たった1日の出来事

















「体冷えないようにすぐ上着きて! あとストレッチは入念にね!」



正邦との試合が終わり、すぐに控え室に戻り、勝利の余韻に浸る暇もなく、最終戦に向けて準備を始める。




「疲労回復にアミノ酸! あとカロリーチャージも忘れずに!」



事前に薬局で買ってきたアミノ酸を水でとかし、配っていく。今の薬局は何でも売っていて非常に便利。バナナもカロリーメイトも何でも揃えられる。しかもポイント5倍デーの時に買ったから、私のポイントカードもほっくほくだ。



「順番にマッサージしてくからバッシュ脱いでて! 、私は日向君から始めるから、伊月君からお願い」

「承知でーす、と。先輩、足、失礼しマース」



叩き込まれたマッサージをまずは伊月先輩から。伊月先輩はゼリー飲料(マスカット味。私のおすすめ)をくわえてる。



「あぁ、お願いね」



実際、今までは姉さん一人でやってたわけで、随分時間がかかったことだろう。だから私に真っ先にマッサージ系を叩き込んだのかもしれない。



「どう?」

「サンキュ。ま…疲れてないって言ったらウソになるけど…。これで何とか最後まで走れるだろ」



隣では姉さんとキャプテンがそんな会話をしている。



「あり? 火神は?」

「あー…」



伊月先輩が指をさまよわせ、ロッカーに背をあずけてぐーすか眠り込んでいる火神君を指した。



「ちょっコラ火神!! 寝たら体固まっちゃうでしょーが!」

「まぁ…ほっとけよ」



いきりたつ姉さんを、先輩達が宥める。



「試合の後珍しく凹んでたからな」

「4ファウルで抜けたからだろー? 気にすることねーのに」

「小金井(コガ)、ラスト抜けたのは予定外だったけどね。黒子いなきゃ正直ヤバかったよ」

「う」

「こいつなりに責任感じてんじゃねーの? それにただ寝てるってゆーより…次の試合に備えて、最後の一滴まで力を溜めてるように見えるからな」



私にはただ寝てるようにしか見えないのだが、これが先輩たちとの違いなんだろう。きっと。



「すいません。ちょっとトイレに行ってきます」

「あ、オレも行っとこ」

「黒子君、戻ってきたら次黒子君の番だから、声かけてね」



じゃないと、戻ってきたことに気づかなさそうだから。



「はい。わかりました、さん」
































時刻は、4時50分。試合開始10分前だ。
私は少し早めに来て、誠凛のベンチでカメラの準備だ。ざわざわとしている観客席から見える試合コートには、今のところ私しかいないので、もうすぐみんな来るとは思うが、何となく「うわー、あの子、ちょーボッチじゃーん?」とか言われてそうで怖い。いや、被害妄想だってのは分かってるんだけど、なんとなく。



「いや〜〜〜…、…疲れた!」



キャプテンがはふぅ…とため息をつく。
試合直前の円陣である。初めてここに参加した。みんなと同じように、中腰で屈み、円に加わる。火神君に、「お前なにやってんの」って目で見られたけど、こういうのはノリと気持ちだ。気にスンナ、である。



「今日はもう朝から憂鬱でさ〜。二試合連続だし王者だし。正邦とやってる時も倒してもう一試合あるとか考えてるし。けどあと一試合。もう次だの温存だのまどろっこしいことはいんねー。気分スッキリ。やることは一つだけだ」



大きく息を吸い込んだ。



「ぶっ倒れるまで全部出しきれ!!」

「おお!!!」



コートに整列に向かう選手たちに、「激頑張れ!!」と声をかけ、ビデオカメラの傍に座って、カメラを起動させる。



ついに決勝が始まる。外は曇ってきて、今にも雨が降りそうだった。








2013/10/25 up...