母が同担拒否の為、煉獄様には出来るだけ近づいてこないでほしい 参









所謂ドルオタといわれる両親の元で育った弟妹は須らく同じ道を辿った。私も同じようになれれば苦労することもなかっただろうに、悔やんだところですぐに推しが出来るわけでもない。
そうなりたいかどうかは別として、好きな人たちを応援するその楽しそうな姿は素直に羨ましく思う。そうなりたいかは別だけども。
まぁ、母みたいに過激派でもないので穏やかにファン活動をしている分には特に何か言う事もない。いや、母に言えることもないんだけども。
母の過激派同担拒否には父以外みんな被害にあっている。特に妹はそのミーハー心によって煉獄殿の姿を見ただけで悲鳴を上げて逃げようとするくらいのトラウマを植え付けられている。


さて、先日、その件の煉獄殿より簪のお土産を頂いたわけだが。
これが中々に使い勝手が良くて重宝している。元々こう、しゃらしゃらとした飾りのついた物が好きなので、気に入って使っている。もちろん、母には誰に貰ったかは言ってない。事情を知ってる弟妹にはもの言いたげな目を向けられているが、その真意はわからない。



! 先日文にも書いたが、隣町に歌舞伎を見に行かないか!」



この日、母は実家の母、つまり私にとっての祖母が先日ギックリ腰をやってしまい、その祖母の世話をするため、昨日から家を空けている。
訪れた煉獄殿に、母の目を気にすることなく接することが出来、我々姉弟は気持ちも軽やかに迎え入れた。母は一週間はいない。母の目はないが、触らぬ神に祟りなしなのか、妹は店の方に籠りっきりになった。



「あー……煉獄様、お誘いは有難いんですが……その、」



母はいないが、呉服屋の方は妹が入ってるし、弟もいる。店は忙しいわけじゃないし、特にお世話する隊員も訪れていない。強いて言えば煉獄殿がいらっしゃるくらいか。
誘いに乗れるが、まぁ出来れば母の被害に遭いたくないから、ご遠慮したいのだけど。ご遠慮したいがご遠慮するいい断り文句が浮かばない。ぶっちゃけ現在私は暇していたからである。というか今気づいたけど、煉獄殿ってばちゃっかり私を呼び捨てにしてんな。



「いいんじゃない、姉さん。夜までに……あ、まぁ煉獄様もいらっしゃるし、母さんが帰ってくるまでに帰ってくればいいよ」
「いや、隣町に行くだけじゃない……」
「では行こうか!」
「え、あ、行くとは言ってな……」
「そうだ姉さん、最近新しく着物と帯を仕立ててたよね。せっかくだし着て行けばいいよ」



どうしてこうも弟は積極的に煉獄殿と出かけさせようとしてるんだ。あ、わかった。煉獄殿の世話を全部私に丸投げするつもりなんだ。下手にかかわりたくないからって。
二人がかりで言いくるめられて、渋々着替えに戻る。



「そうだ。今日は土産としてこれを持ってきたんだ。帯に合いそうなら是非つけてくれないか?」



そういって渡されたのは綺麗な帯留めだった。……何だかちゃくちゃくと贈り物が増えていくな……。
着替えを済ませ、煉獄殿のいる部屋まで急ぐ。



「あのさぁ姉さん……」



その途中で弟に呼び止められた。



「母さんもいないから言うけどさぁ。既成事実作っちゃうのもありだと思うよ。あの母さんが素直に結婚を認めてくれるとは思えないし。母さんのいない今が好機だよ」
「……は? 結婚……?」
「柱の祝言なら、同じ柱も出席するよね。……蟲柱様ももちろんきっと出席されるよね。新婦の家族だし、お話する機会もあるかも。鬼殺隊の隊服以外の服装が見れるかも……!」



懐から取り出した蝶の簪を眺めながら話す弟に引いた。何言ってんのコイツ、って感じ。何でいきなり結婚の話になっているのか全く分からない。
待たせるのも悪いし、弟を置いて煉獄殿のところに急いだ。



「お待たせして申し訳ありません……」
「いや、そんなに待っていない! あぁ、よかった。帯留め使ってくれたのだな。それに……この簪も、本当によく似合っている!」
「あ、ありがとうございます。この簪、使いやすいので……」
「贈った甲斐があるというものだ!」



では行こうか! と手を取られ引かれる。
本当にここに母がいなくてよかった。