たった1日の出来事
















苦い顔して考え込んでいるリコ姉さんに、火神君が言った。



「カントク。このまま行かせてくれ…ださい」

「え?」

「オイまさかオマエ、このままやられっぱなしじゃねーだろーな」



ガッ、と隣に座っている黒子君の頭を掴む。黒子君はムス、っとした顔で火神君を見て、



「まぁ…やっぱちょっとやです」



と返す。



「…ハッ、じゃーひとまず高尾は任せた。こっちもアイサツしよーか。新技(みやげもあるしな」



それは、今のまま、現状維持で行くということになる。
その結論に、姉さんはギョッとした声を上げた。



「今のままいく…? 火神君はともかく…高尾君にはミスディレクションは効かないのよ? 大丈夫?」

「大丈夫じゃないです。困りました」

「うん…そう。てかオイ! どーすんだ!」

「けど…できれば第1Q残り3分半、このまま出してもらえないですか」



黒子君のその言葉に、姉さんは目を見開く。そこでちょうどタイムアウト終了のブザーが鳴った。



「わかった…任せるわよ! 二人共」



その声で選手は皆ベンチから立ち上がった。
さて、黒子君はどうすんのかな、と切っていたビデオカメラの録画ボタンに触る。



さん」

「なしたー?」



録画を再開しようと、コートにカメラを向けると、正面に黒子君が立っていた。今回は驚いてないよ。全然驚いてない。



「あの、お願いがあるんですが……」

「いいよ、何?」

「ビデオで高尾君を撮っておいてもらってもいいですか?」

「……お安い御用だよ、もちろん」

「ありがとうございます」



コートに戻っていく黒子君を見送り、カメラを構えた。中心には高尾君が映っている。録画ボタンを押した。
ふーん……、と内心頷いた。録画ボタンを押したら、極力私は喋らないように、動かないように気をつけることにしているので、全部心の中頭の中でアクションをしている。非常に滑稽だと思ってる。

私という存在は、こういうものなのか、と改めて認識した。

元々、試合があるときに会場にいなかったりするのは、もちろん他校の情報収集っていうのもあるけど、それ以外に、知っている試合に関わることを意識的に避けようとしてのことだ。私は選手ではなく、マネージャーで、試合のコートに立つわけじゃない。ましてや、バスケに詳しくもないし、りこ姉さんのようにアドバイスなんか出来やしない。試合において、一番役割がないのだ。いてもいなくても同じ。むしろ一人分場所を取ってて、邪魔じゃないの、って思っちゃうくらいだ。そこで、自分に意味を持たせたくてカメラ係なんてのをやるのだ。
姉さんに呼ばれなければ、今日が決勝リーグに進むための大事な試合であったとしても、きっと別の会場に行っていたと思う。
応援はしている。いつもだ。当たり前だ。けど、試合を見ていたいとはあんまり思っていない。もちろん、せっかくだし、我がバスケ部の活躍を生で見たいと思う。けど、同じくらい、見たくないとも思っている。非常に面倒くさい。
つまり、同じなんだと思う。私が小さい時に、「話さない」という手段をとっていたことと。ある程度、結果を知っているのだ。そういう行動をとるのか。その行動がどういう結果を生み出すのか。知っている場合が多い。試合の結果を知っているし、その後も分かってる。この先、皆がどんな壁にブチ当たって、どれだけ苦しい思いをするのか、知っている。けど、私は去年、出来たばかりの誠凛バスケ部の試合を見てて決めていたのだ。何も知らないから、何も言わないのだ、と。結果、負けようが怪我しようが、絶対に言わない、と。変えない、と。私は常に自分を優先していこう、と。まったく酷い話だけど、それが一番自然で、一番いいと思っている。
負けようが怪我しようがどんなに苦しもうが、そんなの全て彼らは乗り越えていくことも知っているのだ。私が口出ししていいことなんか一つもないのだ。
私がやるのは、全て差し支えない範囲でのこと。存在している以上、何にも影響を与えないっていうのは無理だし、あり得ないことだ。

だから私は一生懸命、ビデオを撮る。
少しでも助けになればいい。何もしたくないわけでもないのだし。全く、非常に面倒な立ち位置になってしまったものだ。





































第1Qは、緑間君のコートの端からのシュートに全部持って行かれたといっても過言じゃない。
キャプテンのシュートや、火神君の一人アリウープという好プレーも霞んでしまった。キャプテンの折られたフィギュアが泣いてんじゃねーか、って思っちゃう。



「第1Q終わりです!! インターバル2分入ります!!」



けたたましいブザーとともに選手がベンチに戻ってくる。ビデオを録画停止にして、ベンチを空ける。選手たちにタオルとドリンクを渡していく。



「黒子君…あれ…昔から?」

「いえ…僕の知ってる彼の距離はハーフラインまでです。あんな所から打てるのは初めて知りました」

「レブロンが練習で決めてる映像は見たことあるけど……アレ合成だろ? 試合中に狙ってとかありえないぞ」

「冗談きっついぜ…「キセキの世代」」

「てかあんなん…どーやって止めんの?」



雰囲気が沈んできたところで、姉さんが気を取り直すように声を上げた。



「…たしかにとんでもないシュートだけど、打つ手がないわけじゃないわ! とにかく緑間君を止めるわよ! 黒子君! しんどいかもだけど、もう少しヨロシク!」



ブザーが鳴った。




「インターバル終了です!」



超頑張れ、と心の中で激励しておいた。
皆はもう、超絶頑張っておられるわけだし。










2013/10/30 up...

ウチの主人公は、大体メンドくさい性格してる。と思う。
私の性格がメンドイからではないと思うんだ……どうかな。