辞書も教科書も役立たず
男子三日合わざれば刮目して見よ、とはよく言ったものだが、三日どころじゃないくらい会わなかった場合、どれほど刮目するべきなのだろうか。
イタチが長期任務から帰ってきた。何の任務なのかはもちろん知ったことではないが、噂によれば中々にハードなものだったらしい。久々に見るイタチは、帰還後一日も経っていなかったからなのか違うのか分からないが、まぁ確かに疲れているように映った。
「うーん……少し痩せた?」
今日は非番で、一人で甘栗甘で優雅なティータイム(笑)を過ごしていた。つい数分ほど前にサスケがやってきて、「あれここ甘味屋なんだけど、どうしたの」って目で見ていたら、「兄さんが帰ってきた」とだけ言って去っていった。何だ? と思っていたらイタチが現れたから。
あぁそう言えば「おかえり」と声をかけていないなぁ。でも一目見て痩せたなーと思ったから。
「やつれた、って感じじゃないんだけど……。引き締まったっていうのかな? 元も悪くなかったけど」
「」
「うん」
まぁ座れよ、と向かいの席を進めるが、緩く首を横に振った。少し疲れたように眼を閉じ、また開いて、
「ただいま」
「うんおかえり。お疲れ様でした」
そう言えば少し微笑んで、「あぁ」と頷いた。
「任務に出る前に、言ったこと覚えているか」
「……。話があるんだよね」
「あぁ。……出れないか?」
ちら、っと私の前に置かれている皿を見る。もう空なのは一目瞭然だ。それを見てイタチも促しているのだろう。
「いいよ。行こうか」
どこに連れて行かれるのかは知らないけど。
甘栗甘を出て、イタチと歩く。しばらく歩けば、人通りのない橋の真ん中で止まった。
すぐ下に水が流れている。
ここは、そうだ。
原作でイタチ達とカカシ先生やアスマ先生、紅先生なんかが戦ってた場所だ。ここでは起こらなかったけど。
つい先日、自来也様と修行の旅に出ていたナルトも帰ってきていた。ナルトの成長っぷりと来たら、心身ともに半端ない。身長もついに越されてしまった。
ここでする立ち話ならば、そんなに長引かない話なんだろうか。
任務に立つ前に、「帰ってきたら、話がある」なんて重々しい口調で言うもんだから、これは一体何のフラグだ、と思ってドキドキしてたというのに。
さて、この橋のど真ん中で立ち止まって、しばらく経つが一向にイタチは口を開かない。いや、正確に言えば、何か言おうとして口を開いてはいるが、思い直してまた閉じる。その繰り返しだ。何だ。相当言いにくい話なのか。
……そういや21歳といえばイタチの死んだ歳じゃないか。まぁ、サスケとの戦闘でそうなったんだけども、病気もしてたんじゃなかったっけ。いやでも見る限り健康そうだったけどなぁ。ミカドからもイタチが病気だなんて聞いてないし。
まぁいいか。何の話だかわからないけど、どうせ今日は暇なんだ。時間はたっぷりあるんだし、とことん付き合ってやろう。逆にここまで何かを言いづらそうなイタチも珍しい。橋の欄干に寄りかかり、イタチの言葉を待つ。もう何分でも何時間でも待とう。そう思ったけど、そんなに待たずに済んだ。音もなく私に近づいたイタチを見上げる。
あぁ、これは何か言ってくるな、と。何かを決意したような目をしていた。……決意?
いや待て、ホントにイタチってばどんな話してくるつもりなんだ?
「」
「うん」
イタチが拳を握ったのが見えた。
「ずっと、好きなんだ。結婚してほしい」
ごめんなさい、こんな時、どういう顔をすればいいのか、わからないの。
違う。馬鹿。某綾波さんの真似してる場合じゃない。
え、マジで?
笑えばいいと思う? 違う某シンジ君の真似も必要ない。
いやでも待って。ホントにどんな顔すればいいのか。っていうか今私どんな顔してる?
あぁ、もういつまでも黙ってちゃ駄目だ。返事しないと。あぁでも何て答えれば。
「…………」
待ってイタチ。そんな切なそうな哀しそうな顔しないで。罪悪感が芽生えてくるから。
「ず、随分すっ飛ばしてるね……」
バッカそうじゃないでしょいや確かに少しはそう思ったけど! 付き合ってもねーじゃんって思ったけど!! あぁもうこれで「はい」って返事しにくくなったじゃないか。こんなとこでツンいらないでしょ。私ツン属性ないはずなんですけど。これで「べ、別にあんたのこと好きじゃないんだからねっ」なんて言おうもんならツンデレ確定だよ。ほぼ確だよ。
……ん? あれ、ちょっと待て。何、私「はい」って返事するつもりだったの?
いや、そりゃあ最初にフラグ立ったとき恋愛フラグを疑ったよ。でもイタチだしなぁと思ってだな。え、これフラグ……。サスケが知らせに来て、じゃあもうすぐイタチ来るかもって思って化粧直したしさっさと皿の上のものも片付けてて……。うっわ私これ確定じゃん。めちゃくちゃ期待してるじゃないですかやだー。
途端、顔に熱が集まって、赤くなったのがわかった。から、急いで下を向いて顔を隠した。
「?」
「ちょ、ちょっと待って……」
こ、声も上ずってますよ! あぁもう駄目だ。思わず手で顔を覆う。耳まで赤くなってるんじゃないだろうか。もう隠せるものないんですけど。今日の服にフードとか付いてないし……。
ちょ、もう……!
「ご、ごめんなさい。こんな時、どういう返事すればすればいいのか、わからないの」
ごめん。某綾波さんパクった。自分の言葉出てこない。
END
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この話で最後にしてもいいくらいのつもりで書いた。
2015/02/21