08 / 気持ちも伝わらない








「三日後とはまた……絶妙な」

「どういうこと? 法師様」

「さっき冥加殿が仰っていたでしょう。三日間家にこもり、その後周りに餅を配る。まぁ、三日夜の餅ですね」

「そういうことです。これがまぁ、その、結構強引に執り行ったようで、それについてはあの方も色々思うことがあったようでして」



冥加がそういうと、女性陣は興奮したかのように高い声を上げて息を弾ませた。



「ほんっと、全然殺生丸と結びつかない!」

「本当だよね、かごめちゃん!」



きゃいきゃいとはしゃぐ二人を横目に、冥加はさっさと話を続けていくことにした。

















































どうしてこうなった。
それが今の状況に相応しいと思う。

目の前には、にこにこと(いや、ニヤニヤ、かな)笑う闘牙王さん。その隣には、ニヤニヤ(こっちはもうそうとしか言えない)と笑って私を見てる女の人。聞けば、殺生丸さんのお母さんだそうで。で、私の隣にはいつもの涼しい顔をした(私からすれば今は憎らしいけど)殺生丸さんが座っている。
お屋敷の人にこれでもかと着飾られた私は、もうただただ平伏していた。それもこれも全部殺生丸さんが悪い。
朝からかったるい体を無理やり起こされて、そこにめちゃくちゃ華美に着飾られたことによって、総重量は以前遊ばれた時とは比べ物にならない。動けない私(いや、頑張れば歩けたと主張しておく)を殺生丸さんは無言で担ぎ上げ、すたすたとこの部屋に入ったのだ。
最初に口を開いたのが、闘牙王さん。曰く、「結婚おめでとう」。いや、もう少し違う言葉で小難しく言ってたような気もするが、まぁ中身はこんなもんだった。で、私が反応する前に、殺生丸さんのお母さんが、「殺生丸も身を固めたし、これでもう心配することはないわ」みたいなことを言って、二人で顔を見合わせて「ねー♪」とか、「後は孫が見れたら満足だよねー」……どういうことなの。
隣を見ても殺生丸さんはただひたすらにいつもの顔だ。

何でこんなことになっているのか。いや、わかってる。どうせ原因はこの三日間のことだ。
腹立たしいから思い出したくないが、とにかくずっと殺生丸さんに拘束されてた。何度押しつぶされんじゃねーかと危惧したことか。誰も助けに来てくれないし。
何が腹立つって、私が一切の拒否を許されなかったことだ。そしてそれを甘んじて許してしまったことも。ついでに、



「必要ない」



なんて言って、私がこちらに来た時に身につけていたものや持っていたもの全て処分された。もう、後戻りもできない。
だから今、何一つ口に出して反論することができないのだ。余計なことを言って、さらに余計なことを聞かれるとまずい。非常にまずいのだ。

大体、どうして殺生丸さんはこんなことをしたのか。
後から、あの部屋にまでやってきた女の人が実は婚約者候補であったとか、何か色々地味に嫌がらせをしてきていたことを聞いたのだけど、ぴんとこない。
全部殺生丸さんがシャットアウトをしていた……らしい。見えないように聞こえないように、それはもう「過保護かっ!」ってレベルで。

とりあえず、朝だというのにお酒が振舞われ、お屋敷の人も集まってきて、軽く宴会のようになった。口々にみんな「おめでとうございます」と笑顔で言っていく。
何一つとしておめでたいとは思わない。

どうしてこんなことになったのだろう。
殺生丸さんにだって、こんなことになりそうな兆候はなかった……はずだ。ただ泉に行くのに護衛をしてくれてただけで、恋人だったわけじゃない。
元いたところに帰れるまでお世話になっているだけだったのに。「諦めろ」って。「無理だ」なんて言うのだ。優しく髪を撫でながら。そんなキャラなの、って。態度変えすぎじゃないの、ってあの冷たい声とのギャップにやられた。

この宴会は、今で言う結婚披露宴みたいなものらしいが、私からすれば残念会だ。帰ろうとしたら、もうそれすら無理だろうけど、何が何でも殺生丸さんが阻止してくるだろう。というか本人がそう言ってた。手段は選ばない、と。で、本当に手段を選ばなかったわけだ。結果が今だ。
どうして私を帰したくないのか。友人だから? にしてはこの仕打ち。酷すぎる。じゃあなんだ。一番ありえないと思って、ありえちゃいけないとそれなりに気をつけていた気持ちによるものか。
ないって思ってたのに。まぁ、仮定だけど、説得される理由ではある気がする。今、心の中では私は納得できた。したくなくても。

黙っていれば、向こうが勝手に勘違いしてくれる。いつもよくしてくれる人たちは「部屋に戻りますか?」と優しく声をかけてくれる。けど、その度に殺生丸さんが



「要らん」



とはねのけ、もう十分潰された隙間をまだ埋めようとする。
結果、きゃーらぶらぶーなんて周りが騒ぐのだ。何が目的だ。要求を言え。あ、やっぱ言わないで。

もう諦めたほうがいいのだろうか。














































「……何となく、だけど。さんって殺生丸のこと好きなの?」

「なんか、微妙だよね」

「……お願いですからお名前を出さないようにしてくだされ……!」



冥加の小さい心臓は破裂寸前だ。
小さく咳払いして、気を取り直すように口を開いた。



「まぁ、そうは言われましてもですね、非常に仲睦まじく過ごしておられましたよ」

「うーん……じゃあ今その人どこにいるの、ってやっぱり疑問じゃない?」

「だよね……。死んではいないんでしょ?」

「とんでもない! あの方は生きておられますよ!! そ、そのぉ……」



冥加のその態度に、かごめと珊瑚は何か感じるものがあったようだった。



「ふぅ〜ん? 冥加じいちゃん、何か知ってるんでしょ?」

「言いなよ」

「い、いや! あの! ワシは何にも……っ!」



じりじりと冥加に詰め寄る二人。止めない弥勒。倒れて動かない犬夜叉。その犬夜叉を木の棒でつついている犬夜叉。
人通りのない原っぱで、この一行はとてもおかしなことになっていたが、それに気づいているのは、今のところ弥勒だけであった。





END