マネ()デビュー
















理不尽っていうのを突き詰めて考えていくのももう飽きた。だってどうせ縦社会だし、いくら幼馴染だろうが、あっちは一個上なのだ。逆らえない。



さん、部活一緒に行きましょう」



もう恒例となったその言葉に、振り返ることなく鞄を手にした。リコ姉さんの命で動いていた頃は「さん、部活一緒に行きませんか?」とそれでも遠慮がちに言っていたのに。いやいやよく考えろ。そもそも最終的に私がバスケ部マネージャーをやらざるを得なくなった決定打は黒子くんなのだ。こいつがあんな余計な事さえ言わなければ……本当に悔やまれる。結構恨んでるんだからな、覚えとけよ!!



「お待たせしましたー」

「いえ、じゃあ行きましょうか」



まぁ、そんな心の内は一つも漏らさないけどな!!



























そもそも私がこんな面倒なことに巻き込まれるのは、中学3年の私が暇だったせいであろう。
ご存知の通り、誠凛は去年出来た新設校であり、したがってバスケ部も去年出来た。詳しい経緯は、まぁ実際良く知っているけど、本人たちからは聞いていない。



「ホント、変な親切心出すんじゃなかった」




 ここ、誠凛に来ることを決めたのは中3になる春休みで、そうと決まれば推薦を狙った。成績も悪いはずもなく、内申も優秀・自他共に認める優等生だったから学校推薦でほぼ決まったようなものだった。それに胡坐をかくようなまねはしなかったが。それでも周りに比べれば余裕があった。
中3の五月か六月か、幼馴染がバスケ部のカントクをすることになった、と楽しそうに報告してきたので、学校見学も兼ねて様子を見に行ったのだ。1年の頃の彼らが気になったのも少しあったかもしれない。
そして、気がついたらマネージャーのまねごとをしていたのだ。
リコ姉さんしか女の手はないし、そもそもマネージャーではない。部員数も少ないので、自分の事は自分でやるにしても、地獄のメニューに身体は悲鳴をあげている先輩方を見て……られなかったのだ。何て言うか、手を貸したくなった。ただ、マネージャーなんてしたことないし、バスケも授業でやる程度の知識しか持ってないから、必然的にやれることは限られる。洗濯したり、飲み物用意したり、ボールを磨いてみたり。ただそれだけなのに、凄く感謝される。あの人たちはいい人だな、と思う。私は勉強の息抜きが出来るし、向こうは少しだけど負担が減る。悪いことはない。

何を言おうが、もう今更だけど。

 天気がいいので洗濯から始め、今、ちょうど干し終わった。途中、スキップしてご機嫌なリコ姉さんに会い、今度の練習試合について聞いた。



「海常高校と組んじゃったっ(はぁと)」

「へぇ頑張ってね」

「いや、アンタも来るんだからね」



行きたくない。マネージャーは何をするのか。応援とか? ……やっぱりドラッガーでも読むべきなのだろうか……? でもなぁ……。
 そんなバカみたいなことを考えながら、用意した飲み物を籠に入れて、体育館の入り口をくぐった。



「やっぱ黒子っちください」



ぶ、っと吹き出しそうになった。手を滑らせて籠を落とさなくてよかった。まだ冷静な頭で考えられるうちに、籠を床に置いた。そのままお腹を抱えて蹲る。

ヤバイウケる。まさかこの場に居合わせることになるとは……!
体育館ではシリアスな雰囲気で話が続いてるが、私一人静かに(←ここ大事)大爆笑していた。体育館の入り口に蹲ってふるえる私。どう見ても場違いだ。でもどうしようもない。笑うしかない。だって、「黒子っちください」って!! お前個人の感情で学校どうこうってマジ笑える。



さん?!」



笑っている内に、いつの間にか話は終わっていたようで、私を笑わせてくれた人はもうお帰りになられるようだ。そこで、入り口で腹を抱えている私を皆認識したのだろう。そして、体調が悪いと勘違いしたみたいだ。何か知らんが、黒子くんが走り寄ってくる。近づいてくる黒子くんの顔が何だか青い。え? 何々?



さん、大丈夫ですか?」



座りこんでる私の傍に駆け寄って片膝をついて、



「ちょっと顔色悪いみたいですよ……あぁもう黄瀬君に構ってたから……保健室行きましょうか?」



え、何か、え?



「いや、えっと、大丈夫。体調悪くないから、うん。特に突っ込まずに放置してくれて構わないから。ほら、練習戻っていいよ」



そうやって手を振れば、リコ姉さんがため息をついて(いつの間にか私が囲まれてた!!)、



「……ならさっさとそこから退きなさい。入り口塞いでるんだから」



ちらっと、入り口を見る。堂々と真中に自分と籠が陣取っている。次に、ここを出ようとしてる人を見る。結構見上げた。目が合った。うげ、なんて思いながら愛想笑いでへら、っと笑ってそそくさとその場から動いた。
どうやら私は、万人から見て大爆笑をこらえているとは見えなかったようだ。移動しても、何か凄いみんなに心配される。終いには帰った方がいいのではないか、と日向先輩が言いだした。きゃ、きゃぷてん!



「い、いえ! まだ仕事終わってないですから!! それにホント、本気で大丈夫です! 心配させてすいません!!」

「本当ですか?」

「本当、大丈夫。問題ないから」



その後、事あるごとに黒子くんをはじめとし、皆して体調を気にかけてくれた。もう、今度から紛らわしい笑い方はしないようにする。絶対に。


2013/10/06 up...