08:EX-01









流石に疲れた。
戦闘という面では何もしていないに等しいけれど、久々に重傷の人を見た。普通に“個性”を使う分には問題ないけど、こと“治療”という意味で使うと、物凄く神経を使うのでかなり疲れる。
だから家に帰って早々、自室のベッドに横になったのだ。制服だけは脱いだ。皴になった制服を直す方が手間がかかる。
晩御飯とか色々考えたけど、両親は今日も帰ってこないと連絡があったし、じゃあいいか、と。
両親ともに病院勤めで、非常に忙しく、月に2〜3日程度だ。だから私は休みの度に病院に足を運んでは着替えだったり差し入れだったりをしている。きっと明日も行くだろうけど、とりあえず今日はもう眠い。
布団を被ったところで、枕もとのスマホが光った。焦凍からだったから、内容を確認もせず、ただ「もう寝るから」とだけ返して電気を消した。



































家に着いて速攻寝に入ったから、大体20時前くらいだったと思う。目が覚めて、大分寝たな、という気になったけど、外はまだ暗い。時間を確認しようと体動かすと、自分以外の体温を感じた。腕ががっちり回っていて身動きがとりずらい。
焦凍だ。
見なくてもわかる。いい加減、黙って人のベッドに入り込んでくるのやめてほしい。大体、和室じゃないと落ち着かないなんて言いつつ、実際布団で寝てるのなんて週の半分くらい。半分無い時だってある。



、起きたのか?」

「……ん。えぇ、まだ日付変わってすらいないの……」



少しだけ緩くなった腕から自分の腕を出してスマホで時間を確認する。起きたらおなかも減ってきた気がする。



「焦凍、離して。お腹すいた」

「何作るんだ」

「もう時間も時間だしなぁ……何か、ちゃちゃっと出来るもの……」



冷蔵庫の中身を思い浮かべる。大して浮かばない。そうだ、買い物行かなきゃいけないんだった。
もう、インスタントラーメンでいいかな。



「一人で食う気か?」

「……え。食べるの?」



聞けば、焦凍も晩御飯を食べていないらしい。スマホに送られてきた焦凍からのメッセージを確認すると、「今から行く」みたいな内容だった。で、結局寝こけていた私のベッドに潜り込んで、起きるのを待っていた、と。



「それなら、もうちょっと、いいの作る……」

「あぁ。腹減った」



同じ様に起き上がって、私の髪を耳にかけて、顕わになった耳に口を寄せる。そこで「腹減った」と囁かれても、キュンとこない。せっかく色気のある低い声だったのに。内容のせいで大きくマイナスだ。
それにしても、インスタントラーメンでいいやって思っていたのに。けど冷蔵庫の中身大したの入ってないし。何品も作れないと思う。それに、やっぱりいい時間だし。

まるでカルガモの親子のように後ろに焦凍を引き連れて(とは言っても勝手に焦凍が付いてきてるだけ)、台所に入る。冷蔵庫にはやっぱりあまり入ってなかったけど、野菜室にピーマンを見つけた。肉もある。母の趣味のおかげで、調味料類はより取り見取りだ。
よし、青椒肉絲もどきを作ろう。
そうと決まれば、と準備を進める私を、焦凍がただ見ている。私が台所に立っている時は、一切手を出すな、と昔から言っているからだ。別に、焦凍が壊滅的に料理が下手、というわけでもない。ただ、私の調理ペースと焦凍のペースが合わず、言ってしまえば邪魔なのだ。したがって、今焦凍は台所で何も出来ないのに、何が楽しいのか、料理しているのをいつも黙って見ている。たまに味見させることもあるけど、まさかそれ目的って程食いしん坊じゃあるまいし。
まぁ、別に視線は邪魔にならないからいいんだけど。

































高校に入学してしばらく、は変わりつつあった。
まず、周りをよく見ていることを隠さなくなった。そして、興味を持つようになった。他人に対してわざと一線を引くようにふるまっている。それはきっと、幼いころからずっと一緒にいる俺くらいしか気付かないだろう。
これまでずっと支えていた“安心”が少しずつ崩されていくような、そんな不安が蝕み始めていた。漠然と恐怖を感じている。その恐怖は伸ばす手に込められていった。







END

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体育祭自体はあまり、主人公にとってモチベーションが上がるイベントではないです。
やる気の一切ない体育祭。次の次から始まります。


2017/10/19