三度目の人生、多分前世の夫が仇敵っぽい 2








正直に言って、柱にマトモな奴はいない。と思ってる。
もちろん、鬼殺隊としての仕事はこなす。全員そこに疑いは持っていない。だけど、例えば日常生活の中で仲良くしたい人種かと問われれば、私は全員嫌だ。
だから、半年に一度行われる柱合会議にはなるべく遅く、誰よりも最後に到着するように心掛けている。早く着いて他を待っている間に会話をするのが億劫だからだ。ただでさえ、会議中ですら精神的に苦痛なのに。いや、会話で済めばいい方だ。柱ともなると、中々同じレベルで競う相手がいないことから、すぐに鍛錬だの手合わせだのと血気盛んな奴らばっかりだから、それに巻き込まれるだなんて堪ったもんじゃない。

行きたくないなぁ、と思っていても足は動かさなくてはならないし、動いている以上、目的地には到着する。
そこには8人の柱と、地面に転がされている男の子1人、隠が1人いた。伊黒は木の上にいるし、冨岡は1人離れたところに立っている。不死川はまだ来ていないようだ。他の柱は転がっている男の子を囲むように立っている。あの転がっている男の子が今回議題の竈門炭治郎なのだろう。傷だらけで気を失っているようだ。



さん、お久しぶりですね」



一番最初に声を掛けてきたのは蟲柱である胡蝶だ。彼女と、恋柱である甘露寺とは女同士であること・年も近いことからまぁまぁ話すことが多い。
そのまま胡蝶が那田蜘蛛山で見た事を話し始める。竈門炭治郎が鬼である禰豆子を連れ歩き、庇っている事。冨岡義勇が禰豆子を殺そうとした胡蝶を妨害した事の2点だ。
話を聞いている間、隠が竈門炭治郎を起こそうとしている。さっさと起きろ、柱の前だぞ、と。
目を覚ました竈門炭治郎は、状況が飲み込めていないようだった。



「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ。竈門炭治郎君」



そう胡蝶が言うものの、どうせほぼ全員が処刑を望むに違いない。那田蜘蛛山で庇いたてをしたという冨岡も離れた場所に立って我関せずといった表情だ。いや、実際何を考えているのか普段から分からないから本当のところどうなのか分からないけど。



「裁判の必要などないだろう! 鬼を庇うなど明らかな隊律違反! 我らのみで対処可能! 鬼もろとも斬首する!」
「ならば俺が派手に斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」
「あぁ……なんというみずぼらしい子供だ。可哀想に。生まれて来たこと自体が可哀想だ」



ほらやっぱり。まぁ、今まで鬼を庇う人がいなかった訳じゃないけど、例外なく喰われてたから、鬼とみればさっさと殺してしまいたいという気持ちも分からないでもないけど。



「まぁ待ちましょう。まだ本人の言い分も聞いていませんし、肝心の鬼すら見ていません。判断を下すには早計すぎるかと」
! 君はそういつも何かと慎重すぎる! 純然たる違反という事実が既にあるのだ。充分ではないか!」



煉獄がそういうが、隊士にはもれなく鎹鴉がついているのだ。お館様が今日までこの事実を知らなかったとは思えない。恐らくきっと容認しているのだと思う。



「裁判だというのなら、被告の話を聞いた上で判決するべきだと言ってんですけど」
「だから裁判の必要がないと……!」
「そんなことより冨岡はどうするのかね」



煉獄と話している途中に伊黒が横槍をいれてくる。



「拘束もしてない様に俺は頭痛がしてくるんだが。胡蝶めの話によると隊律違反は冨岡も同じだろう。どう処分する。どう責任を取らせる。どんな目にあわせてやろうか」
「まぁいいじゃないですか。大人しくついて来てくれましたし、処罰は後で考えましょう。それよりも私はさんも仰ったように、坊やの方から話を聞きたいですよ」



そう言われて顔を上げた竈門炭治郎の口からは言葉が発せられることは無く。胡蝶が鎮痛剤入りの水を飲ませてようやく話せるようになった。
妹が鬼になった事。鬼となって2年、人を食べたことが無い事。そしてこれからも人を傷つけることはしない事。
だけどやっぱりどの柱もそれを鵜呑みにはしない。私自身、そんな事を言われて信じられるわけもない。竈門炭治郎はそれでも必死に声を上げて鬼になった妹の弁護を重ねる。



