秘密の話













話さない。これが私が『頭のおかしい子』と思われないようにするための策として幼稚園に入る前に考え出したものだった。
2度目の人生を記憶持ちでスタートさせた私は、まぁ色々大変だった。大いに変人、という意味である。
さらに、前世の記憶だけでもお腹いっぱいなのに、加えて、「この」世界に対する偏った知識を持っていた。正直気持ち悪い。このことに気づいたのは、幼馴染にあたる相田リコに出会ったからだ。
もちろん私はすぐに気がつき、距離をとった。どうしても一緒にいなくてはいけない時は、ほとんど話さなかった。しかし、リコ姉さんはバイタリティ溢れる人で、一目見た時から私を妹と認定し、お姉さんとして様々な面倒を見ようとした。手を引いて公園に連行するなんて茶飯事だった。

私の両親が、年の割に大人しすぎる娘を心配したということもあったのだろう。私は相田家総出で構われた。それは、父の仕事の都合で北海道に引っ越すまでずっと続いた。

北海道にいた頃の私はやっぱり大人しい子だった。内心ではもちろん大人しい訳もなく、罵詈雑言が飛んでいることもあった。中学生になる年、父の任期が明け、再び東京の家に戻った。

そこでリコ姉さんとの再会を果たす。そして、時期を同じくして、私に構う人が増えた。

なまりや方言でからかわれる私を、リコ姉さんや日向先輩・伊月先輩が目を光らせ守ってくれていた。私はバスケ部というわけではないが、よくリコ姉さんの家の手伝いにジムにいたので、その伝手だ。

バスケに関わる気なんてさらさら無かった。『黒子のバスケ』という作品は好きだが、それだけだ。今、ここでは彼らは紙の上のインクなんかじゃないのだ。それが怖かった。
けれど、あまりにも先輩達が優しくて、楽しかったから、私が立てた策は崩壊した。元々話す方だったし、話すことは好きなのだ。つまり、はっちゃけた。

とは言っても、それは一部だけの話だ。

相変わらず、バスケにあまり関わりたくないし、ボロが出たら困るから人と話したくない。
だから、とてもじゃないけどバスケ部マネージャーなんてやれると思えない。
姉さんや先輩達がバスケ部に入れと言ってくるのは、私のためを思ってのことなのはよくわかっている。人と交流したがらない私を心配しているのだから。よくリコ姉さんは私の世界を狭すぎると苦言を呈していたのを思い出す。そんなことは、もちろん自分でも自覚していた。
けれど、私がそうなったのは、全て私がまともだと思われて生活するためだ。どっかの錬金術師じゃないんだけれども、等価交換ということだ。そして何より、世界を広げてもれなくついてくるリスクを回避したかった。

勘違いしてほしくないのは、私が人嫌いということではないということだ。
そんな事は全くない。話しかけられれば、笑顔で応えるし、話しかける時だって笑顔だ。当然である。
よく言われるのは「さんって知らない人への方が人当たりいいよね」である。つまりは外面がいいと言われるのだ。間違ってはいないのだけど、ちょっとだけ違うと私は思っている。仲良くなればなるほど、私の異常な部分に気づかれやすくなっていく。知らない人であれば、まず気づかれないし、もし知られたとしても、別にどうでもいい。


体育館に連行されている時、黒子君に聞かれたのだ。



さんって、実は会話をするの好きですよね」

「あぁ、うん。そうだね」



突然話しかけられ、一瞬誰に言ってるのか理解できず固まったが、すぐに私に言ってるのだと分かり、返事を返せた。他の一年はぽかんとしている。



「それなのに、どうしてあまり人と距離を取ろうとしてるんですか」

「……どうして、か?」



それはもちろん、答えられない。というか言えるかそんなん。
一歩程前を歩いていた黒子君が肩ごしに振り返った。



「もちろん、私はきちんと明確な答えを持ってはいるけど、それを人に理解できるように説明するのは無理だと思うよ」

「……そうですか」



わけわかんねぇ、と降旗君が呟いたのが聞こえた。



「では、いつか教えてくださいね」

「ははは」



そんな日一生来ないだろうよ。

ようやく前に体育館が見えた。
少しだけ隙間の空いているドアから明かりが漏れている。あぁ、来てしまった。
きっと何かしらネチっと言われるのだろう。それは嫌だなぁ、と思う。

黒子君が扉を開けた。



さんを連れてきました」





2013/10/15 up...

せっかく書いたのに全消しして上書き保存しちゃってモチベーション下がった。
最初に書いてた会話とか思い出せなくって……後半は雰囲気です。まぁでも方向は間違ってない。