05 / 心が取り返せない










「まぁ、その、もちろんですじゃ……」



けれど、きっとこのまま話し続けて、後でそれが殺生丸にバレたらと思うと、中々冥加の口は進まない。
何よりきっと、特に犬夜叉なんかは信じないのだろう、と今まで話した中で感じていた。

冥加も、殺生丸がりんという人間の小娘を連れているのを見たときは、思わず自分の目を疑ったものだ。一体何があったのか、どんなやりとりがあってそうなったのか、冥加にはわからないのだから。

逆に、殺生丸とのことはよく理解できる。疑いようもなく、あの二人はなるべくしてそうなったのだと頷ける。経緯を知っているからだ。そして実際に、見ていたのだから。





















































正直に言ってしまえば、殺生丸さんに「帰るな」とか、「駄目だ」と言われたところで、私にはどうしようもない。だってこっちに来たのも私の意思が関係しているわけじゃないし、きっと帰る時だって前触れもなく帰ることになるんじゃないかと思ってた。

殺生丸さんは、私を引き寄せ、しっかりと抱き込んで「帰るな」発言をした後、さっきまでが嘘のように黙り込んでしまった。
一体どうしてしまったというのか。

というか、私はそれに、何と返せばいいのか分からない。
そもそも何で殺生丸さんがそんなことを言ったのかすら分からないのだから、どうしようもない。ていうかもう寝ようかと思ってたところというのも相まって、若干眠くなってきている。……今思っていいことじゃないよな、これ。

にしても困った。
何て答えればいいのか全く浮かばない。というか下手なこと言えない空気だ。
そもそも顔を殺生丸さんの胸に押し付けられているもんだから、ちょっとしゃべるの難しいんだけど。
……これは、もしかしたら「何も話すんじゃねーよ」というサインなんだろうか。
しかしいつまでもこのまま、っていうのもよくないだろう。
迷いに迷った結果、空いている手で軽く殺生丸さんの腕に触れてみることにした。とりあえず離してほしいな、という意味も込めて。
でもそれは全くの逆効果だったみたいで、巻きついている腕がさらに強くなっただけだった。ダメじゃん。いつまでもこのままでなんかいられないから、何とか力を入れて、顔を胸から離した。
顔を上げれば、殺生丸さんと目が合う。暗い室内において、殺生丸さんの金色の目が輝いて見えた。月よりも明るくて、なんだか眩しく感じて、今にも飲み込まれそうだ。
目が合って、逸らすこともできなくて、何も打つ手がなくてどうしようもなくて。

どうしたものかと、だんだん近づいてくる金色をぼけ、っと見続けていたら、ふいに殺生丸さんが部屋の入り口に視線を向けた。何だ、と私もそっちに目をやる。
衝立に、小さい点のようなものがついている。



「あ、冥加さん」



最近、寝る少し前の時間を使って、このお屋敷のことやこの時代の話を聞かせてもらっていた。そういえば、今日はまだ来てくれてなかったと思い出した。
冥加さんはぶるぶると小刻みに震えているようだった。どうしたのか、と傍に寄ろうとしても、現在私は簡単に身動きを取れる状態ではない。



「ま、」

「ま?」

「誠に申し訳ありませんでした!!」

「え、あ、ちょ」



がみょーん、と冥加さんは飛んで部屋からいなくなったようだった。
さっきまでの雰囲気は霧散したけれど、逆に気まずい。
どう、しよう、か?





















































「ちょっと何やってるの冥加じいちゃん!!」

「ものすっごくジャマ!!」



女子二人は他人のことだというのに、我が身のことのように冥加を非難する。



「で、ですが! ワシあの時ほど殺生丸様が怖いと思ったことはありませんぞ……殺されるかと……」



一方犬夜叉は、あまりの精神的ショックにより、固まっていた。七宝がつついても、弥勒が頭を叩いても無反応である。
自分の知っている兄じゃない。その思いで頭が一杯なのだろう。



「これじゃあ結局どうなったのかわからないじゃないか」

「い、いえ、あの方はほぼ全てを日記に書いておりますので……」

「まぁ、そのおかげで私たちは詳しく話を聞けるわけだけど、やっぱり人の日記を見るのってちょっと……アレよね……」

「確かに……それも女性の日記ですからね……」



ジト目で見られた冥加が目をそらす。



「ま、いっか。それより続き教えてよ!!」

「は、はぁ……」



冥加は、自分の小さな胃が痛むのを感じた。








END