マネ()デビュー










「黒子も異常なしってゆーし…何はともあれ」



ぐぐ、っと小金井先輩が拳を握り、力を溜める。



「っしゃー!! 勝ったー!!」

「先輩のカッコイイプレー、しっかりビデオに録画してあるんで!」



そう言えば、先輩はにっこり笑ってテンション高く「マジかー!!」と叫ぶ。本当にこの先輩は話しやすい。私としては。こっちのテンション高い時は、だけども。



「帰りどっかで食べてこうぜ!!」

「何する?」



時刻はもう15時近く。お昼は軽くしか食べていない。



「安いもんで。オレ金ねー」

「オレも」

「ボクも」

「…ちょいマテ。今、全員の所持金、交通費抜いていくら?」



そう言ってキャプテンが手のひらに載せた金額は、10円玉が2枚と1円玉1枚で21円也。



「帰ろっか…」

「うん…」



悲しそうな顔をしている部員と対象に、何かに気づいた姉さんはニッコニコして振り向いた。視線の先にには『ステーキボンバー』という店の看板。



「大丈夫! むしろガッツリいこーか! 肉!!」






































思うのだが、何人かでこの「超ボリューーム!! 4kgスーパー盛盛ステーキ!」を分けるというのはダメなのだろうか。お店的にダメなのか。しかし掲示にはそんなことは書いていないのだけど。何故人数分頼んだのか。店長のあの顔。万札が何枚入るのか数えているぞ、アレ。



「遠慮せずいっちゃって!」

「ガッツリいき過ぎじゃねぇ!!?」



お気の毒に、と思いながら、姉さんが注文してくれたオレンジジュースを吸う。「はこれねー」と私がメニューを見る前に頼んでいた。しかし私は……リンゴジュースが好きだけどメニューになかったから黙っている。何でこう、ファミレスとかあまつさえドリンクバーがあるような店でも、リンゴジュースがメニューにないのか。むしろ積極的に取り入れていってほしいと思う。声を大にして言いたい。



「えっ…ちょマジ…? これ食えなかったらどーすんの!?」

「え? ちょっと〜…。何のために毎日走り込みしてると思ってんの!?」



逃げるに決まってんでしょ! と胸を張る姉さん。



「でもさぁ、姉さん。先輩達は走れるけど、私たちはどーすんのさ。姉さんも私も足速くないっしょ」

「あら」



とぼけた顔してるが、いいのかそれで。
だがしかし、必死こいて食べている部員を見て、滑稽で少し面白い。
まだ判明していないので、みんな泣いてるが、ここには肉食リスが生息しているのだ。何も心配することはない。



「ま、その時は背負ってもらいましょーかー。大丈夫ですよ、先輩。何とかなりますって」



そう笑って、



「うめー! つかおかわりありかな?」



もきゅもきゅ食べてる火神君を見る。



「あれ? いんないんだったらもっていい? ですか?」



その言葉を待っていたと言わんばかりにステーキが集められる。
見てみたいとは思っていたけど、実際見るとヤバイ。肉を食べるのじゃなくて、何かこう、肉が削られているように見える。
時間制限があるわけでもないのに、人が食べる速度とは思えない速さで消化されていく。ありえん。
というか、コイツ、普段どうしてんの、っていうね。食費もだけど、エンゲル係数どうなってんの、って思う。

火神君の活躍により、ステーキは見事片付けられた。
店長の「二度と来んな!!」という涙声をBGMに全員帰路につこうとする。



「じゃ帰ろっか! 全員いる?」

「点呼ー。いーち、にー、さーん、アルカリー」

「何言ってんだ?」



ツッコミを待つ前に、火神君が首を傾げてくる。しかし元ネタを説明するのも面倒なので無視する。



「おい、あるかりってなんだ?」



前言続行。馬鹿にかける言葉なんてないのだ。



「…あれ? 黒子は?」

「いつものことだろー。どうせまた最後尾とかに…」

「だからあるかりって…。いや…マジでいねぇ…ですよ」

「…え?」

「あ、本当にいない、っぽいね」

「え、ちょ、さ、探すわよ! 探して!!」



そうして一同、黒子探索に駆り出される。が、これって実はかなり難しいミッションじゃないかと思う。だって相手は影の薄いというかむしろ能力ステルスじゃねーのっていう黒子君である。無茶だと思う。そのことに気づいていないのか、みんな一生懸命探している。
とりあえず、私としては、どこかはわからないが、バスケットコートのある公園? にいるのは知っている。けどまぁ、所在地は知らんのでどうすべきなのか悩むところである。
姉さん達についていくだけである。
だらだらと歩いていれば、前方にコートらしきものと、背の高い人が二人見えた。



「あっ!! いたー! もう!!」



ようやっと見つかった黒子君に、姉さんはご立腹のご様子で。黒子君に海老反り固め(だったかな?)を仕掛ける。黒子君は苦しそうに、片手を上げてロープを求めているようだ。その手を取り、助かったような顔をしている黒子君に向けて、



「超頑張れ!」



と言って親指を立てておいた。