03:戦闘訓練‐後編‐






第一訓練は緑谷くん・麗日さんチームが勝利した。とはいっても、緑谷くんは保健室に直行してしまい、この場にはいないけど。
それにしても、しょっぱなから色々と刺激的だった。ますますこの授業を相方なしの一人で取り組まなければいけないということが億劫になってきた。
訓練は続き、いよいよ最後、私の番となる。



「残念ながら緑谷少年は保健室に行っているから、Aチームは抜きでくじを行おう。さ、少女、特別サービスだ! くじを引きなさい」



ス、と「HERO」と書かれた箱を差し出される。どうせAチームが駄目なら、麗日さんを相方としてほしかった。そう思いながら麗日さんを見ると、“個性”の使い過ぎによる体調不良のせいで、まだ顔が少し青かったので、今考えたことは言わないことにした。
箱に手を突っ込んで、一番最初に触れたボールをそのまま掴んだ。そこには「J」と書いてある。「J」チームは……瀬呂くんと切島くんだ。まぁ……ある程度対策は立てやすそうだけど。
あぁでもホント……一人ってのが嫌だなぁ……これまでの訓練をモニターで見て、一応自分なりに作戦を練ってはみたけど、そういえばこれ、勝たなくちゃいけないヤツじゃないんだよな、と今更ながらに気付く。
最初はしっかり“個性”で「影騎糸(ブラックナイト)」で分身作って目くらましでもしようかと考えてたんだけど、1対2の状況で自分から戦闘に持ち込むのは大分分が悪い。分身作るなら、核兵器の方がまだ体力的にもつらくないし。
要は15分間「核」を守る防衛戦をした方が私的にも“個性”的にも楽だ。



「では少女はセッティングを! 5分後にヒーローチームが潜入だぞ!」



時間稼ぎもかねて、とりあえず本物の「核」のハリボテは最上階に置いておこう。
そしてビルのそこここに警戒線を糸で張り巡らせておく。これは瀬呂くんもやっていたし、きっとある程度予測されているだろうけど。そして、ニセの「核」ぼ分身を3階に置いて、部屋の中に糸を張り巡らせてそこに私自身もスタンバイしておく。
つくづく、障子くんがいなくてよかった。彼がいたら「核」が二つ用意されていることに気付かれてしまうし……なにより、焦凍がついてくるのだ。焦凍は私の“個性”にかなり詳しい。そこだけは今回のくじ運に感謝だ。

5分経過して、1階に張り巡らせていた警戒線が切れた。どうやら二人とも1階から潜入したらしい。……よかった。さっき気づいたけど、瀬呂くんの個性でビルの上から潜入されたら私の計画がパアになるじゃん、って思ってた。
二人は自分たちが切った警戒線に気付き、何か仕掛けられているんじゃないかと慎重に進んでいるらしい。ラッキーだ。
たった5分で罠を何か仕掛けることは出来なかった。単に警戒線は彼らがどこから来るのか、無事にこの3階まで来るように仕向けているだけだ。それも罠と言えば罠だけど。まぁ、ちょっと考えてくれれば、警戒線の密集している場所とそうでない場所に気付いてくれるはずだ。そのため、わざと糸を見えるように張っているんだから。
思惑通り、二人は順調にこちらに向かってくれているようだ。にしても、暇。きっとモニターで見てる皆も暇してるんじゃなかろうか。ほぼ動きないからな。まぁ、罠が今にも降ってくるんじゃないかと疑心暗鬼に駆られているであろう、二人は別として。どこまで引っかかってくれるかが勝敗の分かれ目かな……。私がヒーロー側に捕まったら終わりだし。二人とも、おつむが弱いってわけでもなさそうだし。
大人しく罠に引っかかってもらえてることを素直に喜んでおこう。



「ここかー!!」



バン、と扉が大きな音を立てて勢いよく開いた。二人とも随分フラストレーションが溜まっているらしい。まぁ、これでもか、ってくらい糸を張り巡らしたからね。きっと途中でウザくなったんだろう。うん、思ってた以上に上手くハマってくれたらしい。けど、



「うーん、思ってたより早かったね?」



ここまで来るのに7・8分ってところだ。残り制限時間は約半分ほども残ってる。ここで二人を相手に戦闘を行わなくてはいけないのはしんどい。けど、逃げるわけにもいかないし……。



