お仕事頑張ってます











「はい。これでめでたく全員コンプー、っと」



会場を出て、我が誠凛高校バスケ部が試合していた会場にチャリで向かう。
桐皇の試合終了と同時に、まずリコ姉さんからメールが来た。その次に、降旗君・福田君・河原君から連続してメールが来た。そして、テンションの高い小金井先輩から電話が来て、1分程話し、すぐ会場に向かう旨を告げ、電話を切れば、その間に水戸部先輩と土田先輩からメールが来てて、そこで一旦勝利報告メールのラッシュは終わった。チャリをこいで、2回目の長い信号待ちの間にチェックすれば、キャプテンと伊月先輩、黒子君から来てて、もうすぐ目的地に到着できる、という頃に火神君からのメールが着信。道端でチャリを止めて、スマフォをいじる。一年生全員に一斉送信で「超おめでとう」と送っといた。馬鹿にしてるわけではない。断じて。先輩方には「お疲れ様です」と無難な内容だけど。

しかし、こう、人数は少ないとは言え、全員からメールや電話が来るとちょっと大変である。いや、嬉しいんだけども。気遣いがとても暖かいのだけども。けど、何かこう、誰か代表で、とか思う。ていうかもう姉さんでいいじゃん。一番早かったよ。あれ絶対前もってメール作ってたよ。

メールを全部送り終わってスマフォをしまい、腰でしばった誠凛ウィンドブレーカー(誠凛ジャージ・ウィンドブレーカー版。私用。作る際、きちんと許可は取ったしむしろ歓迎された。姉さんの分を作ろうかと言ったけど断られた(´・ω・`))をもう一度しっかり直し、会場に向かってラストスパートでもかけるか、とチャリに乗りなおすと、前の方に何か見えた。車道を走っている自転車+リアカーだ。黒と緑の髪が見える。うわー……なんて内心叫びながら、耳にイヤホンを入れて機械の再生スイッチを押すと、アップテンポの音楽が流れる。なるべくこちらに走ってくる通称チャリアカーを見ないように、右斜め前に視線をやって、何もないですよ〜風を装い、すれ違った。その時、視線をそらすのに失敗し、途中、チャリアカーの運転手と目が合ったり、その人の口が「せいりん」の形に動いたことは気のせいだということにしていただきたい。







「インハイ都予選、初戦突破おめでとうございまーす!!」



会場について、みんなと合流できた私はまず、もちろんお祝いの言葉を言った。
イエーーい! とまず小金井先輩とハイタッチ。その流れで、次に伊月先輩が手を出してきたので、ハイタッチ。続いて、水戸部先輩、土田先輩とハイタッチ。催促して、キャプテンとハイタッチ。



