たった1日の出来事
「黒子の新しいパス…!?」
「なんで今まで……」
「捕れる人が限られるんです…けど、今の火神君なら捕れるかもしれません」
黒子君は今一度部員を見渡した。
「でもパスが火神君だけでは最後までもちません。やはり高尾君のマークを外して通常のパスも必要です」
「あ…」
「けどもういけんじゃね? オレの目もつられそうだし」
伊月先輩が答える。
リコ姐さんが目線を左上にやって何事かを考えている。そしておもむろに火神くんに声をかけた。
「あと何回跳べる?」
「跳ぶ…?」
「緑間を止めたあの超跳躍(スーパージャンプ)のことか?」
「あれは天性のバネを極限まで使うから消耗がハンパないのよ。加えて火神君はまだ体ができてない。一試合で使える回数は限られてるわ。本人も気づいてるはずよ。でしょ?」
「そんなん…跳べるぜです何回でも…」
「あのね…今は強がりとかいーから!」
そう言ってため息をついて姐さんは火神君の足を視た。
「よくて……2回ね」
姐さんが続ける。
「筋力値から推測するとこれが限界ね。もし2回目を跳んだら、あとはコートに立ってるだけで精一杯だと思うわ」
「2回…でどうやって緑間を止めれば…」
降旗君たちの顔が若干青い。
「1回は勝負所にとっておいて。もう1回は…」
第4Qが始まり、私はビデオを三脚で固定し終わると、ベンチの周りの片付けを始めた。
試合が終わってからでも普段なら十分間に合うのだが、今回は別だ。試合が終わったら皆控え室に引き上げるのもやっとになってるのだ。
この後はドリンクの準備しなきゃいけないし、試合後の状態を考えると、控え室も片付けておきたい。結局試合最後まで観切れなさそうだな、と内心ため息ついた。
「じゃあ姉さん。私行ってくるわ」
「……悪いわね。頼んだ」
「おまかせあれー」
ひらひら〜と手を振って控え室に向かう。
コートでは、火神君が緑間君のシュートを後ろから叩いていた。
『第4Q最初のシュートをひっぱたけ!!』
しっかりと姐さんの考えたハッタリを行ってくれているようだ。
これで緑間君がシュートに行く本数を減らせるかもしれない。火神君のジャンプが「まだあるかも」と思わせれば作戦勝ちだ。あとはもう、秀徳以上に点をとるしかない。こうして黒子君に期待が寄せられたわけだが……。
黒子君はその期待に見事に応えるのだ。
残念ながら私はあのパスを見ることは今回できないわけだけど、後でビデオ確認しよう。
確かこの試合、最後ブザービーターで決めようとした緑間君を黒子君がボールをカットして終わりだったはず。
きっと大きい歓声があがるだろうから、聞こえたら体育館まで戻ればいいだろう。
控え室のドアを開けて、電気を付ける。
ロッカーから箒とちりとりを取り出す。ぼけーっとしながら箒を動かす。
しばらく掃除をしていれば、外が騒がしくなった。
「……あぁ、終わったのかな……」
時計を確認すれば、時間的にも相違なさそうだった。
「82対81で誠凛高校の勝ち!!」
そそくさと自陣のベンチに駆け寄り、カメラのボタンを押す。録画が完了しているのを確認して片付ける。
「お疲れ様。勝ててよかったね」
「そうね……」
用意しておいたタオルをベンチの上に上げる。
さっきまで試合に出てた選手の荷物を手分けして持つ。
「とりあえず控え室に移動しましょう」
⇔
「さ! 帰ろっか!」
支度が整った姉さんが明るく声をかける。が、
「いやちょっ…ゴメンマジ待って」
「2試合やってんだぞ。しかも王者…」
「んなテキパキ帰れるか…!!」
「あ、ゴメン」
皆まるでゾンビのようだ。さらに火神君に到っては動くどころかしばらく立てそうにもない。
「でもいつまでもここにいるわけにもいかないし……とりあえずどっか一番近いお店に入ろう!」
そういって姉さんが私を見た。
「多分近いのはお好み焼き屋さんかな。人数はギリギリいけるかも」
「じゃあそこにしましょう。火神君はだれかおんぶしてって!」
「じゃあジャンケンで決めよう!」
ジャンケンの結果、黒子君が背負うことに。
どう考えても無理があるように思うけど、まぁ面白かったので良しとする。
道中、やっぱり黒子君が火神君を落としたけど。雨でぬかるんだ地面の上に。
こうしたちょっとしたハプニングがありながらも、私たちはお好み焼き屋さんに着いた。
ここでもひと悶着あることは私しか知らない。
2014/12/29 up...
約一年ぶりwww 笑うしかない。
黒子のバスケ完結しましたね……。この連載の向かう先もきちんと決定したわけで……。