秘密の話









 同じクラスに、火神君っていうのと、黒子君っていうのがいる。そして、近所に住む幼馴染に、相田リコという子がいる。この時点で、ちょっとあまり大声では言えない秘密を隠し持っている私は、気づいていた。だから、誠凛高校を受けないでおこう、って思ってたんだけど、やはり家から近いっていうのは魅力的だし、何より新設校だから綺麗な学校だし、それにそうそう関わりとかできるわけないじゃーん、と甘く考えてしまったのだ。そう、非常に甘かった。

 同じクラスになった、のも、まぁ、考えられなくもない可能性ではある。想定内の出来事だ、と強がらせてほしい。まぁ、彼らは私とはおおよそ正反対に位置していることだし、委員会も、図書委員を諦めればそれで接点はほぼないに等しい。
ただ、問題が一つある。それは、『見てしまう』ことだ。そう、どうしても目がいってしまうのだ。授業中、休み時間……。だって主人公。火神君はそこそこ目立つから、みんな見る。けど、黒子君は影が薄いから、みんな見ない・気づかない。私だって、意識さえしなければすぐにわからなくなる。例えば、一人で図書室で本を読んでいるときや、登下校でぼーっとしながら歩いているときだとか。でも、黒子君は主人公だから、ついつい。「そういえば黒子君は……」とつい意識して考える。もうこれは、腹立たしいことに、第三者から見たら

「それは恋だよ(ドヤァ)」

って言われるレベル。でも絶対にこれは違う。恋じゃない。強いて言えば、好奇心だ。まことに失礼な話だし、正直気持ち悪いから絶対にバレてはいけない。だってあまり話したこともないのに、好きなものや趣味・一部の過去その他諸々知っているって嫌でしょ。ストーカーか、って突っ込まれても文句言えない。
ただ私もやっぱり無関心ではいられない。授業で黒子君が忘れられてると、つい、手を出してしまう。これも、できる限りさりげなくやってるつもりだけど、如何せん、数が多い。お前呪われてんじゃねーのってレベルで多い。まさかここまで忘れられるものだなんて……黒子君はもっとこう、怒ってもいい気がするのだ。「僕のことを忘れるな!!」って。ただ、この状態があんまりにも続くと、黒子君に気づかれる。それはよくない。まぁ、唯一の救いは、さっきも言ったように、意識してなきゃ私も気づかない、ということだ。
 実は、黒子君は薄々気付いているようだったのだ。『は黒子の存在に気付けてる』ということに。けれど、私が気付けてるのは、本当に、授業中だとか、クラス全体が関わってくるようなものばかり。私一人のプライベートだと、本当に黒子君のことを探そうとしない限り、多分無理だろう。それを黒子君は実際に試して(暇な人だ)みたらしく、数日、私は黒子ドッキリを体験させられた。

 ある晴れた月曜の朝の話である。かったるい朝礼のため、グラウンドに立つ。しばらく足元の土をぼーっと見ていると、空から馬鹿でかい声が聞こえた。
あぁ、あれか、とすぐ上げていた目をまた元に戻した。
本当に、よくやる。リコ姉さんも結構ノせられるタイプだよな、なんて。
そう言えば、高校に入学してからほぼ毎日リコ姉さんから連絡が来る。曰く、『体育館にお・い・で(はぁと)』みたいな。嫌な予感しかしないから、いつも何だかんだと理由をつけて帰宅している。すると、夜家にリコ姉さんがやってきてはぶつぶつと何か言っていくのだ。要するに、リコ姉さんの主張は『バスケ部のマネージャーやって!』である。一つ下で幼馴染で、互いに互いのことを理解している。こんなに使い勝手のいい後輩はいないだろう、確かに。そういう考えに至るのは分かる。だが、よく考えて欲しい。私はバスケにあまり興味がない。接点も、体育の授業くらいだ。ちなみに実力は、成績評価にちょっと支障が出るレベル。リコ姉さんに言っても、『マネにバスケの才能とか全く関係ないから!!』うん、まぁ、その通りだよね。そこは賛同するけどさぁ。
 いつの間にか終わってた宣誓劇に、まわりはちょっと騒がしい。これで本入部イベントは終了、と。何とかリコ姉さんから逃げたいな、なーんて。……甘かった。
その日の放課後、見覚えのあるショートヘアと、背後から聞こえた「カントク……?」の声。
あ、やばい、頭痛が……。頭に手を添えても緩和はもちろんされない。



「迎えに来たわよ、!!」

「マジでか……」



























「本当にさぁ、諦めるって大事なことだと思うよ。少なくとも意志のない人間に強要しようとするのが間違ってるし」

「やったこともないのに、できないなんて決め付けるのは良くないわ。それに、諦めたらそこで試合終了だって安西先生も言ってたし」

「私、スラダン読んでないから……」



数分後には奇妙な集団が出来上がっていた。リコ姉さんによって腕を引かれている私。少し後ろからついてくる黒子君と火神君。一体どうなってるのか、わかっていない顔をしていた。特に火神君。



「あの、さん……」

「気にしなくていいから。本当に。すぐにいなくなるから。部活の邪魔したりしないから」

「いえ、そうじゃなくて、ですね」

「何言ってるの!! 黒子君、火神君、紹介するわね。マネージャーの!! 同じクラスだから、お互い知ってるわよね? の能力の高さは私が保証するわ!!」

「なんて酷い。二人とも信じないでね。ちょっと妄想癖があるみたい、っでっ!」



抵抗を続けてると腕を抓られた。



「どうせ帰宅部でいいやーなんて思ってるんでしょ。ダメよ。そんな風に青春使っちゃ」

「私がどういう青春時代を過ごそうが勝手でしょ。もう、頼むから面倒なことはしたくないんだって。動きたくないんだって。家でゴロゴロしてたいんだって!!」

「またそんなこと言って……」



その後、ぐだぐだといつもの説教じみたお話が続いたけれど、私は完全に無視した。どうせ大したことは言っていないのだ。それに、もう聞き飽きたっていうのがある。



さん。カントクと知り合いだったんですか?」

「黒子君。まぁ……知り合いっていうか……家が近所で、幼馴染なんだよ。本当に小さい頃からの、ね」



だから幼少期の数年間と中学は同じだし、事情もちょっとだけ知っている。まぁ、本当はちょっとどころじゃなく、言えば完璧精神病院行き並みに知ってることもあるのだけど、それはもちろん秘密だ。



2013/10/06 up