さん。僕たちともやりましょう」



とのことで、黒子君達ともハイタッチ。ただし火神、てめーは少し加減をしろ。姉さんを除く部員全員とハイタッチした私の手のひらは真っ赤だ。



「……しかし、初戦突破でこんなに喜んで……絶対後で恥ずかしくなるよ、コレ」

「ほら、浮かれてないの! まだまだこれからなのよ!!」



姉さんの言うとおり、始まったばかり。まだ初戦のみなのだ。
……まぁ、順調に勝ち進んでいくわけだが。



2回戦vs実善高校。3回戦vs金賀高校。順調に勝利。
そして4回戦。



「広ぇ〜……ここ本当に学校の体育館スか?」

「都内有数のマンモス校だからね。おかげで今日はすごいもん見れるわよ」



ちーす。でっす☆ 今回私は、我が誠凛バスケ部の皆さんと行動を共にしております。リコ姉さんの指示によるものである。



「今日ここは2会場分やるから、隣のコートに普通は他会場でやるシード校が来る。…つまり」



まぁ、つまり秀徳高校がご来場されるということですが、私が呼び戻されたのはそれが理由ではない。今日と最終日は特別なのだ。何せ、一日に二試合もする。



さん。今日はこちらに来れたんですね」

「んー。まぁ、ね。正直、公式戦は決勝リーグまで見れないんじゃないかと思ってた」

「あ、そうですよね。いつもお疲れ様です」

「なんもなんもー。ようやく生で黒子君のプレーを見させてもらうんだし……楽しみだわ」

「……頑張ります」

「超がんばれ!」



ベンチでビデオを回しながら、4回戦を観戦。しかし、なぜか腰引けっぱなしの相手を108対41で瞬殺。確か……海常との練習試合の後公園で会った人達だっけか。



「お疲れ様でーす」



ベンチに帰ってきた選手にタオルを渡していく。
そんなことをしていれば、今日のメーンイベントとも言えるであろう、秀徳高校がやってきた。血の気の多い火神君が「アイサツ行ってくるっスわ」と前に出ていく。前に、



「オイ。ペン持ってねー?」

「? 黒マッキーならあるけど……」

「貸してくれ」



出された手のひらに、備品のマッキーを渡す。
何に使うんだ……? と頭をひねり、思い出した時にはもう遅かった。



「よう。オマエが緑間真太郎…だろ?」

「…そうだが。誰なのだよキミは?」



遅かった。
幸か不幸か、渡したペンは水性の紙用マッキーである。油性のもあるんだけど、本当に良かった。ていうか馬鹿じゃないのか私! 緑間の手のひらにお絵書きするの、これじゃあ半分くらいいや、1/3くらいは私のせいじゃないか。何素直にペンなんか渡してるんだよ!!



「誠凛は去年、決勝リーグで三大王者全てにトリプルスコアでズタズタにされたんだぜ?」

「息巻くのは勝手だが彼我の差は圧倒的なのだよ。仮に決勝で当たっても、歴史は繰り返されるだけだ」



彼らのその言葉に、火神君は驚き固まり、姉さんや先輩は表情が硬い。思うのだが、火神君が反応しないのは、緑間君が言った「彼我の差」って言葉の意味がわかってないんじゃないかと思うのだけど、流石に馬鹿にしすぎだろうか。
私としては、去年、お手伝いで参加し、その試合含め大体全部見ているので、きっと火神君のような驚きはない。
黙って様子を見てると、黒子君が啖呵を切る。どのタイミングで謝罪と、この手に持ったウエットティッシュを渡しに行けばいいのか……非常に難しい。



「…黒子見ておけ。オマエの考えがどれだけ甘ったるいか教えてやろう」



こ、ここしかない! と思い、かなり恥ずかしいし嫌だったのだが、声をかけに近づいた。



「あの、すいません。そのペン消すの、これ使ってください」

「アレ、キミもしかして……」

「誠凛のマネージャーです。それ、一応水性なんで……すいませんでした」



何か黒髪が何か言いかけたが無視だ。どうせこの間のチャリアカーだろう。あそこで目ぇ合いましたもんね。よく覚えてましたね。



「あぁいや、キミが悪いわけじゃなのだよ。気を使わせてすまない」

「いえ、本当にすいませんでした」



ペコリとお辞儀して、さっさとベンチに戻る。途中、火神の脇腹を小突いておいた。
緑間真太郎。かなりの常識人と見た。やっぱり漫画で一面だけしか見てないと偏見も多いよな。だって私、緑間は完璧電波だと思ってた。

大体、こうして訳のわからん不思議現象により、この世界で生きて、色々な人と関わってきたけれど、漫画の登場人物が私の思っているような人物のままっていうのはまずない。
それは私の読解力や洞察力の足りなさからかもしれないけど、やっぱり、描かれない面っていうのが大きいんだと思う。例えば、日常とか。漫画じゃ365日なんて描かれないが、ここはもちろん365日24時間リアルタイムで流れていく。
それが楽しくて、やっぱり怖いと思うのだ。









2013/10/21 up...