秘密の話














ついにマネージャーとしてバスケ部に入部してしまった。何というか、やっぱり神の見えざる手()によって巻き込まれるハメになっているのではないだろうか。そんな気がする。やっぱり、心細いからといってリコ姉さんを頼り、誠凛に入らなければよかったのだろうか。
正直、例えば都内の高校で、秀徳に行ってたとすれば、バスケに関わることはなかったと思う。今私がこんなことになっているのは、90%リコ姉さんの存在に依るだろう。後の10%は中学生の頃の私のせい。実は、進学先に秀徳という選択もあった。けど、どうにもピンと来なかった。


体育館に足を踏み入れたとたん、ぐい、と腕を引っ張られたかと思えば、床に座らされ、右手にペンを握らされる。床には入部届けの用紙が置いてある。



「書けv」



言ったのは、まさかの日向先輩(クラッチタイムなう)だった。素直に「はい」と頷いて、しっかり名前を書いた。



「よし、いいわ」



リコ姉さんはどこからともなく印鑑(印)を取り出し、捺印した。きっと母さんに借りたんだろう。「これ、おばさんに返しといて」って言われたから。



「さぁ、全員揃ったわね。黒子君達は早く着替えてきてちょうだい」



リコ姉さんによって軽く紹介された後、前やっていた時と同じように仕事を開始する。
ボトルを洗って消毒液につけ、スコアボードをセッティング、ドリンクを作成、余った時間はボールを磨きながらリコ姉さんと雑談。今日は雨だから、部員は体育館の中を走っている。キャプテンの声がよく聞こえる。
リコ姉さんとの雑談内容は、練習メニューについてだった。どうにも姉さんは私と二人で仕事を分ける気らしい。言われたのは、外周についていけ(チャリで追いかけ回せと笑顔で言われた)とか、メニュー構成に付き合えとか、そんなん。後は、データ整理くらいだろうか。
どうにも、姉さんは私をマネージャーというよりは助カントクとして使おうとしているらしい。高校に入る前から事あるごとに言われ続けてきたが、……無理があるぞ? だって私、未だにルールとかわかってないとこあるよ? 先輩方は快く教えてくれるし、カバンの中にはルールブック入ってるもん。私のマネジメント能力ってばかなり低いよ? ほかと比べるの好きじゃないけど、自信持って言えるのは、マネとして底辺ということ。桐皇学園にいる桃井さんとか、世界が違うでしょって感じ。そして、リコ姉さんのような目も知識もない。従って、後継とか無理だと思う。
そう言っても誰も話を聞いてくれないんだけど。一番私を可愛がり、甘やかしてくれる先輩でさえ、これに関しては苦笑いしかしないのだ。その笑いの意味は何なのか。他校に通っている先輩にメールで聞けば、返ってきたのは「知るか」の3文字。……ですよねー。これは聞く人を間違えた。

首から下げた青いホイッスルをいじる。最初に紹介された時、先輩方からのプレゼントということで、リコ姉さんのものと色違いでお揃いのものをいただいた。
伊月先輩が「もしかしたら渡せないかもってヒヤヒヤしてたんだ。渡せてよかった」と胸を撫で下ろした時は少しだけ罪悪感が湧き上がった。その後、小金井先輩が「3月には用意してたんだー。ちゃんはバスケ部に来るってカントクが言ってたからサー」という言葉には少し物申したかったが。

というか。

新入部員よりも扱いが格段に良いのは何故だ。プレゼント用意とか、おそろしい。
土田先輩がマジバでお祝いにアップルパイでもどう? と言ってきた時は流石に断った。
部活が終わった後、問答無用でキャプテンから缶コーヒーを渡されてしまったし、次の日には水戸部先輩よりお手製のクッキーをいただいてしまった。もちろんクッキーは1年全員で分けた。
全員が食べ物を出してくるあたり、私のことをよくわかっていると思う。正直アメちゃんでも釣られる自信ある。
ここまで徹底されれば、私に断るという選択は出来ない。そもそも、もう届けは出されてしまったのだ。


こうなれば、仕方ない。
私としては、この先、ある程度まで先がわかってしまっているのだが、徹底してそこには干渉せず、彼らを見守っていこうと思う。正直、今までとやることは変わらないのだ。
どうにも、私が立てた人生プランからは悉く外れているが、こういうものだ。マイケル的生活なんてやっぱり創作の話なのだ。
しかしまだ挽回の余地はある。大丈夫だ。







……大丈夫、なんだよね?









END





2013/10/14 up...

少し短いですが。
書いてないけど、メニューは主人公の進言により、3倍になりました。