秘密の話









リコ姉さんの襲来により、クラスのバスケ部員はどうやら私をバスケ部に入れる方向で合致したらしい。一番ノリノリなのは、見たところ黒子君だ。行くとこどこでも黒子君が出現しては、先輩方お手製の「来たれバスケ部」的なチラシを突き出される。Dear ちゃん と書いてあるので、本当にお手製だ。たぶん、小金井先輩と伊月先輩だな。ところどころにダジャレが散らばっている。そして乱暴に消されてるのもあるから、日向先輩も関わってるかも。姉さんは直接教室にやってくるので、その前に逃走するようにしている。



「どうしてバスケ部に来てくださらないんですか?」



最もだけど今更な疑問が黒子君から発せられた。
現在、HR後の掃除時間である。私は当番だから教室で箒を手に床を掃いている。が、黒子君は違ったはずだ。そもそも班違うし。



「部活行かないの?」

「今日こそはさんを連れてこいとのカントクからのお達しです」



でないと僕らのメニュー3倍になります。と無表情に言い放つ黒子君から目線をそらし、内心舌打ちした。教室の外で隠れてるつもりの火神君がこっちを伺っているのはそういうわけなのか。他の1年も出入り口でスタンバっているし。
全く……おどしか? 意味ないぞ。喜んでメニュー3倍の道に進ませるぞ?



「カントクや先輩たち、待ってますよ」

「優しい人たちだよね。気を使ってくれてるんだよ」



同じ中学だった先輩もいるし。



「やっぱ去年から知ってて、ある程度私のことわかっている人たちだからかなー、凄く心配してもらっててね。甘やかしてやろうとも思ってるみたいで」

「心配、ですか」

「別に大したことじゃないし、これでも随分改善させられたと思う。今日日人間関係に躓かない人なんていないでしょ? よくある話だよ」



そう言い放つと、黒子君の顔が少しだけ顰められたようだった。
姉さんや先輩たちの心配は、やっぱり私の持つ特殊な事情によるものだけど、まぁ、言ってみればそれの弊害みたいなものだ。
有体に言ってしまえば、ちょっとした嫌がらせだと思う。中学の時、クラスで浮いていて、まぁよく仲間はずれにされていたことを、先輩方、特にリコ姉さんはいじめだと解釈したようだった。
本当に大したことじゃない。始まりは、生活文化や方言・なまりだった。中学入学とともに東京に再びやってきたのだし、しょうがない。
しかし、3年間緩やかに続いたそれに、リコ姉さんは大層心配し、私が中3の時に彼らがバスケ部を作ってからというもの、部を見ていくように勧めてきた。
思えばこの時から勧誘は始まっていた気もする。
その時に手伝いを申し出てしまったのは自分の意思だし、それについて後悔なんてしていないけど。



「他に入りたい部があるんですか?」

「んー、帰宅部とか?」

「……さん」



ゴミを集めてちりとりで回収する。中身をゴミ箱に入れて、終わりだ。



「いや、嘘。冗談だよ」



ほかに入りたい部なんてないから、それを言われると困ってしまう。部活というコミュニティに属するのは、出来れば避けたい。



「どんな事情があるかは分かりませんが、バスケ部マネージャーになってください。絶対に損はありませんよ」



黒子君は人間観察が趣味だというだけあると思う。
私がリコ姉さんの誘いを断り続けている、本当に、家でゴロゴロしたいと思っていたからだ。引きこもっていたい。つい最近、母さんに蹴飛ばされたけど。「暇ならリコちゃんのとこに行って手伝ってきなさい!!」そこは家事じゃないのか。
ウチの家族はどうにも、リコ姉さんが好きすぎるだろう。もう、ほぼ全幅の信頼を置いているものね。



「ですからさん、バスケ部に行きましょう」



黒子君の目を見て、自然とため息が漏れてきた。この目は絶対に諦めてくれない目だ。









END




2013/10/11 up