうせ、って分かっているから安請け合いし放題だ。
























「……ねぇ、もう22時過ぎるんだけど」



いつ帰るの、と茶を啜っている焦凍に聞く。



「寝るか?」

「いや、私はまだ寝ないけど、焦凍はそろそろ寝る支度する時間じゃないの」

「あぁ、眠くなってきた」



そう言って焦凍は立ち上がって持っていた湯飲みを流しに置いた。お、帰るか、と思っていたら、そのまま腕を掴まれ、私の部屋に連れていかれる。
本当、こいつはここが他人の家だと分かっているんだろうか。まるで自分の家のように振舞って。
部屋のタンスの一番下の引き出しを開けて自分の分の寝間着を取り出して、私の存在なんて見えないと言わんばかりに言わんばかりに着替え始めた。
あぁこいつ、泊っていく気だ、と諦めて、私も自分のパジャマに着替えるためにクローゼットを開けた。そうしたら、焦凍の制服が掛かっていた。いつの間に持ってきてたんだ。私が晩御飯の支度をしている時だろうか。「明日優勝したら何でも好きなこと叶えてやる」なんて言葉に気を良くして、リビングで大人しくテレビでも見てるのかと思ってたのに。あぁそう言えばエンデヴァーさんが帰ってきてるって言ってたもんな。忙しいとは言え、それでも週に5日も家にちゃんと帰ってきてるのに、顔も合わせたくないと、そんな時は大体私の家にやってくる。家に帰ってこないとわかると、私を家に連れ込む。そんなこんなで私がゆっくり一人で寝れるのは週に2日もない。



、ねみぃ」



ぐい、と腕を引かれる。ポスリとベッドの上に落ちた。
大体、和室じゃないと落ち着かない、とか言いつつ、全く真逆の私の家でこんなにくつろいで、嘘だろって思う。それに、あんまり焦凍と寝るのは好きじゃない。寝相、良くないんだよね。一人で寝かせておくと、いつの間にか180度回転してるし。一緒に寝てたら回転はしないけど、物凄く圧迫されるのだ。壁際に追い詰められて、腕が体に巻きついて、しっかり抱えられて。起きても身動きが取れないなんてザラだ。
もう一人で寝ろよ、とついつい言いたくなるが、前にそれを言って、大分酷い目に遭ってからは言わないようにしてる。
全く、まだ日付も変わっていないというのに、もう寝かされるなんて。まぁでも、明日は色んな意味で疲れるだろうから、早めに寝るのもいいかもしれない。



「明日、頑張ってね」

「……お前もだろ……」



呆れたように焦凍が言う。
ううん。明日、色々大変な思いをするのは焦凍の方だよ。頑張ってね。
私はこうして心の中で応援して、傍観してることしかできないんだから。









END





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家は隣同士。片や日本家屋、もう一方は洋館。
夢主の憧れはこたつ。実家に和室が一つもないので、轟家にこたつシーズンが来たら大体入り浸っている。こたつラブな夢主を見て、轟君が面白くなさそうな顔をしていると尚良し。



2017/11/08