04 / 絶対に許さない








もごもごと口ごもらせる冥加に、犬夜叉一行は首を傾げるしかなかった。
ただ単に、そう、当然とも言える疑問をぶつけただけだったはずなのだ。―殺生丸の奥さんは今どこにいるのか、という至極当然な疑問。
冥加はあー、だの、うー、だのと唸っては手足をジタバタさせている。



「どうしたのよ、冥加じいちゃん」

「んだよ、何かあんのか?」

「じ、実は、そのぉー……ですね、あのお方は……」

「もしや……亡くなられて……?」

「あ、そう言えば、何百年も前だものね……」



かごめはそう言って視線を落とした。同郷かもしれない人が知らない土地で……と思うとやるせなくなる。



「い、いえ、そうではないのですじゃ! た、多分……」

「たぶん?」



冥加は自信なさげにきょろきょろと周りを見回した後、大きなため息をついた。



「正確に言えば……本当のところは分からないのです」

「わからない、というと?」

「いえ、その、この言い方も実は正しくないのですが……ワシには言えないというか……バレたら殺される……」



ぼそぼそと言う冥加の言葉は、最後の方に至ってはほとんど聞き取れない。どんどんと挙動不審になっていく冥加に、犬夜叉一行は首を傾げる。



「そ、そもそもお二人の間には決定的な認識の違いがございまして……そのぉ〜……」

「あ、そうそう。今殺生丸の奥さんが何処にいるかも知りたいけど、どうして結婚したのかも知りたい!」



そうかごめが言い出すと、あからさまにほっとした顔で冥加は語りだす。





















































全然帰れない。帰る兆しすら見つからない。もう、体感で半年くらいだろうか。
殺生丸さんのお父さん曰く、迷い人っていうのは結構すぐ帰れるらしいのだ。こんなに長くいるようなものじゃないらしい。私が長く滞在していることに、「気にせずともよい」だなんていって、笑っているし、お屋敷の人もみんな優しい。
日課の湖通いも続いていて、必ず殺生丸さんが付いて来てくれる。相変わらず口数は少ないが、何となく、意思の疎通を図りやすくなってきた気もする。というか、それ以外にも、お屋敷の中で本を読んだりしているときも必ず近くにいてくれている。
大体は私が一方的に話して、たまに、本当にたまーに、殺生丸さんが一言二言返してくる。そんな感じだった。
一人でいると、お屋敷の人たちに「あれ? 殺生丸様は?」って顔されるくらいには一緒にいたんじゃないかと思う。

第一印象、かなり冷徹な人だと思ってたのに、意外や意外、滅茶苦茶面倒見がいいようだ。いや、私はそれに随分助けられてるから文句なんかないんだけど。そもそも文句も浮かばないし。

ただ、日毎、私の気のせいかもしれないけど、感じるようになったことがある。
毎日、湖に付いて来てくれるけど、滞在時間が初期と比べて短くなっているのだ。私をすぐ屋敷に連れ帰ろうとするようになった、とでも言おうか。それと同時に、殺生丸さんは私に何がしかの禁句を設定しているようにも感じた。多分、「帰る」系の言葉だと思う。それとなく仄めかすと、途端に機嫌が悪くなるから、きっと間違いない。途中に出現する妖怪の退治の様で判断しているのだけど。
一緒に付いて来てくれる人の機嫌を出来るだけ損ねたくないっていうのは、まぁ、当たり前のことで。私はなるべく口にしないようにしてきていた。


だから驚いたのだ。

ある夜の、特にこれといって変わったことなどなかったはずの日の夜だった。
いつもの様に日記も書き終わって、さて寝るかなーという頃、やけに静かな殺生丸さんが訪ねてきて、たった一言。



「帰りたいか」



と聞いてきたのだ。
それはもう驚いた。訳などわからないが、きっと嫌な話題なんだろうと思って避けていたことを、直接聞かされたのだし。
私の思い違いなのか、と少し恥じ入りながら、殺生丸さんを中に招き入れ、



「もちろんですよ」



と答えたのだ。
そうしたら、これでもかというほど強い力で(骨が折れるかと思ったけど、そんなことはなかった)、引き寄せられた。
何か間違ったことを言ってしまっただろうか、と黙っていれば、案外大きい声で、



「駄目だ。帰るな」



と言われたもんだから、いよいよ私はどうすればいいのかわからなくなってしまったのだ。





















































「で! で! どうなったの!!」



もう、かごめと珊瑚は興奮気味で、男たちは若干引き気味だった。



「続き、あるんだろ?」



いつの時代であろうとも、おなごというのはそういうものに興味が深々で、そういえば何百年も前に殺生丸と結婚したも、お館様と奥方様の馴れ初め話に関心を抱き、結構しつこく聞いてきたこともあった、と冥加は現実逃避に走っていた。ほんの数秒ではあるが。
体格にかなりの差があるおかげで、肩を捕まれ揺さぶられたりしていないだけで、女子二人は今にも、と身を乗り出して詰め寄ってきている。

冥加はそれに若干の恐怖を抱きながら、咳払いで自分を落ち着かせるのだった。










END