紙っぺら一枚の質量








仕方なく走り出して、どこに向かうべきか考える。
ナルトの好きなラーメン店だって知ってるし、よく遊びに出かけてた公園も分かってる。けれど、逃げこむ先なんて見当もつかなかった。ナルトの行きそうなところ。
何年も一緒に暮らしてきた。私なりに面倒もしっかり見てたつもりだ。いつか一人になっても問題なく暮らせすように家事は叩き込んだし、せがまれれば忍術の稽古に付き合うこともあった。それでも私自身、ナルトに対して放任していたところがあるともちろん自覚している。
それは私の仕事が不規則だからという理由だけじゃなく、私の性格がそうさせるのでもなく、面倒な記憶を持っているからでもなく、ただ私が年もそう離れているでもない子供に対して持てる責任に自信がなかったからだと思う。
ナルトがアカデミーや街中で腫れ物扱いを変わらず受けていることはもちろん知っていた。それをどうにかしてやろうとしたことが、実はない。度々ミカドに苦言を呈されることがあったけど、いつも生返事で聞き流していた。それらをどうにかしてやるのは私のやることじゃないと思っているからだ。おかげで「お前の血は青いんじゃねーの」というお言葉までいただいた。
けど、けど、言い訳かもしれないけど、私は私なりに家族をやってきたつもりではあるのだ。期限付きかもしれなくてもそれでも、ナルトが私の服の裾を握って離さなかった時から、庇護下に入った時から守ってやろうと。
ナルトの年齢が達するのを心待ちにしている。まだ数年あるけど、でもとても期待しているのだ。もちろんナルトに選択権があるのだけど、その時が来たら、ナルトは間違いなく私とそのまま家族である道を選ぶだろうと疑っていなかった。そう自惚れるくらいにはナルトと上手くやっていたつもりだったのに。
あんな紙一枚での繋がりではなくなったときに、その時こそ言ってやろうと思っていたのに。

つくづく現実というのは思い通りにならない。ならない上に、伝わりにくい。

だから楽しいとか、そんな酔狂なことは今は言えないのだけど。
とりあえず、無事ナルトを見つけて保護しなければ、仕事が終わらない。まだ積まれた書簡がいくつか残っているのに。やらなきゃ終わらない。
それに、面倒なことにイタチとミカドが組んでいる。ないがしろにしたらマジで怒られる。目がマジだったもの。ホント、いつも穏やかな人が怒ると怖いんだから。









































「ナルト」

「……何しにきたんだってばよ」



ようやく見つけた。火影岩の見えるアカデミーの屋上。こんなだだっ広くて何もない場所にいるとは思わなかった。見つけるのに時間がかってしまって、ナルトの鼻の頭が少し赤い。泣いてたからなのか、寒いからなのか判断しづらい。



「姉ちゃん姉ちゃんって言ってた俺を、ずっと裏で笑ってたんだろ、ずっと、ずっとっ!」

「ナルト」

「俺、おれ、バカみたいじゃねーか! あいつらに何言われても姉ちゃんなら、絶対っ」

「ナル君」

「聞いた俺が悪かったのかよ! 分かってたけど、けど!! 血ぃ繋がってないのなんて、そんなの、」

「ナルトは間違いなく私の弟だと、私は思ってるよ」



砂を吐きそうだと思った。何でこんなどこぞの青春物語みたいなことやらなきゃならんのだ、と頭の中では叫んでた。
けれど、ナルトは馬鹿みたいにこういう話が好きだった。



「私には家族っていうのがどういう定義において定められるものなのか、絶対的な答えは出せない」

「……姉ちゃん」

「けれど、私とナルトは姉弟で、家族だと。そう思って暮らしてる。周りもそう認識してる。血が繋がってるだの容姿が似てるかどうかなんてのはどうでもいいことで、まぁ、つまり、分かりやすく言うと」



ぱちくりと目を瞬かせるナルトに、少しだけ笑いが漏れた。全く、半分も私の言葉を理解していないだろう。もっと本を読ませるべきか。



「私とナルトは、確かにあの紙っぺら一枚で繋がってるけど、それが薄い関係だと言うには早計じゃないかと、私は思うよ」

「……何言ってるかわかんねーってばよ。なぁ、姉ちゃん」



この時ようやくナルトが笑ってくれたから、とりあえずは伝わったんだろう、と安心したのを覚えている。これで自分の仕事部屋に大見得切って帰れる。



「私は誰が何と言おうと、ナルトの姉ちゃんなの。分かった?」

「へへっ……、なぁ! 今日は一楽のラーメンな!!」

「こういう場合っていうのは、普通手作りご飯って相場が決まってるものなのに、ちょっとズレてるよねぇ、ナル君は」



安心しきっていたのだ。これでもう、文句言われないだろう、って。それはもう、ドヤ顔でナルトを伴い戻ったのだ。



「じゃあ、悪いけど、俺たちはに話があるから、ナルトは少し待っててくれ」



ニコリと笑ったイタチとミカドに、もちろんいい予感はせず、それは残念ながらナルトには伝わらなかったようだった。
晴れやかな顔をしたナルトを見送り、二人の数時間に及ぶ説教を聞かされ、私はナルトへの接し方を考え直すことを余儀なくされた。








                                       To be continued......









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約2年書いてなかったのか……。
何げに需要があることにアンケートで知りました。





                                 2013/09/01