母が同担拒否の為、煉獄様には出来るだけ近づいてこないでほしい 幕間 参
朝だというのに薄暗い。耳を澄まさなくとも、雨が降っている音が聞こえる。
昨日から降り始めた雨はまだ止んでいないらしい。
寝返りをうとうとして、体が自由に動かせないことに気付いた。苦しくはないが、何かに拘束されているらしい。
目を開ければ、鍛えられた胸板が見える。少し頭を動かせば、筋肉がしっかりついた腕を枕にしていたことがわかる。
現実逃避はやめよう。
酒が入ったわけでもないから、もうばっちり昨日からの記憶がある。
弟に『帰ってこなくても大丈夫だよ(意訳)』と言われ、そんな事しねーよと思いつつ、煉獄殿に連れられて隣町に歌舞伎を見に行った。まではいい。
演目が終わって、何か食べてから帰ろうという話になったけれど、外に出るとまさかの雨。土砂降り。止む気配はない。
お互い傘なぞ持っておらず、途方に暮れていたのだけど、ばさりと上から煉獄殿の羽織を被せられたかと思えば、手を引かれ少し走った。
たどり着いた先は、小さな旅館だった。出迎えてくれた女将さんは私達を見て、心得たと言わんばかりに色々と世話をしてくれた。こんな土砂降りの雨だというのに、私達の他に客がいない。
風呂を勧められ、煉獄殿は先に入るように言ってくれたけれど、私よりずぶずぶに濡れている煉獄殿を優先すべきだと思い、譲っても煉獄殿は私が先に入るようにとの一点張りだ。見かねた女将さんが『なら一緒に入れば? 湯殿広いから大丈夫だよ(意訳)』的な事を言い、その案を今にも採用しそうな煉獄殿を置いて湯殿に走った。
暖かいお湯は気持ちよかったが、長湯するわけにもいかない。とにかく早く煉獄殿を温めなければ、と急いで身支度を整える。女将さんが用意してくれた浴衣を纏って、案内された部屋には、一組の布団に枕が二つ。
いや嘘でしょ。
いや、女将さんは勘違いをしただけだ。だっていきなり男女二人組が現れたら、そりゃあまぁ恋仲かなんかだと思いますよね。兄妹というには似てないしね、うん。
だから違いますよ、と訂正したのだが、『恥ずかしがっちゃって(意訳)』と全く取り合ってもらえず、煉獄殿を待つ羽目になった。こうなったら風呂から上がってきた煉獄殿からも言ってもらわなければ! と思っていたのだけど。
部屋で大人しく待っていた私の元にやってきた煉獄殿は、話を聞く前に、私を用意されていた布団に転がした。
そこから先はもう口に出来ないし、正直思い出したくない。色んな意味でやっちまったわけである。察して。
嘘でしょ。まさか本当に外泊してしまったっていうかそうじゃない。煉獄殿の顔が見れない。まだ寝ているらしい煉獄殿を起こさないようにこの腕を避けることは私には不可能だけど、このまま煉獄殿が起きるまで腕の中にいるなんてのも耐えられない。夜にあったあれこれを嫌でも思い起こされる。
いやていうか本当にどうしよう。家帰って、母の顔をまともに見れない。まだ帰ってくるには日にちがあるけど、時間が解決してくれる問題でもないしどうしよう。……お風呂入りたい。でも体のあちこちが怠いし痛いし。何だか泣きそうだ。何で昨日の私煉獄殿と出掛けちゃったの。