「あのぉ、でも疑問があるんですけど……。お館様がこのことを把握してないとは思えないです。勝手に処分しちゃっていいんでしょうか? いらっしゃるまでとりあえず待った方が……」



甘露寺がおずおずと言い出せば、柱達も一旦黙った。
けど確かに甘露寺の言う通りだと思う。何よりこの本部に連れてくるよう指示を出したのはお館様と言っていい。ならばお館様の話を拝聴してからの方が間違いがないと思う。



「妹は俺と一緒に戦えます! 鬼殺隊として人を守るために戦えるんです! だからっ」
「オイオイ何だか面白いことになってるなァ」



あぁ、これで柱が全員揃った。
不死川が何やら箱を片手に現れる。後ろにいる隠や怒っている胡蝶を見るに、きっとあの箱の中に鬼になった妹・禰豆子が入っているのだろう。



「鬼が何だって? 坊主ゥ。鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ? そんなことはなァ、ありえねぇんだよ馬鹿がァ!」



そう叫ぶと箱に日輪刀を突きさした。箱からは血が零れる。
あまりにも突拍子無く酷い。



「俺の妹を傷つける奴は柱だろうが何だろうが許さない!!」



そう言って手を拘束されたまま飛び出した竈門炭治郎が、不死川に頭突きを食らわせた。
甘露寺は思わず吹き出してしまったようだが、まぁ確かに笑えなくもないが、そうじゃない。
冨岡が横から口を挟んだとはいえ、風柱である不死川に一撃をいれたのだ。



「これは、中々……」



面白いな、と思わず拍手を送ってしまった。甘露寺に向けられてた視線が今度は私に向いたので手を止める。



「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら柱なんてやめてしまえ!!」



今にも立ち上がり飛び掛かりそうな、鼻から血を流している不死川を何とか笑わないように、転がっている箱を立てて、肩ひもを竈門炭治郎に向けて渡した。戸惑いつつも竈門炭治郎は握った。



「てめェ、、何のつもりだァ?」



不死川はこの際無視して、竈門炭治郎と目線を合わせるために前にしゃがみ込んだ。



「初めまして。私は鬼殺隊・夜柱のです。よろしくね」
「え。あ、はい。竈門炭治郎です……」



戸惑ったように、でもしっかりと名乗り返す竈門炭治郎にニッコリ笑い返す。



「いいかい、竈門炭治郎。私達柱はこれまで多くの鬼を目にして、倒してきた。君がこれまで遭遇した鬼の何倍もの数だ。そしてそれらの経験を踏まえ、人を襲わない、ましてや守る鬼など見た事が無い。例外なく、だ。善良な鬼など存在しないと思っている。そして何より竈門炭治郎、君とは初対面だ。君がそうやって必死に言葉を重ねて妹を守りたいという想いは伝わらなくもないが、君に対する信用というものがないので、そっくり信じる訳にもいかない。分かるね? 君は今、この現状を打破する為には根拠を。君の妹である鬼の禰豆子が人を襲わないという根拠を示さなくてはいけないわけだ。……君にとってこの裁判は大変に理不尽である事は勿論考慮させていただくけれど。納得のいくものを示してもらわないと、君を弁護することすら出来ないよ」
「何ふざけた事抜かしてんだ!」
「不死川こそ、ただ殺してやるだの死ねだの繰り返したところで何も話は進まないでしょう。現状これまで2年間ではあるが人を襲っていない鬼がいるという情報があるのなら、それを精査しなくては。ただ鬼を殺し続けるだけではこの長く続く人間と鬼との戦争は平行線のままだ」
「てめェはまた、そう減らず口を叩きやがって……! 鬼は殺す! そういう組織だ!」
「だからそれでは」
「お館様のお成りです!」



凛とした子供の声に、姿勢を正して跪く。



「よく来たね。私の可愛い剣士たち」



お館様の顔を見る度に、私は前世の夫を思い出す。