ルール本デビュー













バスケ部に入部が正式に決まったわけだが、しかし。
私ってばバスケのルールとか全然わかんないんだよね、っていう。去年とか先輩達の練習だったり試合だったり見てはいたけど、それで全てが理解出来る訳もなく。というか……あの、ポジションとか役割とか……今更聞けない。聞けないんだけど、PGとかSGとか、何のことかさっぱりわからん。
こりゃやべー、と思った私の行動は迅速であったと思う。
マネージャーに就任したその夜に、



『マネージャーに就任しました@バスケのルールがさっぱり分かりませんm(_ _)m』



とメールを送る。
結構早く返信が返ってきた。



『知るかバァカ』



にべにもない。しかし、諦められない。



『明日、新刊の発売日ですよね? いつもの本屋に20時頃待ってます!』



返信は無かった。これすなわち、願いは聞き届けられたということだ。





































「人にモノ頼んでおいて遅刻たぁ、いい度胸だなぁ? チャン?」

「いや、遅れます、ってメールしたじゃないですか。その、すいませんでした……」

「こっちも部活あんだぞ」



先輩の手には既に今日発売の新刊があった。
ブツブツと言いながらも、スポーツ関連本のところに足を運んでくれている。コートの外では本当に、ただ性格と口が悪く、頭がかなりいいだけの高校生なのだ。……笑える。



「で、先輩。どれがいいんでしょう?」



本屋さんのスペースには、バスケ関連の本がズラーっと並んでいる。中学・高校バスケの充実で、バスケ人口が多いことが要因だろう。かと言って、私みたいなど素人が読むような本は少なめだが。



「先輩がバスケ始めた時読んだのってあります?」

「ねぇよ」

「やっぱもう出してない感じですか?」

「……お前なぁ、バスケやるやつが全員ハウツー本なんか読むかよ」

「え」

「やっぱねぇな。オイ、この本カウンター行って注文すっぞ。まだ絶版じゃねぇから出来るだろ」

「え?」



押し付けられたメモには、本の名前と出版社、13桁の数字が書いてある。
……わざわざ調べてくれたのか。やっぱこの人本に対してはマメになるな。ていうか私、全然調べるとかしてなかったんだけど。
カウンターで店員のお姉さんにメモを渡して、注文をお願いする。
しかしお姉さんは目の前の私ではなく、隣に立っている真先輩ばっかり見てる。いや、分かるよ。イケメンだもんね。別に付き合ってるとかじゃないから私にそんな殺意のこもった視線を向けないでくださいお願いします。ていうかね。ホント顔だけで判断しないほうがいいですよって。先輩貴女のこと「化粧がケバい」って言ってましたよマジで。「説明が要領を得ない」とも言ってた。店員さんだって皆が本に詳しいわけじゃないんだから、しかもアルバイトじゃ特に、しょうがないじゃんって思うんだけど。でも私も本屋でバイトしたい……。
注文後、持っていた新刊を会計してもらう。
本を置けば、すかさず先輩も本を重ねる。ポイントカードは譲らん、とすばやく財布から出したら、小さく鼻で笑われた。ち、畜生。



「同じ本2冊でお間違いないですかぁ?」

「はい」

「カバーはおかけしますかぁ?」

「あ、2冊ともお願いします」

「袋はおかけしますかぁ?」

「いりません。輪ゴムでいいです」



店員さんは最後まで私をスルーし、先輩に向かって笑顔を提供していた。逆に尊敬する。ここまで露骨だともう怒る気にもならない。ていうか慣れた。

本屋を出て、すぐ近くのマジバに入った。誠凛最寄りのマジバではない。
チョコシェイクを奢ってもらい、席に座って荷物を置く。買ったばかりの本の片方を先輩に渡す。



「いやー、このシリーズ続き出るの長かったですよね。ずっと待ってたんですよー」

「お前よくそんな甘ったるいの飲めんな」

「会話のキャッチボールって知ってます? ……私に言わせればそのブラックコーヒーも理解できないんですが」

「100%のチョコ食えてコーヒー無理とか理解できねぇな」

「チョコは別です。っていうかアレは食べるっていうか舐めてるんでアメさん感覚です」



特徴的なその眉を顰めているが、チクショウ、イケメンはどんな顔しても得だな。爆発しねぇかな。



「つーか、マネージャー?」

「と、いうよりはカントクの雑用って感じですかね、感覚的には。やることも、まぁ考えうる部員へのサポートはもちろんやるんですが、メインではないですね」

「ふぅん?」

「どっちかっていうと……データ整理とか編集ですね、メインは。パソコンにまぁそこそこ明るいんで……」

「地味だな」

「地味大歓迎です。元々インドア派ですし……」



というか、そもそもリコ姉さんや桃井さつきのようなものを持っているわけじゃないのだ。あくまでそこら辺に転がっている凡人。無理無理。パソコンでの編集技術だって、パソコン使えりゃ誰だって出来る。



「バスケについての本じゃなくて、ドラッガーでも買えばよかったですかねー」

「意味無いだろ」



確かに。



「今日はわざわざありがとうございました。助かります」

「そっちのヤツ等に聞けばよかっただろ」

「……今更聞けないですよ。一応去年からお手伝いはしてたわけですし……」

「教えてくれないわけじゃねぇだろ」

「そりゃあ、まぁ。そうでしょうけども」



そこを疑っているわけじゃない。聞けば快く教えてくれる人達ばっかりだ。いや、そんな人たちしかいない。



「調べれば分かることですしね、ルールとかポジションとかそういうのって」

「じゃあ俺に聞いてんじゃねぇよ」

「聞くというか。紹介してもらった感じですよね。……ところで真先輩はポジション何でしたっけ」

「……馬鹿じゃねーの。前も言ったろ、PGだ」

「そうですそれそれ。PGってどんな役割ですか?」

「オイ」

「嘘です。本が届いたらちゃんと読みます。アレですよね? えーっと、司令塔みたいな?」



ものすごく蔑んだような、馬鹿にしているような目で見られた。
もう慣れてるからそんなに心痛みませんよ。そう思い、笑顔で返してシェイクを飲んだ。









2013/10/22 up...

花宮登場まで待てなかった。
我慢強くないんだ。反省も後悔もしてません( *`ω´)キリッ!