注意払ってます












私はどうも、視野がせまいらしい。というよりかは、足元不注意が多いらしい。前に、伊月先輩にこう言われた。



「前を見て歩くことはとても素晴らしいことだけど、たまには下を見ることも大事なんだよ」



これをものすごく真面目な顔で言われると、とても居た堪れなくなる。
ちなみに、言われたのは中学の時だ。

何より私は、階段を踏み外すことが非常に多いのだ。いつも楽しく笑っている小金井先輩が、



ちゃんってサー……階段に呪われているんじゃない? いや、冗談抜きで」



と、大変真面目な顔でおっしゃられた。その横で、水戸部先輩が青い顔して頷いていたのが深く印象に残っている。二週間前の話。

どうにも、階段を使っているとき、何故か考え事をしていることが多いのだ。で、踏み外す。もしくは、段数を数え、前と違っていたときに、踏み間違える。あまりにも多く階段を踏み外している(ように思われている)私に、特に先輩たちは一緒に階段に差し掛かると、ものすごく警戒している。何かもう、手がスタンバッているのだ。私も申し訳ないので、必ず手すりや壁に手をやるようにしているのだが、あまり効果は見られない。
幸いにも、せいぜいが擦り傷程度で、大怪我に至っていない。
けど。



「これはないわー……」



誰もいない廊下。もちろんこの階段にも誰もいない。
結論から先に言ってしまえば、階段から転がり落ちた。三段くらい。例によって、階段を踏み外した。今日だけで三回目である。



「今度から階段駆け下りるのやめよう」



持っていたカメラ類にキズはなさそうだ。



「あーもー痛い……」



もう。早くここから出よう。見られていないとは言え、恥ずかしいし。しかもここにはフォローしてくれる知り合いが誰ひとりとしていないのだから。



「あのー……、大丈夫ですか?」



いないと思ってた。
声をかけられ、顔を上げると、ピンクの長い髪が見えた。うっわ美人。



「……もしかして、階段から落ちたんですか?!」

「あ、いえ、まぁ、そうなんですが。慣れてるので、平気ですから」



救護室に行きましょう、とキョロキョロしてる彼女に、待ったをかける。



「すいません。大丈夫です。わざわざありがとうございました」



とえいあえず、ニッコリ笑っておいて、その場からさっさと去った。
美人とお近づきにはなりたいが、今はダメだ。タイミングが悪すぎる。何より体が痛いので、ずっと笑ってられる自信がないし、早く誠凛のみんなのいる会場に行かなくてはいけないし。
くっそもったいないことをしたな……!
救護室に連れて行ってもらえば、後日お礼したいからという大義名分でアドレスくらいはゲットできただろうに……間が悪い。

とりあえず、階段から落ちたことは秘密にしておこう。
バレたら姉さんが怖い。マジで怖い。




END


2013/10/25 up...

なんで階段ってあんなに踏み外すんですかね?
降りるときとか、大体踏み外しますよね。