たった1日の出来事













予選最終日。
今までのように、学校の体育館ではなく、都民体育館である。
私はもちろん、この会場にいる。しかし、居る場所は……観客席である。
誠凛の制服着て、秀徳vs銀望の試合コート側の観客席のいい席を陣取っている。めちゃくちゃ視線が痛い。主に、秀徳バスケ部員からの。隣にいるからな、秀徳バスケ部ご一行様が!

まぁ、遠くはなるけど、一応vs正邦戦は見えるちゃあ、見える。
もちろん、向こうの観客席にもビデオを設置してある。ビデオ番は友人に頼んだ。

ベンチで見れるのは、この正邦戦に勝てば、である。
何事も変わっていなければ、私は無事ベンチで秀徳線を観戦することが出来るのだが……何が起きるのか分からないのが現実なのだ。
ちなみに、おは朝は1位かに座。最下位みずがめ座で、変わりなし。

ビデオのセッティングを終わらせ、一旦誠凛の控え室に戻る。
扉を開けようとすると、大きな掛け声が聞こえた。あぁ、発破かけてんのか、と頷きながら開ける。



「皆さんお疲れ様でーす。そろそろ時間なんで、準備お願いしますー」

「あ、ねー、ちゃんさー? カントクが勝ったらごほうびに何かくれるって言ってるんだけど何くれるー?」

「ご褒美?」



はぁ? と小金井先輩を見、次に姉さんを見やる。
テヘペロ、と舌を出し、



「次の試合に勝ったら…みんなのホッペにチューしてあげる!」



ウフッv とポーズを決め、星を飛ばす。きっと散々な評価だっただろうに、よくもう一回やる気になったな、と感心する。



「なーる……そう、ですねぇ……」



むしろ十分じゃね? と思わなくはないが、まぁ、先輩にしてみればノリで聞いてきているのだろう。だからどんな面白い答えが返ってくるのかとか期待されても困るのだ。
……さっき観客席に行く前までに見てた感じ、どこか緊張でなのか固くなっていたのが、随分とほぐれているように見受けられる。



「じゃあ、勝ったら、リコ姉さんに『何か練習メニュー五倍にしたい気分ー(はぁと)』って言われた時に助けてあげます」

「よし! 全員勝つぞー!!」

「オォー!!」

「ちょっと! 随分反応違うじゃない!!」



ふむ。
お気に召していただけたようだ。



「超絶頑張ってください!」



そう応援して、私は秀徳の試合コート側の観客席に戻った。
椅子に座る前に、スイッチを入れる。試合が始まり、同時に録画もはじめる。向こうのコートでは、我が誠凛も試合が始まったようだ。
途中、QとQの合間に、誠凛ベンチに戻ったりはしたが、基本ずっと観客席に座って試合を見ていた。最初の頃よりは、大分バスケについてわかるようにはなってきたと思う。
途中、録画を頼んでいるのとは別の友人が、「暇だから見に来た」と私のいる観客席にやってはきたが(誠凛は向こうだぞオイ)、まぁ特に変わりはなく。ただ秀徳が対戦校を圧倒するのを眺めていた。
これに勝てんの? ってマジで疑いたくなる。流石、姉さんが「10回やったら9回負ける」って言ってただけはあるな、と。

しかし。
第4Qの途中。残り5分で6点差というところで、誠凛コートから「ピピピッ!」と笛が鳴り、試合が止まった。おや、と思い、遠目ではあるが見やれば、リコ姉さんと事前に決めておいた「戻ってこい」というアイズが送られている。
まだ観客席に座って見ている友人にビデオを頼み、急いで誠凛コートのベンチに向かう。
今日、めちゃくちゃ階段の上り下りしてる。しかもダッシュで。これはかなり運動になっているだろう。きっと明日は私も筋肉痛だ。……私もロードワークに混ぜてもらおうかな。自転車に乗らないで、さ。長距離なら、今ならまだ一応部員についていけるし。ロードワーク続ければ、その内余裕でついていけるようになるだろう。元々持久走やマラソン、長い距離を走るものは得意なのだ。中学の時のマラソン大会は3年間ずっと一位だった。私が体育の授業で唯一輝けると言ってもいい種目なのだ。

ベンチに戻れば、「小金井くんお願い!」と目を回している先輩を渡された。



「だから4ファウルの人はすっこんでてください」

「ぶ」



床に大きいタオルを敷き、その上に小金井先輩をゆっくりと移動させる。もちろん、動かしたのは私ではなく、降旗君達だ。
小金井先輩に関しては、多分1〜2分くらいで意識は戻ると思われる。汗を拭きながら、ちょくちょくもめる1年コンビを眺める。
結果、4ファウル持ちの火神君ではなく、黒子くんが出るということで話は落ち着いた。
そして試合は再開される。
先輩方は、だんだんと、正邦のDFをかわし、向こうの動きを読んできている。
DVDレコーダーをおシャカにし、何枚もすり減らした甲斐があった。



「特殊ってことは、クセがあるってことよ!」



実際は、言うほどクセがあるわけではなく、本当に些細なものだ。
ずっとDVDを巻戻しては動きを板書していた私も、多少は(本当に多少は)予測ができる。絶対動けないけど。それは無理なんだけど。
しばらくして、小金井先輩が回復した。



「先輩、吐き気とか、具合悪いのありますか?」

「うぅ〜ん、ダイジョーブ……」



そして、片足で立ってもらったり、鼻テストをやってもらって、異常がないことを確認。
マネージャーに就任した時に、一応一通りの応急処置や疲労回復の方法・マッサージは確認している。元々リコ姉さんの家のジムの手伝いをしていたので、大体ある程度のことは出来ると自負している。



「問題なし、ですが、まぁ次の試合までは安静にしててください」



試合は残り25秒を切った。70対69で、1点誠凛がリードしているが、すぐに正邦に2点取られる。
しかし、最後。黒子君から日向先輩へのパスにより、先輩が試合終了の笛と同時に3Pを入れた。




誠凛高校の勝利である。








ぶるぶると震え、泣きそうな姉さんを放置し、秀徳側の観客席へ走る。ビデオを任せてはあるが、回収しなくてはならない。ベンチに戻ってくる選手に、「お疲れ様です!!」と叫び、走った。


秀徳は113対38で勝利。圧倒的点差である。
ビデオのスイッチを切り、三脚を片付け、カバンを肩にかける。
友人への挨拶もそこそこに、階段を駆け下り、誠凛の控え室に向かった。途中、階段を踏み外し、転びそうになったのは、まぁ、その、急いでいたからだと言わせていただきたい。

決勝は秀徳対誠凛。3時間後に決勝リーグ進出校が決まる。











2013/10/25 up...

碓氷は中学時代、マラソン大会は大体3位。1位は取ったことないです。
でも持久走は得意な方。短距離よりは。一番得意なのは水泳なんですが、授業になかったので。