「やっぱり糸の強度が弱すぎたかな……」



予定では10分は掛かるとこだったのに。流石に甘かったかな。ホント、一人はキツい。
戦闘に持ち込まれると、一気に「敵」側が不利になってしまうからな……。
二人の手には確保テープがある。順当にいけば、どちらかが私を封じて「核」の回収ないしは私を「確保」ってとこだろう。それでも私がやるのは防衛戦だ。ヒーローを「確保」したくても、今私の手元に確保テープはないし。最上階の「核」を守る糸の中にテープをまぎれさせて、使い切ってしまっているのだ。でもそうしておけば、「核」に触れる前に確保テープに触れることになる。触れれば、ここからでも糸は操れるので、テープを巻きつけてしまえばいい。



「戦闘訓練、頑張ろうか」



瀬呂くんが肘からセロハンテープを「核」に伸ばすのを、まずは阻止する。すると切島くんがこちら目掛けて拳を振りかぶっていた。目測だと、私の足元の床だ。流石に私自身を殴ろうとはしてないらしい。ある程度「核」を守る振りをしなきゃいけないから、やっぱり二人を同時に相手するのは厳しいものがある。どちらかの動きを止めないと。なら、狙うは瀬呂くんかな。残しておくと厄介だし。
切島くんの拳を避けて、瀬呂くんに左手を向ける。



「“蜘蛛の巣がき”」

「うっわ、っ! んだこれー!!」

「瀬呂!!」



蜘蛛の巣状に広がった糸が瀬呂くんに覆いかぶさる。そしてそのまま床に張り付いた。オリジナルの“蜘蛛の巣がき”は防御用だけど、私の“個性”、“糸”は粘着性を持った、それこそ蜘蛛の糸みたいな糸も出せる。つまり、捕縛向き。残りの制限時間くらいなら、余裕で捕まえておけるだろう。これで、何とか1対1だ。



「……、結構“個性”強ぇんだな」

「そうでもないよ。結構シンプルだと思ってる」



要は応用をどれだけ利かせられるか、じゃないかな。



「あの蜘蛛の巣、俺にもかければ終わるんじゃねーの」



切島くんが探るように言ってくる。
そうだね、それが出来ればそうするけども。



「ここまで来るとき、警戒線を主に切ってたのは切島くんだよね。切島くんの硬度に耐えられる粘着力を持った糸が私には出せないんだよ」

「それ、言わない方がいいじゃねぇの」

「あぁ、そうかも」



目の端では、瀬呂くんが一生懸命糸を外そうともがいている。あの様子なら、放っておいても大丈夫そうだ。



「“荒波白糸”(ブレイクホワイト)」



大量の糸が切島くんを包み込むように迫る、が、難なく避けられる。
まぁ、捕まえられたらいいなぁ、程度だし、「核」と距離を取らせられたから結果オーライだ。体感、制限時間もそう残っていないだろう。5分ないくらいだと思う。このままタイムアップを狙いたいところだ。このまま逃げ切ろう。



「“弾糸”(タマイト)」



右手を銃の形にして、人差し指から玉状の糸を発射する。オリジナルなら実弾以上の貫通性を持つけど、今の私の実力プラス、切島くんの“個性”を考えると、普通にはじ返される。やっぱり硬い。けど、けん制にはなっているみたいで一先ず安心だ。
じりじりと近づいてくる切島くんに、そろそろ別の技で距離を取ろうと思ったところで、オールマイト先生の声がした。



「タイムアーーップ!! 敵チームWIIIIIIN!!」

「ちくしょーーっ!」



よかった。何とか作戦勝ちした。



「さぁ3人とも! 講評するから地下に来るんだ!」



その声に、まず瀬呂くんを覆っていた糸を消す。そして3人でみんなのいるモニタールームに向かった。



「いやー、やるなぁ……。完全にやられたよ」

「こちらこそ、上手くいって本当に良かった。制限時間が後5分あったら勝ち目無かったもの……」



講評で何を言われるかは分からないけど、まぁそう評価が悪いこともないだろう。勝つことも出来たし、何より双方ともに無傷だ。医者志望の身として、いくら訓練で先生が「怪我を恐れないように」と言おうが、怪我をしないに越したことはない。



「お互い、怪我なく済んでよかったよ」

「怪我はねーけど、俺はめっちゃ疲れた!! あの蜘蛛の巣、まだくっついてる気がするし!」



もうねーよ。まぁ、二人は2戦やったことになるし、体力的にはハンデがあったも同然か。
いやぁ、ホント、今日は運がよかった。






END






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補足
ステータスについて
パワー:D
スピード:A
テクニック:A
知力:A
協調性:E