How?













『どんな忍になりたいか』
帰りのHRにて、先生が突然言い出した課題はこんなテーマだった。土日を使って書いてくるように、という期限付き。



「オレ、すっげーかっこいい忍者になりてぇ!!」

「私はぁ、素敵な……そう、××様のような忍になりたいわ」



クラスメイト達はそんな会話している。そうだ。6歳の子供に書かせる作文だ。渡された原稿用紙は1枚で、先生は半分も埋まればいいと言っていたような気もする。
この課題、私には成し遂げられない・なんて漠然と思った。
『どうして忍になりたいか』『どんな忍になりたいか』……この系統は、私には無理難題だ。

だって、忍になりたいわけじゃないのだから。

とは言っても、書かなくてはならない。がたがたと周りが帰っていく中、一人ため息をついた。















































小学生の頃だろうか。定番で、『将来なりたいもの』とか、そういう作文を書かされたことがあるような気がする。気がするだけで、内容なんて全然思い出せない。
そもそも、もし思い出したところで、中身が『お菓子屋さん』や『花屋さん』だったら意味がないのだ。いや、結局はなんであっても意味はないのだけど。だって職業は『忍』で固定なのだから。

作文を書くため、私はいつものように図書室へと訪れた。大学の図書室のように、一般に公開されてるし、色々な資料があるので、たまに中忍や上忍の姿だって見かけることがある。
いつもの席にいつも通り荷物を置いて、何か参考になりそうな本を探しに本棚に向かった。

だいたい、『どんな忍』って言われても、世の中の忍の種類なんてわからないのだ。クラスメイトが言っていたような、『立派』だったり『かっこいい』だったり、『素敵』な忍というのは、結局どういう忍を指すのか、全くわからない。何ができれば『立派』で、何をすれば『かっこいい』のか。全然分からない。皆目見当もつかない。
いや、正直、6歳児の作文に『将来は○○課の××部に所属して□□というような仕事をうんたら』のようなものは求められてない。ていうかそんなの書く6歳児は気持ち悪いと思う。けど、私はこれからそんな5歳児になろうとしているわけだ。
だって、私には『将来、お父さんのような立派な忍になってみんなからかっこいいと言われたい!』なんて作文、書けねーもん。中身、20歳なんだからさ。周りから変な目で見られようが関係ないよね、うん。しょうがないしょうがない。



「えーと『古法十忍とは、音声忍・順忍・無性法忍・如幻忍・如影忍・如夢忍・如響忍・如化忍・如空忍・如焔忍からなり、それぞれ……』」



分かんね。これ、作文にはちょっと使えない……ような。とりあえず資料の中に加えておく。
抱えてる本が数冊溜まり、重くなってきたところで席に戻った。そしたら、最近よく話すようになった人が向かいに座っていた。
あ、目があった。



「……やっぱり、ここにいると思った」

「イタチ君」



見覚えのある原稿用紙を机に広げた、うちはイタチだった。



「多分、ならここで課題をやるんじゃないかと思ったんだ。……教室でため息ついてただろ、不思議に思って」



見られてたのか。はぁ、とため息をついて席に座る。抱えてた本を机に置くと少し揺れた。



「……出された課題が、難しくて」

なら、こういうの簡単だ、って言うと思ってたんだが」



イタチの言葉に、乾いた笑い声しか出てこなかった。



「こんなテーマで、作文の書き方なんて……分からないよ」



イタチは首を傾げた。



「……イタチ君は、『どんな忍になりたい』? あ、いや、答えなくていいよ。何の参考にもならないのわかってるから。ねぇ、『立派』な忍や『かっこいい』忍って、結局『どんな』忍なのかわからない。こんな抽象的な言葉で修飾されても何の答えにもなってないでしょ」



こんなこと言っても、結局作文は一文字も進まないんだけど。そんなことはわかってるんだけど。



「分からないことばかり。本を読んで、どんな忍がいるのか調べて、私にはどんな性質が合っているのか検討しようと思ったんだけど、最終的にはどれもピンとはこなかった。結局分かったのは、私が『忍』という職業になりたいと特に思っているわけじゃないっていうことだけだった。……これ、6歳が言うことじゃないよねぇ……」



イタチは呆然とした顔で私を見ていた。言っていることが、理解できなかっただろうか。まぁ、あっちは本物の6歳だし、分かってたら、「お前一体何歳なの」って聞かなくてはいけないな。



「……は本当に、難しいことばかり考えているんだな。忍になりたくないのか?」



理解しているらしい。けどまぁ、イタチならアリだ・って思えた。唐突に。だってこの人、7歳でアカデミーを卒業……つまり、来年には卒業するのだから。マジありえん。このチートめ。



「忍になりたくない・って断言したいとは思ってない。それだったらさっさと学校退学してる」



自分で言って、今気付いた。私は、心の底から忍になりたくないと思っているわけじゃあ、なかったようだ。それは私がこの生活を楽しんでいる、ということに相違ないんだろう。



「なれなくてもいい、とは思ってるのかな。……ちょっと分かんない。でも、忍にならなかったときの私を考えたことないなぁ……忍になった自分を考えたことは、あるんだけど。じゃあやっぱり忍になりたいのかもしれない」

「随分、自分のことなのに他人のように話すんだな」



6歳とは思えない、とイタチは小さく笑った。
まぁ、だって。中身は20歳なんだから。でも、イタチだって結構、6歳とは思えない言動・行動してると思う。言わないけど。



「……そうかな」



筆箱から鉛筆を取り出して、原稿用紙に向かった。



「……確かに、難しく考えてたね。たった原稿用紙半分程度を埋めるためにここまで頭悩ませるのも馬鹿くさいし……適当に先生が納得するような文を書いておけばいいだろうな……」

「けど、それじゃ、は納得いかないだろ?」

「……まぁ、それは」



そうなんだけど。



「……納得のいくもの書いたとしたら、先生に書き直しくらいそう。だって、まず先生の言う『どんな忍』という言葉の不明確さの指摘から始めないと、ね」

「とても面白そうな中身になりそうだ。オレはそれ、読みたいよ」



イタチの顔をじ、っと見てみる。やっぱり笑っている。
イタチってこんなに笑顔を見せるキャラだったっけか。



「オレも一緒に課題をやるよ。の作文、書き終わったら一番にオレに見せて」

「え、あ、うん……。あ、いや、けど、土日潰しちゃうよ」

「構わない」



あ、そうなの。
もう、何も言う気が無くなってしまって、諦めてため息をついたら、イタチが笑った。それで私もつい笑ってしまった。



「じゃあ、私、この原稿用紙コピーしてくる。……絶対一枚じゃ足りないからっ」

「何枚書くつもりなんだ?」



可笑しそうに笑うイタチに、私はニンマリと笑って、手を突き出した。



「最低でも5枚以上! かな」








この時に書いた作文(というより、論文に近くなってしまったんだけど)が、1年後の私に多大な影響を及ぼした。つまり、イタチと同じように、7歳でのアカデミー卒業に一役買ってしまったのだ。
もちろんそんなこと、この時の私にはわかっちゃいなかった。後に聞いた話だが、イタチは私の書いたものを読んだ時には、そうなるだろうと思っていたらしい。
教えてほしかった。











                                   END







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ちなみに、作文(論文)の題名は、『忍の役割が及ぼす可能性についての考察』。今適当に考えました。
総ページ数、17枚。先生はこれを提出された途端、顔を引き攣らせたそうです。そうだといいな。






                              2011/09/20