マネ()デビュー
海常高校との練習試合において、私は何をすべきなのか。
いつもやっているような仕事が出来るわけでもない。ただぼーっと試合を見ているのか。それもどうなのか。
とりあえず、持っていく救急箱の中に包帯を余分に入れておく。確か黒子君が頭をケガをしてたはずだ。明日の練習試合に備え、電車の時間を調べておいたメモを鞄の中に入れておく。それから、さっき景虎おじさんに借りた三脚も入れる。家にあったビデオカメラと自前のデジカメの充電を確認。せっかくだから記録に残しておこうと思う。それをリコ姉さんに言えば、親指を立て、「いいじゃない!」とのお言葉と、これまでの記録も渡された。あ、私が整理するんですね、と。部室に置いてあるかなりの量のダンボールにちょっと辟易した。中には私が手伝ったDVDもある。……そういやたまにダビング作業やらされたよなーと記憶がよみがえってくる。特に推薦で決まって、暇になった頃。確かに暇だったから、やけに編集に凝ったんだよね。
⇔
「おお〜広〜〜。やっぱ運動部に力入れてるトコは違うねー」
神奈川にある海常高校は、新設校のウチと違って新しさはないが、いい感じに年代を重ねた雰囲気を感じることができる。
「火神君、いつにも増して悪いです目つき…」
「るせー。ちょっとテンション上がりすぎて寝れなかっただけだ」
「…遠足前の小学生ですか」
火神君の目が少し充血している。背が高いうえに、そんな目で見られたら怯む。今日は一度も火神君と目を合わせてないから関係ないけど。
「どもッス。今日は皆さんよろしくっス」
シャラっと爽やか()に現れた。勝手に敵対心を持っている火神君が大きな声を上げる。
「黄瀬…!!」
「広いんでお迎えにあがりました」
しかしそんな火神君をシャラっと躱して、後ろの黒子君に駆け寄る。
「黒子っち〜。あんなアッサリフるから…毎晩枕を濡らしてんスよ、も〜」
だう〜、と涙を流して黒子君に縋る。笑いをこらえるため、口を抑えておく。
「女の子にもフたれたことないんスよ〜?」
「…サラッとイヤミ言うのやめてもらえますか」
「だから黒子っちにあそこまで言わせるキミには…ちょっと興味あるんス。「キセキの世代」なんて呼び名に別にこだわりとかはないスけど…あんだけハッキリケンカ売られちゃあね…」
別にあんた等二人の小競り合いなんてどうでもよく、私はそろそろ荷物を降ろしたい。そこそこの移動時間に、肩にかかる負荷が……ね。
「あ、ここっス」
「…って、え?」
もちろん私は知っているが、用意されていたのは片面コートである。しかもゴールは年季入り。……これから破壊される運命のゴールさんに心の中で黙祷。
「ああ来たか。ヨロシク。今日はこっちだけでやってもらえるかな」
海常の恰幅のいい監督さんに、姉さんは苦々しい顔をしながら、
「こちらこそよろしくお願いします。…で、あの…これは…?」
と挨拶。口元が引きつっている。
「見たままだよ。今日の試合、ウチは軽い調整のつもりだが…出ない部員に見学させるには学ぶものがなさすぎてね。無駄をなくすため他の部員達には普段通り練習してもらってるよ」
なんてことを言われるもんだから、部員全員カチンときているようで、姉さんに至っては女子とは思えないほどの怒りマークが浮き出てしまっている。
もう、私は笑いをこらえるのに必死で、でも前みたいに体調悪いと勘違いされたくないから皆から背を向けて、割り当てられたベンチに荷物を整頓していく。
「オイ、誠凛のみなさんを更衣室へご案内しろ!」
いつの間にか黄瀬君らとの挑発合戦が終わってたようで、ぞろぞろとみんな移動をはじめる。そして姉さんが喧嘩を売る。あの人血の気多いし。
「あの…スイマセン。調整とかそーゆーのはムリかと…」
負けず嫌いな黒子君と声を合わせて、
「そんなヨユーはすぐなくなると思いますよ」
キャプテンなんか「ご愁傷様ー」なんて顔して苦笑いだ。
もう、私なんて吹き出して笑っちゃったからね。人目が全部あっち向いててホントよかったわ。
皆が更衣室に引っ込んで、体育館に一人残され、「あ、置いてかれた」と思ったけど、どうせ行ってもすることないしと思い直し、素直に三脚の準備に入る。大体、テキトーに「あ、胸を借りるつもりで頑張りますーwww」とでも言っといて、打ちのめし、「あwww勝っちゃったーwwwプギャーm9(^0^)www」の方が絶対愉快だと思うんだけどね。
「それではこれから、誠凛高校対海常高校の練習試合を始めます」
というわけで、火蓋は切って落とされたのである。
END
2013/10/16